連載:メタル史 1986年⑩Saint Vitus / Born Too Late 情報編

Doom Metal四天王(Trouble、Pentagram、Candlemass、そしてこのバンド)の最後の一角、USのSaint Vitus(セイント・ヴァイタス)の3枚目のアルバムです。なお、Doom Metal四天王(Big 4)と言われますが、TroubleとSaint VitusはUSで、PentagramはUKですがちょっと年上(本来70年代にデビュー予定だった)、Candlemassはスウェーデンなので、年代的、地理的に離れているため音像的にはけっこう異なる。直接的にもっとも影響を与え合ったのはTroubleとSaint Vitusかもしれませんね。ただ、Troubleはシカゴ(東海岸)なのにSaint VitusはLAのバンド。離れています。Doom Metalはどこか中心地があったというより、同時多発的に盛り上がった、アンダーグラウンドの潮流であり、その黎明期から活動していたバンド達を後の時代に「Big 4」とまとめた、といった形なのでしょう。Thrash Metalは基本的にLAやサンフランシスコが中心であり(AnthraxだけNYで東海岸)、中心地があったのとは別。なお、このSaint VitusはLA出身なのでThrash Metalの影響も受けているかと思いきや、LAでは異端児扱いだったそう(後述します)。地域性というのはライブハウスなどで対バンするし、その都市の「メタルシーン」があるのでけっこう同時代、同地域で聞いていくと共通点というか、「似た空気感」を持っている気がします。そんなLAメタルシーンにおいて異端だったバンド。

Saint Vitusは1978年に結成。メインコンポーザーでありギタリストのDave Chandlerは1958年生まれなので、だいたいメンバーは20歳ぐらいの頃に結成されています。当初はデイブ・チャンドラー(ギター)、マーク・アダムス(ベース)、アルマンド・アコスタ(ドラムス)とボーカルの4人組でTyrantというバンド名。その後、ボーカルがスコット・リーガーズに変わり、1980年にバンド名をSaint Vitusに変更。これはBlack Sabbathの”St.Vitus Dance”(1972年のVol.4に収録)にちなんだもの。当初からサバス的な音楽性を志向していたことが伺えます。
このメンバーで2枚のアルバムをリリースします。この頃のSaint Vitusは上述したBlack SabbathやBlue Cheerのようなダークでサイケデリックなスタイルと、Judas PriestやBlack Flagの攻撃的なヘビーメタルやハードコアのサウンドを組み合わせたものでしたが、当時のLAメタルシーンで人気のバンド達と比べると「時代遅れ」だと考えられていたそうで、 LAのメタル・コミュニティに拒絶されたバンドはパンクロック・シーンに関わっていたそう。
Overkillとのライブ中に 、Black Flagのギタリスト、グレッグ・ギンに見いだされ、彼のレーベルであるSSTレコードと契約しました。チャンドラーの回顧によると「俺たちは当時の主流のメタルとは何もかも正反対だったから、メタルシーンからはつまはじきされていた。パンクからも最初は嫌われていたけれど、先にパンクシーンの方が受け入れてくれたんだ」とのこと。この「主流と距離を置く」スタンスが一種のパンク精神の発露と取られたようで初期はメタルシーンよりもパンク、ハードコアシーンとの関係性が深かった。1980年代初頭にBlack Flagとツアーを行っています。初期の音源はこんな感じ(1982年の録音され、1984年にリリースされた1stアルバムからの曲)。
そして3枚目となる本作を作る前にボーカルがスコット・“ウィノ”・ウェインリッチに変更。新ラインナップでリリースされたアルバムです。

ウェインリッチはドゥームメタル、ストーナーメタルに多大な影響を与えたとされるボーカリストで、彼が入った本作からよりスロウでダークな雰囲気が強まり、バンドは欧州での人気を高めることになります。ドゥームメタルも市民権を得始める。本作は後に彼らの最高傑作と呼ばれるようになり、ウェインリッチもドゥームメタル界の伝説的なシンガーとなっていきます。もともとThe Obssessedというバンドをやっていたのですが本作の反響が大きくしばらくこちらに専念。Saint Vitus脱退後にThe Obsessedを結成し、Saint Vitusの再結成に一時参加したりしながら現在もThe Obsessedで活動中。
本作のプロデューサーはバンド自身とJoe Carducci(ジョー・カードゥッチ)。カードゥッチはSSTレーベルの共同オーナーであり、著名プロデューサー。メタル系だとSaint Vitusの他Overkillの作品も手掛けたことがあります。他にはBlack FlagやMinutemenといったハードコア系のプロデューサー。

一番左がカードゥッチ
バンドは80年代を通して活動を続け、1996年に一度解散するも2003年に一時結集、そして2008年以降は現在まで活動を続けています。今も生きるドゥームメタルレジェンド。
※はじめて当連載に来ていただいた方は序文からどうぞ。
ここから先は

メタル史 1980-2009年
1980年から2009年までの30年間のメタル史を時系列で追っていきます。各年10枚のアルバムを選び、計300枚でメタル史を俯瞰することを…
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?
