見出し画像

コミュニティを動かすもの、それは“自己効力感”だった!

どうも。原田(@yasuhirox)です。

最近読んだ1本の論文が、首がもげるほど頷き、とても腑に落ちたんです。

それはB2B ブランド・コミュニティ活性化のメカニズム ― 自己効力感の形成プロセスと能動的参加行動 ―(長橋明子氏・及川直彦氏)という論文で、B2Bコミュニティの参加者が、受動的な立場から能動的に発信するようになるまでに、どんなプロセスをたどるのかを、実証的に示した研究です。

読みながら「まさにJBUG(Backlogユーザー会)でもそうだし、他B2Bコミュニティで起きていることだ……!」と何度も頷いてしまいました。

これは、コミュニティに関わる人間は全員読むべき論文ですね。

そして、コミュニティ運営だけではなく、マーケティングの本質的な示唆も詰まった内容だった内容だったので、自分のための備忘録もかねて、noteに残しておきます。

実は6月13日(金)に開催された「Community Marketing Conference」のC-3のセッション「成功するコミュニティには理由がある」で、この内容について語られていたんですよね。

私が応募した時にはSoldoutだったので……もう少し早く申し込んでおけばよかったと後悔しております。セッション資料も貼っておきます。


自己効力感とは何か?

キーワードは「自己効力感」です。

簡単にいうと、「自分ならできそう」と思える気持ちのこと。

もう少し厳密に言えば、「特定の成果を達成するために必要な行動を、自分が実行できるという信念」です。

論文では、以下のような段階を経て形成されるとしています。

  • 代理体験(Vicarious Experience):他の人がうまくやっているのを見て、「自分にもできるかも」と思う経験

  • 言語的説得(Verbal Persuasion):誰かに「やってみたら?」と声をかけられる経験

  • 制御体験(Mastery Experience):実際にやってみて、成功や達成感を得る経験

こうした経験を通じて、少しずつ「自分にもできそう」という感覚が生まれてきます。論文内でもこのように書かれていました。

多くのメンバーは,コミュニティ内で他の参加者の発言や行動を観察することによる代理体験,または発言や発表などを促される言語的説得を経験していると考えられ,その結果自身が行動を遂行する制御体験を経験し,自己効力感が強化された結果,能動的行動を継続的に行っていると仮定できる。

B2B ブランド・コミュニティ活性化のメカニズム

JBUGでも、まさにこうしたシーンを何度も見てきました。たとえば、過去に登壇した方の話を聞いて共感し、「私も登壇してみたい」と言い出す人が出てくる。そして、背中を押されて実際に登壇し、「思ったよりもできた」「誰かの役に立てた」と実感することで、次の行動につながっていく。

この循環こそが「自己効力感の醸成プロセス」であり、コミュニティが活性化していく鍵になっている——そう整理されていて、とても腑に落ちました。

コミュニティでの「行動変容サイクル」

人が「自分もやってみようかな」と思うまでには、いくつかの段階があります。

  • 他の人の成功を見る(代理体験)

  • 「やってみない?」と声をかけられる(言語的説得)

  • 実際にやってみて、うまくいく(制御体験)

このプロセスを通じて、「自分にもできそうだ」という自己効力感が少しずつ育まれ、ようやく能動的な参加行動へとつながっていくのです。

こうした「行動のきっかけ」や「心の動き」を、感覚だけでなくデータと理論で整理してくれたのが今回の論文で、非常に納得感がありました。

特に印象的だったのは、「他人の失敗」もまた、代理体験として機能するという指摘です。成功だけでなく、「あのやり方はうまくいかなかった」といったケースからも学びがあり、それが「じゃあ自分ならこうすればいいのかも」と、自信や行動への動機につながる。

反面教師としての体験が、むしろリアリティのあるモデルケースになるわけです。

実際、コミュニティ内で「うまくいかなかった話」や「正直、緊張して失敗した」というエピソードを共有してくれる人がいると、それを聞いた他のメンバーが安心したり、「自分もそうなっても大丈夫そう」と感じることがあります。

こうした「成功」と「失敗」の両方を語れる場こそが、参加者にとって本当に価値のあるコミュニティであり、自己効力感の育成土壌として機能しているんだなと感じました。

コミュニティ運営側の視点

コミュニティ運営の視点で考えると、「自己効力感をどう育てるか」を意図的に設計することが、参加促進の鍵になると改めて感じました。

たとえば、ユーザーコミュニティを運営している企業では、よく登壇者数(会社数)をKPIに設定していると聞きますが、この論文からコミュニティが活性化していくための指数としては間違っていないなと。

というのも、いろんな立場の人が発信することで、“自分と地続きの誰か”の姿が見えてくるからです。

特に、最近参加し始めた人や中堅層のメンバーが登壇することで、「あ、あの人がやってるなら自分もできるかも」という代理体験が起こりやすくなりますからね。

一方で、コアメンバーばかりが目立ってしまうと、逆に「この人たちは特別なんだ」と感じられてしまい、代理体験が成立しにくくなります。この“身内感”と“代理体験”のバランスは、運営上の重要なトレードオフとして意識しておく必要があると感じました。

積極的なメンバーがブランドを強くする

もう一つ印象的だったのは、自己効力感を通じて能動的に参加している人ほど、企業へのブランドロイヤリティが高くなるという点です。

論文の定量調査では、以下の仮説が支持されていました。

・能動的参加行動は製品の推奨意向に正の影響を与える
・能動的参加行動は製品の利用継続に正の影響を与える

B2Bブランド・コミュニティ活性化のメカニズム

つまり、コミュニティに積極的に関わっている人ほど、その製品やブランドに対する信頼や愛着も強くなる。そしてそのことが、他者への推奨や継続利用、そして、新たな参加者への良い影響へとつながっていくと。

これは、私たちのようなSaaS企業にとっても非常に示唆に富んだポイントだと感じました。

コミュニティ活動がそのまま顧客との信頼関係やブランド価値につながっていくわけで、マーケティング的にも大きな意味があります。

また、これは私自身の実感でもあるのですが、外部のコミュニティに積極的に関わり、自らの知見や経験を発信している社員は、社内においても高いエンゲージメントを持ち、組織への貢献度も高いのではないかと思います。

いわば「外で光っている人」は「内でも信頼されている人」であり、自分の言葉で発信できるからこそ、周囲からも頼られる。そういう社員は、ブランドの顔としても機能し、企業の価値を内外に伝える大切な存在になっているのではないかと。

この点は、従業員満足度や企業文化との接点という意味でも、今後さらに深掘りしていきたいテーマだと感じました。

まとめ

コミュニティ運営というのは、単に 「場所を用意すること」ではありません

メンバーが 「自分にもできそう」と思えるきっかけを意図的に設計 し、一歩踏み出せるようにそっと背中を押していく。その 設計力と観察力 が、これからますます求められていくのだと思います。

そして、このプロセスこそが、マーケティングの本質と深く結びついていると感じました。

マーケティングの目的は、「行動を変えること」です。

  • 無関心だった人に興味を持ってもらう

  • 検討中だった人に一歩踏み出してもらう

  • すでに使っている人に「誰かに紹介しよう」と思ってもらう

こうした一つひとつの「行動の変化」は、信頼や期待、そして「自分にもできる」という感覚から生まれます。

だからこそ、自己効力感のサイクルをどう設計するかは、マーケティング活動そのものだと言えるのではないでしょうか。

広告や販促ではなく、「共感や信頼に基づいた行動の連鎖」をつくる。それが、これからのマーケティングに求められる視点だと、今回の論文を通じて改めて感じました。


📚参考論文: 『B2Bブランド・コミュニティ活性化のメカニズム ― 自己効力感の形成プロセスと能動的参加行動 ―』 長橋明子(慶應義塾大学大学院 商学研究科)、及川直彦(早稲田大学大学院 経営管理研究科)

そして、こちらも併せてどうぞ。

B2Bコミュニティにおける参加行動― B2Bブランド・コミュニティおよびプロフェッショナル・コミュニティ研究の文献レビュー ―長橋 明子