レディ・ジェーン・グレイの祈り── 時を越えた肖像 第三章 氷の薔薇
第三章 ── 氷の薔薇
二月十二日の朝は静かだった。
ロンドン塔の石壁が夜の冷えを抱えている。
ジェーンはすでに起きていた。
簡素な衣。小さく息を整える。
扉が開く。
ジェーンが立ち上がり、振り返った。白い猫がいた。
「ありがとう」
猫は鳴かなかった。瞬きをした。
中庭の隅に、凍った薔薇があった。
ジェーンが歩く。一定の足取り。
私は離れた場所から見ていた。
声をかけられない。手を伸ばせない。心はどうだ?
私にできることは何もない。
処刑台の前で、ジェーンが空を見上げた。凍った空。
雲の切れ間から光。
彼女が微笑んだ。一瞬。
生きている人の笑顔だった。
悲しい笑顔だった。
鐘が鳴った。
霧がすべてを包んだ。
私は目を閉じた。
何かが終わったのではない。
何かが受け渡された。
足元に白い猫がいた。尾を揺らしている。
私はうなずいた。
忘れない。
つづきは来週の日曜日です
今日の午後にレディジェーンの肖像画の制作動画をyoutubeとtiktokで公開いたしますのでそちらもよろしくお願いいたします!
