波の音
波の音を聞いていると、時間は同じ速さで流れていないような気がする。
寄せてくる波は早い。
戻っていく波は、少し遅い。
そう見えるだけかもしれない。
浦島太郎は、竜宮城で三年を過ごした。
けれど、地上では三百年が過ぎていた。
もし竜宮城が、光に近い速さで進む宇宙船だったなら。
そこでは時間がゆっくり流れ、地上だけが先へ進んでいく。
そんな説明もできるらしい。
けれど、僕が気になったのは宇宙船のことではなかった。
浦島太郎にとっては、三年だった。
待っていた人たちにとっては、三百年だった。
少し離れていただけのつもりでも、
すぐに戻るつもりでも、
待つ側の時計まで止まってくれるわけではない。
波は何度も岸へ戻ってくる。
同じ場所へ帰ってきたように見える。
けれど、そのたびに砂の形は変わっている。
流されたものもある。
残ったものもある。
戻ってきた波には、その違いが分からないのかもしれない。
浦島太郎が帰った浜辺にも、波はあっただろう。
出かけた日と変わらない音で、寄せては返していたのだと思う。
変わらない音の中で、
自分の知らない三百年だけが過ぎていた。
波の音がした。
帰ってきた人を迎える音ではなかった。
待っていた時間が、静かに崩れる音だった。
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