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凍ったアイスは青い棒

 わたしの子供の頃、この国は非常事態ともいえるほどの暑さを更新していた。上がりきったかと思えばまた次の年に更新。とてもまともな日常生活を送れるような環境ではなかったがこの国に妥協や休息はない。
初夏を過ぎた頃には暑さは人間が耐えられないほどになり、何かの拷問のように生徒たちは教室で勉学に励む。あと1週間でクーラーが解禁される。それまでに何も起こらなければいいが。
 …それから1週間たってついにクーラーが解禁された。生徒たちはなんとか溶けたり、気が狂ったりせずに耐えてやっとクーラーにありつけた。
 “かび臭いクーラー、この教室にいる喘息持ち何人?”

 今は故郷を離れて東京のビルディングに幽閉さている日の当たらないここはまるでジャングル。〜とはよくいったものだ。でもなぜだか故郷とは真反対の都会でビルが建ち並ぶ建物の隙間から不快な冷たい風が吹いた。肌に触れて感じたのは7月初旬、蝉の鳴き声がまだ聞こえないしんとした住宅街のあの臭いがする悪寒、ふとわたしの厭なあの忌々しい記憶を蘇らせる。建ち並ぶ建物の隙間から不快な冷たい風が吹く。

 学校が終わり何人かで下校しているわたしを含んだ男子生徒たち6人。校門から出て右へ30メートル程進んで突き当たりを左へ曲がると、正面に元々診療所だった廃墟がある。そこを右へ曲がり、車通りの多い狭い道がある。おそらく生徒たちのために作られたであろう横断歩道を渡り道の左側に沿って一列で進んでいく。50メートル程歩くとひらけた広い道に出る。道といってもそこはちょっとした広場のような場所になっている。バス停もあったりして、わたしたちが来た正面には左から弁当屋、たまにやっている床屋、文房具屋、元々練り物の加工所だった廃墟が並んでいる。ここまでくるのにわたしたちは戯れながらだらだらとくるので10分弱かかるところを20分かけてきた。だが男子たちにとってはこの道を右へ抜けたごみごみとした住宅街に入った所からが本番で、ここからの遊びのために学校へ来ているといってもーそれはその通りだろう。
 みんなで輪を作って何かを決めるためのじゃんけんをしていた。大盛り上がりで騒いでいる声がしんとした辺りをめぐるように広がっていく。ひとりがバス停に留まり他の5人が住宅街の方へ走ろうとしたとき、風鈴のようなちりんちりんとした音とともに「こんにちわ」とみんなをそこに留めた。その「こんにちわ」に違和感を感じた。挨拶を返そうと「こんにちは」と出そうとなった所で「ッッ」となって挨拶を返さなかった。このとき6人全員が同じ判断をした。ひとりの男ー若いのか40くらいいっているのかわからない年齢不詳の男ーが話しかけてきた。が、そのときのわたしたち男子生徒にとってその男はおじさんだった。
 「アイス食べない?」男はビニール袋から棒状のアイスを取り出して聞いてきた。それは例のパキッと折って食べる、既に折られていた。おそらく噛みちぎったであろう形跡があった。当たり前、この酷暑の中、アイスは溶けかかっていてびしょびしょだった。アスファルトに滴るアイス。男の手はべとべとでびしょびしょ、男子生徒たちに向けられた笑顔は悍ましくニチャァァァと音をたてて襲った。俺たちは絶句しその場から全速力で逃げた。ひとりは恐怖からその場で固まってしまったが俺は必死に引きずった。そいつは徐々に身体が動き出しなんとかみんな逃げることができた。
 その道はいつもなら誰かしら年寄りが喋っていたり。路駐している業者の車があったり、待ち合わせ場所になっていたりバス停だったりと、この地域の様々な場所へ繋がる中継地点的な道で人通りが多いところなのにあのときはー今思えば不自然にも人がいなかった。
 学校には不審者情報として提供したがそれ以降男をみる人は誰もいなかった。

 それから時を経て地元へ帰省したときにあの男と遭遇したあの場所へ通りかかるとそこにあった店はほとんどなくなっているどころかもう昔の面影すらもなくなっていた。そこは綺麗に舗装された3車線道路の一部となっていた。
 冷たい液体が肌に触れた。空は晴れて雲ひとつない。

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