【イベントレポート】パーパスモデルで紐解くひがいけポンド
2022年9月16日に開催されたイベント「ひがいけポンド 大・解・剖 ~~”まちのインディーズ・レーベル”が生み出す共創~~」の動画がこのほど公開されました。
パーパス(共通目標)を中心とした共創プロジェクトの設計図である「パーパスモデル」を通して、ひがいけポンドの変遷を振り返るというこのイベント。
オープン1周年を間近に控え、これまでのひがいけポンドの歩みを振り返りたいと思っていた矢先に、パーパスモデル考案者の吉備友理恵さんの著書が発売されることになり、そのタイミングに相乗りする形で今回の企画が実現しました。
打ち合わせの段階から「これは良いイベントになるぞ!」という予感がありましたが、結果的にその想像を遥かに上回る反響をいただきまして、今回ダイジェスト版という形で僕らの実践知を広くシェアすることにしました。
とはいえこの動画、ダイジェスト版と言いながら1時間くらいあります(笑)
ぜひじっくりとご覧いただきたいと思う反面、お忙しい方もいるだろうなぁという想いもあり、“ダイジェスト版のダイジェスト版”ということで、本稿を執筆いたします。
地域拠点運営やコミュティづくり、共創プロジェクトに取り組む方々にとって、少しでもお役に立てたら嬉しい限りです。
ひがいけポンドのパーパスモデルに的を絞ってご紹介するため、ひがいけポンドおよびパーパスモデルについての詳しい内容を知りたい方は以下のリンクをご参照ください。パーパスモデルの見方については事前に以下の記事をご覧になったほうが良いかもしれません。
【ひがいけポンド 制作日誌】
【パーパスモデル(吉備友理恵さんのnote)】
時系列で見るひがいけポンド(エッセンシャル版)

今回のイベントでは、ひがいけポンドの変遷を4つのフェーズに分けました。
①立ち上げ(2021/10〜11)
②初期(2021/11〜2022/1)
③転機(2022/2〜5)
④現在(2022/6〜現在)
並べて見ただけでも、立ち上げ期から現在の間にいかにステークホルダーが増えているかがわかると思います。それに伴い、中央のパーパスもアップデートされているので、パーパスにも注目しながらご覧ください。
①立ち上げ

そもそもひがいけポンドは、UR都市機構(以下、UR)がプロジェクトオーナーを務めるまちづくり拠点です。ひがいけポンドの周辺は古い木造住宅が密集しているエリアであり、災害時に消防車が入れない細い路地がたくさんあります。エリアの防災性(不燃化率)の向上という観点からURは再開発を進めているわけですが、開発を進めるには現在の建物を取り壊したり建て直したり必要があり、そのためには近隣地権者と接点をつくり、交渉を行うことがマストになります。URにとってのひがいけポンドは、兎にも角にも地権者を含む地域住民と接点をつくるための場であり、当初はそれ以上でも以下でもない存在でした。したがって、当時の共通目標も「地域住民が交流できる場をつくる」といった、粗い解像度にとどまっています。

そんなURの思惑も受け止めつつ、僕らは僕らで純粋にまちを楽しみたいという想いでこのプロジェクトにコミットしていました。立ち上げから現在に至るまで重要な前提条件となっているのが、僕と妻の伊藤彩良は、ひがいけポンドの運営者であると同時に近隣に在住するまちの住民でもあるということです。自分の住むまちをもっと楽しくしたい。まちで友達をつくりたい。住民としての利己的なモチベーションがあればこそ、URの思惑とは別のところで、プロジェクトに情熱を注ぐことができています。

立ち上げ時には、立て続けに2つのイベントを打ちました。プレオープンイベントでは住民を巻き込んだDIYワークショップを、グランドオープンイベントでは誰もが立ち入りやすいマルシェを実施。まずは地域に馴染むことを目的に、どちらも不特定多数の人が参加可能な企画にしました。

これらのイベントを実施するにあたり、URとの調整で苦労したのはターゲット設定の部分です。先述のとおり、URは地権者にアプローチしたいわけですが、地権者とはほぼイコール高齢者のことを指します。年配者と接点を持ちたいから、年配者向けにイベントを打つ。URの目的遂行を考えれば頷ける考え方ですが、そもそもコロナの影響もあって協議会にさえ年配者が来ない状況の中で、正体不明の施設のイベントにわざわざ足を運ぶとは到底思えませんでした。逆に、施設の発展性を考えるならば、若い担い手と早くから接点を持つことのほうがよっぽど重要です。そんなに年配の方にアプローチしたいなら、福祉施設でもつくったらどうか。というか、最初から年配者向けの施設という条件で公募したら良かったんじゃないか…。URとの目線の違いにモヤモヤする時間が長く続きました。
②初期

URへのモヤモヤは未だ解消できていなかったものの、2つのイベントのおかげで、早くから豊島区界隈の皆さんに見つけてもらえたのは、その後の施設運営に大きなプラスをもたらしました。パーパスモデルとしては、立ち上げ期のモデルの上部にそのまま豊島区コミュニティが加わった形になります。

豊島区はとにかく各エリアでコミュニティが活発です。それぞれのカラーがあり、付かず離れずの関係を保っています。
池袋:Ikebukuro Living Loop、大塚/巣鴨:RYOZAN PARK、西池袋:ニシイケバレイ、東池袋:ひがいけポンド、上池袋:くすのき荘、椎名町:シーナと一平、東長崎:MIA MIAなど。豊島区、コミュニティの拠点と担い手が各エリアに存在するのが魅力。変につるまず、でも何かあったら連帯する関係性。
— 中島 明 (@akiranakajima) September 2, 2022
こちらのツイートの主、中島明さんが主催する豊島区のコミュニティイベント「としま会議」への登壇が、ある意味で豊島区キーパーソンへのお披露目の機会となり、その後多方面で関係が発展していくことになります。

「としま会議」の波及効果もあり、華々しいスタートを切るわけですが、そこでの盛り上がりに反して、日常運営は大苦戦を強いられます。
グランドオープン後、ひがいけポンドは「おやつ」と呼ばれる多世代・多用途のドロップイン営業をスタートさせます。「おやつ」は、地域の老若男女と広く接点を持ちながら、ゆくゆくポンドで出店をしてくれる人を見つけるために始めた仕組みでした。あえて世代や用途を絞らなかったのは、URが意識する年配者へのアプローチも視野に入っていたからです。加えて、URとの約束上、週5日はオープンしなければいけないという制約もあり、苦肉の策でやっていたフシもあります。これがとにかく鳴かず飛ばずだった…。

このあたりの苦労は以下のnoteの中でも触れているので本稿では割愛しますが、顔の見えない「みんな」に向けられたものは、すべからく失敗する運命にあるということがよくわかりました。

初期は上記の「おやつ」に加え、僕ら運営者が自身のレーベルをつくって店に立っていました。僕は日本茶カフェを、伊藤はクラフトコーラのお店を出店。この頃はフラっと立ち寄ってくれる方は少なかったものの、直接お客さんと触れ合う中で、新たな繋がりができる手応えを感じていました。出店者側の苦労を味わえたのも、いま思うと大きかったかもしれません。
③転機

さあ、ここからがハイライトです。2022年2月〜3月ごろから、一気に関係が花開いていきます。上下ともにステークホルダーが増え、共通目標も解像度が上がっているのがわかると思います。

ひがいけポンドは2月に2つのリニューアルを行いました。一つは、上述の「おやつ」を廃止し、一日単位でレンタルできる「ポップアップ」に統一。
加えて、2Fワークスペースの利用と、月1回のポップアップ出店権が得られる月額メンバーシップ制度もスタートさせました。

特にインパクトが大きかったのが、「おやつ」の廃止と「ポップアップ」への統一です。「一日単位で自身のお店を出店できるポップアップスペース」であることが一見して伝わるようになり、2月・3月くらいから問い合わせが激増していきます。出店者のタイプもさまざまで、それぞれのこだわりをどんどんポップアップさせていきました。「みんな」を辞めることで、かえって「みんな」が集まってきた。そんな印象があります。
ごく個人的な「インディーズな市民活動」をまちに開くことで、地域に賑わいをもたらす。ひがいけポンドのパーパスの原型がこのあたりから出来上がってきます。

もう一つ、この転機を生み出した重要な要素があります。それが、「Cleanup&Coffee Club」です。(通称CCC)

「地域で友だちをつくりたい」というモチベーションのもと、デザイナーの高田将吾さんらが立ち上げたゴミ拾いとコーヒーブレイクのイベントです。ゴミ拾いという誰もが参加できる活動を入り口に、地域の紐帯づくりを促すこのCCCのおかけで、ポンドのコミュニティが一気に活性化していきました。CCCの詳細は以下のnoteをご参照あれ。
この時期の出店者(関係者)増加の理由を改めて紐解くと、以下のようになると思います。
日々のInstagramでの発信が奏功し、認知が高まる(当時の出店者のうち、4割近くがInstagram経由)
UR主催のイベントや「おやつ」営業を入り口にポンドを知ったご近所さんの中から、出店者が現れる
近所の出店者がCCCに参加し、さらに繋がりが深まり、出店へのモチベーションが高まる(⇒のちにCCC参加者から出店者/メンバーシップ会員が現れることに)

ポップアップ、メンバーシップ、CCC。この3つの仕組みが、数カ月後に新たな化学反応を起こすことになります。
④現在

転機の時期を経て、ステークホルダーも上下ともに賑やかになってきました。色がカラフルになっていることにもご注目ください。それはつまり、異なるタイプのステークホルダーが現れたことを意味します。

上図の赤枠で囲ったステークホルダーが、新たに加わったor共創に関与するステークホルダー(≒受け手)から主体的な共創パートナー(≒作り手)へ変化したステークホルダーです。
上部から見ていくと、新たなステークホルダーとしてサンシャインシティや良品計画などの近隣企業が浮上してきました。サンシャインシティについてはオープン当初から繋がりがありましたが、このころからいっそうリレーションが強まっていきます。また、豊島区が関与してきたのにも注目です。まだ明確な役割はないものの、ポンドコミュニティの活性化により、区民のリアルな声が集まる場として期待されています。
モデルの下部に目を向けると、転機ではサービスの受け手だったメンバーシップが、作り手側に移動しているのがわかると思います。2月の開始当初、メンバーシップはどちらかというとワークスペースを求めるワーカー向けの施策でした。特典として掲げていた月1回のポップアップ出店権は、文字通り"おまけ"のような位置づけで、実際初期メンバーで出店をする人はほとんどいませんでした。しかし、6月ごろから様相が一変します。ワークスペースにはもちろん価値を感じてくれているものの、それ以上にポンドで出店ができること、その結果としてさまざまな地域の方と接点を持てることに魅力を感じる人びとの加入が相次ぎます。以下の図の左右にある写真は、すべてメンバーシップの出店の様子です。

メンバーシップの盛り上がりと並行して、従来の出店者に向けたコミュニティの整備も始めました。それがポップアップラボです。

かねてから出店者同士で繋がりたいという声が届いており、その声に答える形でオンラインのコミュニティをつくりました。まだまだ手を加えきれていない部分もありますが、出店時の告知や共同出店の呼びかけの場として利用されています。
ポップアップラボがあることで、転機の際に生まれていたポップアップ⇔CCC⇔メンバーシップの循環が、いっそう強固なものになっていきました。

ポンドコミュニティの可視化とともに、実はひがいけポンドとURにも大きな変化が訪れます。それぞれの目的の部分が変わっていることにお気づきでしょうか?僅かながら、パーパスの文言も転機から変化しています。なにより、あれだけ重要視していた地権者がステークホルダーから消え、ご近所さんの中に吸収されている。いったいなぜなのか?

答えは比較的単純で、URと地権者との個別面談が上手く回り始めたからです。つまりそれは、URの当初の目標が順調に達成されつつあるということを意味します。ひがいけポンドが直接的に影響を及ぼしたかは定かではありませんが、地権者の中にはポンドに来たことのある人や、入ったことはないけれど好意的な目線を向けてくれている人もいたようで、そういう意味では一定の成果があったと言えるかもしれません。
当初の目的が前倒しで達成されていく中で、あるタイミングからURは、再開発後も続く地域の繋がりについてしきりに語りだすようになります。これがパーパスモデル上のURの目的の変化にそのまま反映されています。
翻って、ひがいけポンドも同様に変化を感じていました。予想外の関係者の広がりを受け、単なる"小商いの場"を超えた、今後の地域の原動力となるような関係性が生まれる土壌を作りたいと、本気で思うようになりました。その想いが、パーパスの変化にも現れています。センテンスの前半は変わらず、後半が「地域に賑わいをもたらす」から「都市での暮らしを豊かにする」へと、より高い視座へ変化していきました。
再開発が進む都市部において、どのように地域の紐帯を育んでいくべきか。経済合理の力が強固な都市部において、お金ではない豊かさをいかに体現していくか。
これらの問いを抱えながら、ひがいけポンドは今日もインディーズな試行錯誤を繰り返しています。
⑤未来

イベントでは時間の都合で駆け足になってしまった未来のパーパスモデルについても触れておきます。
これまで大学・研究機関・専門家に分類されるステークホルダー(紫色)がいなかったため、今後は大学などを主体的な共創パートナーとして巻き込みたいと思っています。(たとえば、学生たちの実習の場としてポンドを提供しつつ、専門家から拠点づくりにおける専門的知見を得るなど)
関連して、学生のインターンの受け入れなども積極的にやっていきたいところです。ただでさえポンドはマンパワーがカツカツの状態で運営しているので、とにかく人手を欲しています。
もう一つ。これまで共創に関与するだけだった近隣企業を、どうにか主体的な共創パートナーの側に引き入れ、共に利益を創出したいという思惑もあったりします。
「虛構」の力を取り戻す。

ここまで見てきたように、パーパスモデルは単体でも現状整理に役立つツールですが、時系列に並べることでさらに威力を発揮します。中長期的な目線でプロジェクトの価値を共有でき、この先巻き込みたいステークホルダー像も見えてくる。1年後にまた同じイベントを実施するのも面白いと思いました。パーパスやステークホルダーがどう変化していくのか、今から楽しみで仕方ありません。
思うにパーパスモデルは、「虛構」の力を取り戻すための、現代の曼荼羅のようなものだと思います。
人類は虛構によって文明を築き上げてきました。神話という共通の虛構を共に信じることで、膨大な数の人間が結束し、大きな力を生み出すことができた。人類の歴史を網羅的に読み解く名著「ホモサピエンス全史」の中でも、繰り返しそのことに触れられています。
神も国家も国民も、すべて人類の虛構の産物です。これら大きな物語に抱かれて、人類は癒やしや力を得ながら発展してきました。ですが、物語は、その地位が固定化された途端に、多くの人を傷つける凶器に変わります。
現代では、行き過ぎた資本主義や個人主義・社会契約といった物語が、人を不毛な競争へと駆り立て、分断を招き、地球そのものを壊しかねない状況に追い込んでいます。社会に山積する諸問題は、もはや単一の国家や企業・集団が手に負えるレベルではなくなっている。
だからこそ、パーパスという虛構がいま必要なのだと思います。一人では解決できないことも、みんなが信じられる物語を新たに生み出すことで、解決の糸口が見つかるかもしれない。そしてパーパスモデルは、誰もが使いやすいツールであるが故に、僕らに本来備わっている虛構の力を上手に呼び覚ましてくれます。
もちろんパーパスが絵空事になっては意味がありません。プロジェクトを確かに実行していくためには、ビジネスモデルも同様に大切です。パーパスモデルがまだ見ぬ未来という虛構を描くものだとしたら、ビジネスモデルは過去・現在の出来事を参照し、分析する中で磨かれるものといえます。ビジネスモデルという過去を照らすバックライト、パーパスモデルという未来を照らすフロントライト。二つが揃うことで、より明るい未来が生まれるのではないしょうか。
本稿をお読みになった方、そして動画をご覧になった方、ぜひ一度自身の手でパーパスモデルを書いてみてください。パーパスモデルづくりは、プロジェクトの走り出し前であっても、自身の現在地や同志を整理するのにきっと役立ちます。以下の記事で紹介されている「PURPOSE MODEL STUDIO」を使えば、誰でも簡単にパーパスモデルをつくることができます。ぜひお試しください。
