無駄では無かった無駄使い
私は買い物が苦手だ。
「買い物」という行為も苦手だが、物が増えることが嫌なのだ。
だから、消耗品以外はよほどで無ければ買わない。かといって、ミニマリストのような信念や理念があるわけでは無い。
友人に言わせれば
「それはケチってことよ」だそうだ。
「そんなことは無い」と反論したいところだが
確かに、買い物に行っても3回に2回は買わずに帰るし、通販の買い物カゴには、常に何かが入ったままで、なかなかポチれない。
でも、納得すればちゃんと買うし
自分では「ケチ」とは違うと思っている。
せめて「節約家」くらいには言って欲しいものだ。
そんな私がその日、血迷った。
なんと、よりにもよってアニメキャラクターの
アクリルスタンドを買ってしまったのだ。
その彼はリサイクルショップのワゴンに山積みになっていたキャラクターグッズの中から
こちらを見ていたのだ。
銀色でモジャモジャの髪の間から見えるブルーの切れ長の目。その彼と目が合ってしまったのだ。
その瞬間、条件反射のようにワゴンから引っ張り出す。逡巡すること数秒。
半額シールに背中を押されて
結局、買ってしまったのだ。
理由はただひとつ。好みの顔だったから。
必要な物でも買えない私が、特に必要でもなく
その上850円もするアクリルスタンドを
「顔」だけで衝動買いしたのだった。
こういうのを「魔が差す」というのか。
おかげで、夕飯のおかずは牛肉から鶏肉に変更だ。目当ての古本も買えなかった。
私としたことが。完全な無駄使いいだ。
レジを離れた途端にちょっと後悔した。
それでも出会ってしまったのだから仕方ない。
私は立ち直りは早いのだ。
家に帰って組み立ててみる。
アクリルスタンドの彼は、上着のポケットに片手を入れて、伏し目がちに歩いているようだ。
「絵に描いたような男前だな。
アニメなんだから当り前か」
自分で自分に突っ込みながら
しばし、ニヤけて眺めていた私だが
間もなく現実に戻る。

「で、これどこに置くのだ?」
ウチのリビングには家具がほとんど無い。
唯一あるキャビネットの上?
それともキッチンカウンターの上?玄関の出窓?まさか和室の仏壇には置けないよね。
手のひらに乗せた銀髪の彼と家中を一緒に巡り
結局、寝室のテレビ台の上に収まった。
「それにしても、このイケメンは誰なんだろう」
アニメは嫌いじゃ無い。この銀髪のイケメンも
どこかで見たような気がするけれど…。
「う~ん。キミは誰だ?」
早々に頭を使うことを諦めて
スマホのカメラ検索にお願いする。
「便利だねぇ。おかげで人間は努力と工夫を忘れるよ」
呟いている間に彼の正体が判明する。
銀髪の彼は、戦闘系アニメの敵キャラだった。
そのアニメの主人公は見たことがあったが、
彼のことは知らなかった。
どうやら悪のリーダーらしい。
「そのクールな瞳は悪役だったのか」
こうなればやはり、彼のことを知りたくなる。
契約している動画配信サービスで
彼の出ているそのアニメ番組を探して見る。
画面の中で動く彼は、とてつもなく強くて残忍。
「いいのか、アニメとは言え、こんなに簡単に人を◯◯して」
・・・・・・・・・・。
「でも、以外にスカッとするかも…」
なんやかんやで一気見してしまった。
彼と出会わなければ、決して見ることが無い
ジャンルだ。
850円の無駄使いで世界が少し広がった。
ならばこれは「無駄使い」とは言えないのではないのか?
テレビの前の彼と目が合う。
「でもあんまり無駄使いしたら、◯◯◯よ…」
クールにそう言っている気がする。
「何言ってんの。ワゴンから脱出できたのは私の無駄使いのおかげでしょ?
それにね、女は悪い男に惹かれるものなのよ」
アクリルスタンドの彼が、迷惑そうな顔をしたように見えた。
