イチから始める.hack//感染拡大 Vol.1 ver1.15
ミストラルが入手したワードにはプロテクトがかかっていた
いつもの要領でゲートハッキングを行い、俺達は夜の平原へと降り立つ
案の定、このエリアもノイズが走るバグエリアと化していた
いびつに裂かれた空は緑と黒のデータコード画面がむき出しかつ、夜な事もあって気味が悪いので足早にダンジョンへと歩みを進める
ミストラル
「ステージがぐちゃぐちゃになってる。なんかすごい演出だね」
純粋なだけだろうか。もしかしたら、壊れていくThe Worldに対して現実を直視しないための自身への言い聞かせなのだろうか
俺はかける言葉もなく、ただ少女の葛藤とも受け取れる言葉を受け止めるだけだった…
最下層にたどり着くとお約束の如くウィルスバグモンスターが出現する
俺達は攻撃スキルと回復スキルを駆使し着実にバグモンスターに攻撃を与えていく
『PROTECT BREAK』⇒『データドレイン』
バグモンスターとの戦闘にも慣れて来た。わかった事はデータドレインをしなければ本体に直接ダメージを与えられない事
それ以外の敵の攻撃などは普通のモンスターと大差ない。そういう意味ではこの世界での経験が濃くなればなるほど恐れることは無い
『ウィルスコアQ』を入手。木の姿をしたモンスター、サウザンドツリーは俺達の猛攻によりHPバーを急速に減らしていく
その大木が地面に転がるのにそれほど時間はかからなかった
ミストラル
「いいなぁ、その腕輪。どこで手に入れたの?わたしも欲し~い」
俺はミストラルに友人の…オルカとの出来事など、これまでの経緯を話した
ミストラル
「へぇーっ。そんなイベントあったんだぁ」
俺
「ちがう。イベントじゃなくって・・・」
ミストラル
「あっ!雨降って来たぁーーっ!洗濯物いれなきゃ!というわけで、落ちます」
…。俺の説明虚しく、ミストラルにはゲームの出来事はゲームイベントであるにとどまった。リアルとゲームは別物。普通の考えならそうだ…
とはいえ、彼女の誘いのおかげでゲートハッキングに必要なコアが揃った。
ルートタウンに戻るとメールが届いたので一度ログアウトしてメーラーを開くと新着が2通
1通はブラックローズから。「そっちは何か進展あった?」と監視していたかのようにタイミング良いメールが届いた
ウィルスコアの入手を報告し、俺は2通目に目を通す
ガルデニアからだ。勝手にファンクラブを立ち上げられているほど人気の重槍の使い手
彼女からのメールの内容は
「Θ美しき 誰がための 宝珠 に行く」
さっぱりしていて逆に読みやすい。さっぱりしているからこそ、なんだか強制命令のようだ…つまり来いって…コト!?
コアを入手しそのままの勢いにゲートハッキングしようと思ったが無視すると後が怖そうなので急いでログインしガルデニアをパーティに招待
集合するも口数少なく、とりあえずワードを入力し指定されたエリアへ出発する
そこは夕焼けの綺麗な平原だった
「で、ここになにがあるの?」素直に疑問に思ったことを口にする俺
「一人静かが咲いていると思うか…?」とガルデニアが静かに答える
一人静か?何だろう…咲いているか?という事は花なのだろう
俺
「それを探しているの?あるといいね」
ガルデニア
「ないな…一人静は山野にひっそりと咲き、ひっそりと散っていく花だ」
不思議系おねぇさんなのだろう。ロマンチストな思考には少し惹かれるものがある。年上ゆえの落ち着き。子供の俺には少し早いかもしれないが、この会話に加わっている事で自分も少しだけ大人になった気分だ
「ガルデニアってロマンチストなんだね」と茶化すと「うるさい!」と返ってくる。この子供のような返答も緩急になって魅力的だ
とりあえずフィールドのモンスターを狩り経験値を稼ぎつつダンジョンに突入する我々
「私はあの、たんぽぽの綿帽子をみると、いつも思うことがある…」
唐突なガルデニアの詩読みが始まる
「あんな風に飛べたら気持ちいいだろうなぁ、とか?」
少し子供じみた回答だっただろうか。だが仕方ない。俺は子供だ
だがガルデニアの返答は俺の想像の斜め上をいく
「いや、もしもあれが耳にでも入ったら、かゆくてたまらんのだろうなと…」
道中の敵は手ごわい。ノイジーウィプスというゴーストタイプの敵その見た目通り、物理防御力が高いだけでなく物理回避も高い
双剣と重槍。物理編成ではなかなかダメージを与えられない。空を切る攻撃が何度も続くが、ごり押しするしかない
そして厄介なのは高い防御力だけではなく、攻撃力も高い事だ…
回復をメインに隙あらば攻撃。道中ギリギリの戦闘が何度も続くが俺達はこの頑張ったご褒美とも言うべき最下層のアイテム部屋へとたどり着くことに成功した
宝箱から入手したアイテムは『鍛錬の書・敏の章』だった
このアイテムは物理命中を上げるアイテム。やっかいなゴーストモンスターに対抗するための強化アイテムだ
「もしかして、このアイテムがあるから誘ってくれたの?」そう聞くと
「考えすぎだ。帰るぞ」
そう言いクールにダンジョンを去るガルデニア
そのあまりにも大人な振る舞い、気遣いに、俺は生まれて初めて心の奥にある違和感が生まれた
言葉にしようにも喉につっかえてうまく表現できない。空気のようなものが体から溢れ、口いっぱいに広がる。閉じた口。次第に胸が苦しくなる
これが…恋…?
つづく…
