僕はずっと、他人の人生を生きていた
「これを言ったらどう思われるだろう」
「こうした方が喜ばれるかな」
「嫌われないかな」
気づけば僕の頭の中には、
いつも他人が住んでいた。
自分の人生なのに。
主役は僕のはずなのに。
いつの間にか、
脳内には何十人もの観客席ができていて、
その人たちの拍手や評価のために生きていた。
でも、その観客たちは入場料を払っていない。
僕の人生に責任も取らない。
なのに僕だけが、
必死にその舞台を続けていた。
なんだか変な話だ。
そんなある日、
僕は絵を描き始めた。
すると不思議なことが起きた。
絵の前では、
観客たちが静かになる。
「こうした方がいい」
「普通はこうだ」
「それ変じゃない?」
そんな声が聞こえなくなる。
そして奥の方から、
ずっと黙っていた誰かが出てくる。
僕だ。
何十年も他人の声に埋もれていた、
本当の僕。
そいつは意外と変なやつだった。
意味の分からない色が好きで、
理由もなくワクワクして、
誰も気にしないものに夢中になる。
効率も悪いし、
説明も下手だ。
でも、そいつは生きていた。
絵を描くたびに、
少しずつ息を吹き返していった。
だから僕にとって絵は作品じゃない。
発掘作業だ。
社会の土の中に埋もれてしまった自分を、
スコップで掘り起こしている。
ビビビとは、
何かを生み出すことじゃない。
埋もれた自分を見つけることなのかもしれない。
今日も僕は描く。
売れるためでもなく、
上手くなるためでもなく、
地中深くにいる自分を救出するために。
