今日は何を飲もうかな
聞いてほしい。
近頃の私は、とにかく「健康」という二文字に弱い。
「〇〇に良いらしい」
そんな話を聞くたびに、私の心はふわりと揺れる。
そして気が付けば、飲み物リストが増えている。
白湯。
マサラチャイ。
梅醤番茶。
サマハンティー。
ルイボスティー。
振り返ると、我が家のキッチンは軽めの漢方薬局のようになっていた。
動機は極めて単純だった。
白湯は代謝に良いらしい。
マサラチャイは消化促進や免疫力向上に良いらしい。
梅醤番茶は胃腸に良いらしい。
サマハンティーは身体を温めるらしい。
ルイボスティーは抗酸化作用があるらしい。
なるほど。
それなら全部飲めばいいじゃないか。
そう思った。
今思えば、ずいぶん素直である。
午前6時半、私の胃袋で飲料フェスが開催される
問題は、飲み物が増えたことではない。
いつ飲めばいいのか分からなくなったのである。
朝一番に白湯を飲む。
ここまではいい。
しかし、その後が渋滞する。
マサラチャイは朝が良いらしい。
梅醤番茶も朝が良いらしい。
サマハンティーも身体を温めるから朝が良いらしい。
ちょっと待ってほしい。
朝の短い時間に、どれだけの飲み物がエントリーしているのか。
私の身体は、健康になる前に、お腹いっぱいになりそうである。
限られた時間枠の中で、大量の健康飲料が己の存在意義をかけてひしめき合っている。
もはや夏フェスのタイムテーブルである。
しかも私は、仕事中は水しか飲まない。
つまり勝負の舞台は、出勤前と帰宅後のわずかな時間だけ。
健康飲料たちの熾烈なポジション争いが始まった。
AI秘書に相談したら、シフト表が完成した
限界を迎えた私は、ChatGPTに相談した。
「この飲み物たちを、一日でどう回せばいいですか?」
返ってきたのは、実に丁寧なスケジュールだった。
6:30 白湯
7:15 マサラチャイ
15:30 サマハンティー
16:30 ルイボスティー
18:15 梅醤番茶
完璧である。
まるで有能な秘書がついたみたいだ。
だが、ここで新たな問題が発生する。
私は食事中に汁物を飲む。
つまり、食事と一緒に飲み物はほとんど飲まない。
そこで再び相談した。
「食前か食後に変更してください」
すると即座に、新しいスケジュールが完成した。
画面を見つめながら、私はふと思った。
私は何をしているんだろう、と。
なぜなのか。身体より先に、飲み物のほうが健康になっている
しかし、このやり取りの中で気付いたことがある。
私は、ただ健康になりたいわけではないのだ。
今日は何を飲もうかな。
冷えているからサマハンティーにしようか。
少し疲れているから梅醤番茶にしようか。
そんなことを考えながら棚を眺める時間が、案外好きなのである。
人生を大きく変えるようなことではない。
飲み物を一つ変えたからといって、突然健康になるわけでもない。
それでも。
自分のために温かい飲み物を淹れて、一息つく。
そんな小さな時間があるだけで、一日は少しだけ機嫌よく回る気がする。
もちろん、これだけ飲んだからといって、明日の朝にHPが全回復するわけではない。
相変わらず身体は重いし、布団から出る時には「よいしょ」が必要だ。
それでも、お気に入りのマグカップに温かい飲み物を注ぎ、湯気を眺めながらひと口飲む。
その瞬間だけは、ちゃんと自分をいたわっている気がするのである。
終わらない戦力補強。我が家の飲料リーグ開幕
ちなみに、この原稿を書いている現在。
かつて活躍していたサワーソップティーと重曹クエン酸水は、すでに我が家の飲料リーグから姿を消した。
代わりに新加入したのは、
モリンガティー。
そして、甘酒の豆乳割り。
どうやら我が家の健康飲料チームは、定期的に戦力補強を行う方針らしい。
おそらく半年後には、また別の何かが加入している。
そして私は再び検索するのだ。
「これ、いつ飲むのが一番いいんですか?」
と。
健康になりたいだけなのに、なぜ私は毎回、飲み物のスケジュール管理まで始めてしまうのだろう。
もはや身体より先に、飲み物の方が健康になっている気がする。
だから私は今日も飲む。
健康のために。
いや。
半分は趣味である。
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