🍎リンゴ【掌編小説】
【掌編:1700文字】
だって、王子様をゲットしたいんだもの。
イケメンで、優しくて、セレブの頂点。
リンゴを食べなきゃ、キスしてもらえないのよ。
毒入り?
だから何だっていうのさ。
彼を狙うライバルは鈴なり。
シンデレラだって、人魚姫だって狙ってる。
眠れる森の美女なんて、わたしより寝たふりが上手いんだからタチが悪い。
みんな、「欲なんかありません。純潔な乙女です」って顔をして、男の庇護欲を掻き立てる。
まあ、王子様なんて女を見る目がないからね。
カワイ子ぶってたら、なんとかなるでしょ。
だから、リンゴを食べなきゃ。
真っ赤な、毒々しいリンゴ。
トントン。
扉を叩く音がした。
来た。
扉を開けると、籠いっぱいのリンゴを抱えた老婆が立っていた。
腰を曲げ、鼻の頭にイボまでつけている。
あらまあ。ずいぶん張り切って化けたものね。
継母に会うのは久しぶりだけど、こんな年増、わたしの敵じゃない。
「お嬢さん、リンゴはいらんかね」
「まあ、おいしそう。いただくわ」
わたしが迷わず手を伸ばすと、老婆が一瞬たじろいだ。
「ほ、本当に食べるのかい?」
殺しに来たくせに、何を驚いているのだ。
「ごたくはいいから、早くよこしな」
「えっ」
わたしは籠の中から、ひときわ赤いリンゴを奪い取ると、老婆の鼻先で扉を閉めた。
アダムとイヴを楽園から追い出し、これからわたしを棺へと放り込む禁断の果実。
けれど、リンゴが悪いわけじゃない。
いつだって齧りつくのは、欲にまみれた人間のほうだ。
欲張りで何が悪いの?
神様に祈ったって、何も手に入らない。
欲しいものは自分でもぎ取るの。
手の中のリンゴが、「齧ってみなよ」と誘ってくる。
だけど、わたしは焦って無様に倒れたりはしない。
棺に入ってからも、唇のお手入れは毎日欠かさないこと。
王子様を連れてくる前には、この色付きリップをちゃんと塗ること。
あの七人に、しっかり言いつけておかなきゃ。
ぷるんぷるん。
果実のように瑞々しく、思わずむさぼりたくなる魅惑の唇。
お手入れのたまものなのよ。
コツは盛りすぎないこと。
あくまでナチュラルがウケるわけ。
「みんな、配置について」
七人の小人たちが、慌ててわたしの周りに集まった。
準備万端。
さあ、いくわよ。
しゃり。
甘酸っぱい果汁とともに、森の香りが口いっぱいに広がった。
次の瞬間、身体から力が抜けていく。
予定どおり、小人たちがわたしの身体を受け止め、ガラスの棺へそっと横たえた。
ドレスの裾を整え、頬にかかる髪を耳へかける。
顔は、唇がいちばん魅力的に見える角度へ。
完璧。
あとは上玉を待つだけ。
◇
棺の中で、いくつ朝を迎えただろう。
毎朝、唇にリップを塗られる感触がする。
あの七人、ちゃんと言いつけを守っているわね。
ああ、馬の蹄の音が聞こえる。
王子様の歌声。
ほら、みんな。
リハーサルどおり、抜かりなくやって。
小鳥たちは、くちばしにくわえた花びらを降らせ、小人たちは悲しそうにうなだれる。
もちろん、わたしは瞼を閉じたまま。
耳をそばだてて、王子様の気配を待つ。
もたもたしてんじゃないわよ。
ああ、もしかして品定めされてる?
わたしを誰だと思ってるのよ。
鏡よ鏡、世界で一番きれいなのはだあれ?
疑うなら、そう、あの鏡に聞いてみな。このでくのぼう。
閉じた瞼の向こうが、ふっと暗くなった。
あ、なにこれ。
胸がドキドキする。
だって女の子だもん。
しかも純潔の乙女よ。
王子様の唇が、そっとわたしの唇に重なった。
もう離さないんだから。
わたしだけの王子様。
さあ、小人たち。
手鏡で光を集めて、わたしに当てなさい。
抜かりなく。
無垢な白雪姫のお目覚めですよ。
ゆっくりと瞼を開き、うるんだ瞳で彼を見つめる。
王子様が息を呑んだ。
よし、食いついた。
《THE END》
コムギさんの「カスター将軍の物語」のラスト、「り」から、しりとりのバトンが回ってきました。
大好きなコムギさんへ捧げます✨
バトンは回さなくても問題ないようなので、止めちゃうぞ。てへ。
たくさん参加して盛り上がっているみたいだし。
🍎女子の憧れ王子様
王子さまはボンボンのでくの坊でもイケメン……
イケメン? ん?
イ・ケ・メ・ン
ケロンパはただいま「イケメングランプリ2026」で、【銀狐】さんの推薦人をしております。
noteで見つけた🪭イケメンを推す祭でございます。
ほおお、見てみたいと思った、そこの紳士淑女の皆様。
ご案内いたしましょう。
何より【銀狐】さんという逸材の面白さを、あなたにも知ってほしいのです。
気に入ったら、この【銀狐】エントリー記事のコメント欄で投票してくれたら嬉しいな。
では皆さま、いざ祭りの本丸へ🪭
※銀さんENTRY No.3へ直行だぜ。
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