化け物使い|ショートショート #シロクマ文芸部
波の音は聞こえるが、月が厚い雲に隠れているせいか、辺りはいつも以上に闇が深くなっていた。
この名も知られていない小さな漁村に男がやってきたのはかれこれ半月ほど前のことだった。
この名もなき漁村では、ある日突然恐ろしい妖怪どもが漁業を営んでいる村民どもを次から次へと襲い始め、恐怖のあまり村人たち全員が漁村から逃げるように立ち去ってしまっていた。
聞いた話によると、近くにある水神様を祀っていた神社が、高波に攫われて跡形もなく消え去ってからこのように妖怪たちが湧いて出てきたという。
そのため、どの家ももぬけの殻となっていて、人間が住んでいる気配が全く感じられなかった。
男はこの漁村の目の前にある海が漁業に最適だと知って早速こちらに引っ越してきたのだ。
男が誰もいなくなった廃村に同然の村に住み始めてから半月経ったある真夜中のこと。
良質なイカを釣りにそのあたりに放置してあった小舟に乗って沖合に出たところ、
ぴちゃ、ぴちゃ、ぴちゃ……
という水を滴れた音とともに、船に乗り込んできた何かが数体現れた。
辺りは漆黒の闇のため、そのシルエットしか見えないが、どうやら人の形をした「何か」だった。
「こんな夜更けに誰だ!?」
そう言って男が手元にあった懐中電灯を照らすと、何とそこには二十人ほどの白い服を着た幽霊どもがひしゃくを持って立っているではないか。
世間では『船ゆうれい』として恐れられており、持っているひしゃくで水を船内にぶちまけ、挙句の果てに沈没させてしまうという。
すると、男は慄くどころか、歓喜の声を上げていた。
「おお!!いいところにきた。ちょっと人手が足りないんだ。イカ釣りを手伝ってくれ!!」
顔面蒼白な船ゆうれいたち一人一人に網を持たせ、それでイカを捕えてほしいとお願いした。船ゆうれいたちはお互いに顔を見合わせて、結局は男の言いなりでイカ釣りするのだった。
***
また数日後の真夜中のこと。
男が一人で一升瓶に入っていたマズイ酒を一気飲みしてそのまま倒れて眠っていたところ、
トントン
というドアを叩く音が聞こえてきたので、
「俺が気持ちよく眠っているのに、誰だ?こんな時間にやってきて!!」
と、勢いよく戸を開けると、そこには髪の毛がびちゃびちゃに濡れているオンナが立っていた。その顔は青ざめており、ニヤリと不敵な笑みを浮かべていた。
『濡女子』と呼ばれているオンナは、笑い返すと一生付きまとわれるそうだ。
男がその濡女子の顔をよく見ると、(おお、運命の出逢いだ!!)と心の中で叫んだ。
顔色はかなり悪いが、つやつやした肌にくっきり二重瞼のくりくりした瞳。
どうやらその顔立ちに一目惚れをしたようだった。
男はこれ幸いとニヤっと笑い返すと、濡女子も負けじと笑い返す。
待ってましたとばかりに濡女子が男に飛びかかるも、逆に男がカウンターパンチのように飛びかかり、ギュギュっと強く抱きしめた。
「俺は生涯独身かと思っていたが、こんな女子に出逢えるなんて!!この村に来てホントに良かった!!結婚してくれい!!」
男は嬉しさのあまりに抱き寄せた濡女子をさらに強く抱きしめた。
濡女子がその後圧迫によりノビてしまったのは想像に難くない。
***
そんなこんなで次から次へと妖怪たちが男の前にやってくるが、どれもこれも使い走りをさせたり、漁業を手伝わせたり、とにかく使い方が荒かったため、どの妖怪たちも不用意に近づいてこなくなった。
数ヶ月が経ったある日の夜。
男がいつものように漁のために船を沖まで出したところ、目の前に突如山が現れたようにこんもりしたものが浮かんでいた。
男が近くまで寄ってみると、月に照らされたそれには、大きな目玉と大きく開いた口が付いていた。欲に言う『海ぼうず』であった。
海ぼうずは、ちっぽけな男と船をじっと見ている。
すると、男はコメ粒ほどの小さな瞳を輝かせていた。
「う、うみぼうす!!ゲットしたい!!」
男は早速持っていた銛で海ぼうずに飛びかかるなり、その銛を使って海ぼうずを執拗に突き刺した。その銛には毒が塗ってあり、何度も刺された海ぼうずはあっという間に毒が回り、気絶してしまった。
男は海ぼうずを船で浜辺まで引っ張っていき、その後、海ぼうずを手懐けて芸を教え込んだ。
それから数ヶ月経ち、その男は『海ぼうずショー』で一躍有名になり、それからさらに他の妖怪にも芸を教えて、今では『化け物使い』として、日本に留まらず、世界進出を果たし、世界有数のエンターテイナーとして羽ばたいていったとさ。どっとはらい。
■今回のショートショートは以下のマガジンに収めています😌
■小説専門マガジンに参加中です✨️
■創作が泳ぐ水族館に入館しています🐬
この作品は、小牧幸助さん企画【シロクマ文芸部】参加作品です。
今回のお題は、【波の音】でした。
こちらの作品は、落語の演目にある『化け物使い』という演目をヒントに、自分なりに創作した物語です。
本家本物の噺は面白いので、興味のある方は是非読んでみてください。
ちょっと話がズレますが、今度小学二年生の次女と『稲川淳二の怪談ナイト』に行くことになりました。
昨日、ひょんなことから見つけました。
チケットがまだ残っていたので、その場ですぐにネット購入したのですが、そもそも怖い話が苦手な自分で大丈夫かというのと、次女は最後まで聞いていられるのか……。
映像なら顔を両手で隠して指の隙間から観ることができるのですが、声と効果音のだけの方が怖さが増すのではないかと心配になってきています……。
果たして、この親子は泣き叫ぶことなく無事に最後まで聞くことができるか、乞うご期待!!(しなくてもいいです(笑))。
ここまで読んでいただきありがとうございました🍀
