「暗い時代の人々」 森まゆみ 著 朝日文庫
大正デモクラシーの浮かれただけど希望に満ちた時代から急転直下、日本は戦争に突入していきます。「暗い時代」とは、満州事変勃発(昭和6年)から太平洋戦争終結(昭和20年)のことです。この本には、そんな暗い時代の中で、自分を保っていきた人たちについて書かれています。
印象に残ったのは、山川菊栄、吉野作造、斎藤隆夫です。
山川菊栄は、日本の「初期フェミニズム」を牽引した思想家です。同時期にフェミニズム活動を行っていた人の中には、平塚らいてう、市川房枝などがいます。
しかし、平塚らいてうは、母性本能から国家主義に流れ、市川房枝ら婦人運動の指導者たちが進んで戦争協力(p.60)していく中で、山川菊栄は、そうした流れに乗りませんでした。
戦時中、山川菊栄は一切の公的活動を停止し、沈黙を守ることを徹底しました。そのため大変な貧困生活を送ります。
吉野作造は、東京帝国大学の政治学者で、日本の政治を「天皇主権の国家でも、国民のために政治を行うべきだ」という民本主義を唱えました。
吉野は満州事変以降の日本を 「国際協調からの逸脱」「軍部の独走」「憲政の破壊」 と強く批判し、可能な限りの抵抗を試みました。しかし、言論弾圧が高まる中で活動は徐々に封じられていきました。それでも、彼は脳溢血で無くなるまで自分の主張を変えませんでした。
そして斎藤隆夫です。1870年生まれの兵庫県出身の政治家で、多くの演説を残しましたが、その中でも有名なのが、次の三つです。
大正14年(1925年)3月2日に「普通選挙賛成演説」(p.36)
昭和11年(1936年)5月6日に「粛軍演説」(p.42)
昭和15年(1940年)2月2日に「支那事変に関する質問演説」通称「反軍演説」(p.49)
「普通選挙賛成演説」は、「普通選挙は民主政治の成熟に不可欠」とするものです。
「粛軍演説」格子は;
二・二六事件の責任は「陸軍上層部」にある
陸軍の政治干渉が異常である』『軍内部の派閥争い(皇道派 vs 統制派)が軍の統制を崩壊させている
です。
そして、再発防止には徹底した軍粛清(=粛軍)が必要と訴えました。
「反軍演説」の格子は;
日中戦争の目的が曖昧
戦局の悪化と政府発表の乖離
国民生活を犠牲にした戦争継続
議会軽視と軍部独走の危険
です。
この演説で、斎藤は、軍部が政治を主導し、議会は形式化していると指摘し、議会政治の回復を強く訴えました。
「反軍演説」は、演説の後段、全体の2/3は削除され、懲罰動議にかけられ、衆議院議員を除名(p.54)されました。
これ以降、軍部批判は完全に封じられ、日本は太平洋戦争に突入していきました。
世の中の流れがどんなに強くても、流されない人はいます。流されない強さを持つ・・・大事なテーマです。自分の頭で多角的に考えることが基本で、それに強い意思を併せ持つことでしょう。でも、それはなかなか大変です。

