暴言ファクトリー
はじめまして、花子さま。
今日はどんな暴言をお求めでしょうか。
「はい、昨日、夫と喧嘩をしまして…」
──
背景をしっかり聞くことから始めます
ご購入いただくには、納得感が必要です
お仕事は至極丁寧に
──
「ずっと、我慢していたので、言ってやったんです。『あなたはスマホばかり見ていて、いいわね』って」
「そしたら、急に怒って、『疲れて帰ってきて、そんなことを言わなくてもいいじゃないか』って」
「『仕事の連絡だって、来ているんだ』とか、なんとか」
──
自分への関心が低い、よくある夫婦の喧嘩です
いつもの処方で、80dbが適当でしょう
でも、最後までしっかり伺います
──
「それで、頭に来て、スマホを取り上げて、窓から投げたんです」
──
手元の成分表にチェックを入れます
激情+++
お話は否定をせず、共感に徹します
──
「夫もびっくりしたようで、慌てて、外に出ていって、しばらくして、家に戻ってきたんですが、スマホの画面が割れていて…」
「『うまく動かない』とか、『仕事の連絡が取れない』とか、『データは大丈夫なのか』とか」
「『3年ローンでまだ20回も残っているのに、お金だしてくれるのか』と、さんざん文句を言われて」
「私がどうして、そんな行動に出たのか、全然わかってくれないんです」
「でも、私も、さすがに外に投げてしまったのは、やりすぎたと思って、そこは言い返せず… それから、ずっと夫は不機嫌で」
──
動機と行動のギャップが気になります
もう少し深掘りしていきます
──
「残業も多いし、感謝はしているんです」
「私の方が帰りも早いし、ご飯を作るのも、好きだからいいんですけど」
「ただ、その日は朝から生理で体調もいまいちで」
「仕事ではちょっとしたミスがあって、今日提出のものが間に合わなかったり」
「帰ってきたら、ご飯の予約を忘れていて、ご飯が炊けていないとか」
「夫は、料理は私がやって当たり前くらいに思っているし」
「で、夫に手伝ってもらおうと、リビングに行ったら、夫のスマホに、水着の女性が映っているのが見えてしまって、勢い余って、つい…」
──
嫉妬 +
軽蔑 +
主成分は見えてきたので、仮提案に入ります
──
そうですね。
お客さまのような事情ですと、ご好評いただいている商品は、
「この、変態野郎! 」80db
です。
こちらは、お相手に変な性癖があると、効果も高くてお勧めです。何か思い当たるものはございますか。
「そうねぇ、よく鼻をほじったり、目の前でおならをしてきたりとか、普通にありますけど…性癖ではないですよね」
──
調合に必要な情報が、まだ得られそうです
軽蔑具合を探りにいきます
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腹が立つ、納得いかない、そういった気持ちをいただけるのは参考になります。
「実は…足が臭いんですよね」
「今まで本人には言ったことはないんですが… 悪気があるわけでもないし」
「靴下はなかなかの代物です」
──
許容 ー (マイナス) は確定
今まで許せていたものが許せなくなる典型です
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「他にも…」
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止めるタイミングを見極めます
──
「あと、歯もちょっと黄色くて、クリーニングにも行ってほしいと言っているんですが、中々行かないし」
「トイレが長くて、入った後、臭いから、スプレーしてとお願いしているんですが」
「お風呂も入らないで、ゲームばかりしたり、あとは…」
もう、結構ですよ、ありがとうございます。
──
十分サンプルはとれました
成分表の最終チェックを入れ、仕上げに入ります
──
ちなみに、ご予算はございますか。
「3万円までなら」
承知いたしました。
その範囲内で、ご用意いたします。
用意している間、この吸引マイクで、テストをいたします。
大きな声で「バカヤロー」と言ってみてください。
「ここで、ですか」
はい。
「恥ずかしい」
「ちょっと、待ってください、深呼吸してから」
「緊張するな…」
「よしっ、いきます」
「バカヤロー!!!」
ありがとうございます。70dbですね。
「70dbって、大きいんですか」
普通の大声レベルで十分ですよ。
本番はアドレナリンが出ますので、もっと出るはずです。
本番はあちらの専用ホールで思い切り暴言ください。
「専用ホール?」
体育館をイメージしていただくとよろしいかと思います。
声が全反響する、最新の環境を整えております。
ただし、暴言は1回です。
この緊張感、この一撃という想いで、ぶつけてください。
腹式呼吸、お腹を意識するとよいですよ。
「緊張してきた…」
会場には300人の観衆がいます。
「えっ、人がいるんですか!」
はい、あなたの暴言を受け止めてくれます。
「いや、ちょっと…」
オプションで観衆抜きもできますが、お値段は一緒です。
暴言が決まったとき、大勢の相手に伝えてやったという、満足感が違いますよ。
「わかりました、観衆ありでお願いします」
あと、アプリの事前登録ありがとうございました。
初回特典として、フレーバーをおつけいたします。
フレーバーは、暴言前の前振りフレーズ、香り付けのようなものです。
例えば、「調子に乗ってるんじゃねぇぞ」みたいなフレーズですね。
花子さまのフレーバーですが、「お仕事お疲れさまです」でいきましょう。
「えっ、普通のいい言葉ですよね」
いえ、こちらは反逆フレーバーと言いまして、暴言前に油断させるような効果があります。
「なるほど!」
「いっかい言ってみます」
「お仕事お疲れさま」
「こんな感じですか」
最後に「です」をつけて、「お仕事お疲れさまです」と言ってください。
反逆フレーバーの味が半減いたしますので。
「なるほど、勉強になります」
では、準備ができたようですので、会場にお入りください。
演台に暴言カードが置いてあります。
そちらをご利用ください。
それでは、いってらっしゃいませ。
──
花子さまには、侮蔑的な暴言をチョイスいたしました。
異性問題も絡んでいますので、変態系でブレンドしております。
くつろいでいる旦那さまをイメージして、反逆フレーバーを添えて、よい仕上がりとなりました。
<お客さま診断>
・激情 +++
・嫉妬 +
・軽蔑 ++
・許容 ーー
・ストレート+
・雑言+
・変態+
・90db可
・フレーバー:反逆
──
私はホールに足を運び、演台の前に立った。
見渡すと、300人の観衆がいた。
みんな私に注目している。
「ふぅ」
深呼吸した後、手元のカードを見た。
「えっ、これを、言うの!」
思わず、吹き出してしまった。
観衆が私の一挙手一投足に注目しているのがわかる。
気を取り直して、案内にあった通りに、床に貼られた90dbテープのラインまで下がった。
「よしっ」
私は意を決した。
お腹に力を入れて、姿勢を正した。
「お仕事お疲れさまです!」
会場の空気が、ピンと張り詰めた。
次の言葉を待っている観衆たち。
あぁ! もう! どうにでもなれ!
思いっきり浴びてちょうだい、私の叫びを。
私はこの世に生まれてきてから、いちばんの暴言を吐いた。

