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あなたを完璧超人と診断します

郵便受けに、健康診断の結果が届いていた。 

「血圧測りなよ」「醤油かけ過ぎだし」

頭も身体も疲れ切っていたが、彼女の声が再生されてきた。

封を開けると、一枚の便箋が目に入った。

うん?

ーーーーーーー

超人通知書

この度の健康診断の結果から、あなたを超人と診断します。

属性:完璧超人
※超人適応率が95%以上の方が完璧超人に分類されます。

超人診断は来年から正式採用となります。
今回はプレ健診として、サンプルで選ばれた方に診断を実施しています。

診断結果と超人身分証を送付いたします。

ーーーーーーー

いつもの「要検査」と書かれた結果には、目もくれず、超人診断の結果に目をやる。

HGE、HNGE、NGSEといった英字と数値がいっぱい並んでいる。これが超人要素なのか。

私のHNGEは太字になっていて、標準よりかなり数値が高いようだ。

プラスチック製の超人身分証も入っていた。
そこには超人規則が書かれている。


一、超人たる事実を、他者に開示しない

一、超人同士に限り、相互の開示を認める

一、超人の行動は、常時監視の対象とする

一、本規則に違反した者は、これを連行する

一、完璧超人は、特別警護の対象とする

一、超人は身体が資本、清く健やかに保つ


誰かのいたずらだろう、誰がこんなことを?

健康診断の結果は、いつもと同じ様式だった。
開けられた形跡もなかった。
健診センターの担当者のいたずら?

健診センターに問い合わせをしてみたが、そんなものは同封していないと一蹴された。

警察に相談する?
国家事項だから、無視される?
このスマホも監視されている?

いやいやいや。

こんな冗談を信じられない気持ちと、いたずらを反証できない気持ちが交錯した。

ネットで調べよう。同じ人がいるかもしれない。

「完璧超人」と検索すると、キン肉マンという漫画のキャラクターが出てきた。

「健診 超人」「健康診断 完璧超人」いろいろ調べたが、関連したものが出てこない。

そうか。

対象者がごく一部だから、情報がないのかもしれない。

みんな怖くて、そもそも調べてすらいないのか。

ネットで調べると、急に捕まったりするのか。

やっぱり、警察に相談しよう。
生まれて初めて110番した。

一度話を聞きたいので、警察署まで来て欲しいと言われ、すぐに向かった。

警官からの問いかけには、真摯に答えたつもりだったが、事件性がないと丁重に返された。

どうしたものかと思い悩みながら、家に帰る途中、スマホにショートメールの着信があった。


警告! 
あなたのすべてを監視しています。
規則を破ったら、あなたの明日はありませんよ。


誰かに見られている怖さが襲ってきて、急いで家に帰った。

ご飯を食べても、お風呂に入っても、ベッドに入っても、ずっと超人のことを考えていた。

ネットで調べても、やっぱりキン肉マンしか出てこない。

超人って、なんなんだ。
超人同士なら話してもよいんだよね。
どうやって、超人って見分けるんだ。

警察に話したけど、他人に話したことにはならないのか。

そういえば、あの警官、私の顔をじっと見た後、少し緊張したように、挙動が変わった。

もしや、私が超人だってことを知っているのではないか。

完璧超人は特別警護と規則に書いてあった。

誰かに狙われているのなら、家から出ない方がよいのではないか。

この規則を守っていれば、何事も起きないのではないか。

だって、何かあれば、特別警護が守ってくれるんでしょ?

そんなことをあれこれ考えていたら、朝を迎えてしまった。


ー 翌日

ほとんど眠れなかった。

起きた後、スマホをみたが、新たな着信はなかった。

私は規則を守って、家族や友人にも、話していない。
まだ、この事態を話す心の準備ができていなかった。
喧嘩別れした彼女にも連絡できない。

体調が優れなかったので、また病院に行くことにした。

道中、馴染みのコンビニに立ち寄った。

ATMでお金をおろした後、おにぎりとトクホ茶を買った。しばらく何も食べていなかった。
私の顔を見た店員さんの挙動が、昨日の警官と同じに見えた。
声をかけたら、超人のことを話してしまいそうで、そのまま店を後にした。


病院通りにある、紳士服店にも立ち寄った。

最近、太ってきたので、超人らしからぬ体型ではないかと、不安になってきた。
店員に採寸をお願いした。
少しでもシュッと見えるよう、見立ててもらった。
超人の身体だから、緊張しているのか、神妙な面持ちだった。
超人を測るというのは、大変な責務なのかもしれない。


病院に着いた。

受付でマイナンバーカードを取り出そうとしたとき、超人身分証を一緒に取り出してしまった。受付の人がそれを見てしまったようだ。明らかに驚いた表情をしていた。

やっぱり、私は超人なんだな。

思いのほか、早くに呼ばれた。
受付の順番が繰り上がったのは、超人だからなのか、完璧超人だからなのか。

医者は言った。

「鼻水がひどいね、吸引しましょう」
「鼻毛にえらく絡まっているな」
「鼻毛が伸びているので、切った方がよいですよ」


一、超人は身体が資本、清く健やかに保つ


まずい、規約違反になるかもしれない。
鏡を見てこなかったことを後悔した。


家に帰った。

鏡で鼻の中を覗いてみたら、鼻毛の量が半端なかった。
かなり伸びていて、明らかにこれは一線を超えていた。
どうして、気が付かなかったんだろう。
ずっと忙しかったから、鏡でまじまじと自分の顔を見ていなかった。

彼女にプレゼントされた鼻毛カッターを使ってみた。
なかなかうまく剃れない。


スマホの電話が鳴った。

彼女からの電話だった。

えっ、どうして?

何度か鳴ってから、静かにタップした。

「もしもし」

「私知ってるよ、超人になったんだって?」

あっ、いたずら好きの彼女の仕業だとすぐにわかった。

超人だと思い込んでいた自分が恥ずかしい。
怒りと悔しさと、でも、電話をくれたことの嬉しさと。

「馬鹿馬鹿しい、あんなものをよこして」

「鼻毛が伸びていると言っただけで、楽しい旅行が台無しになったし、仕返しよ」

いろいろ言いたいことがあったが、引き止める言葉をいちばんに考えた。

「わかったよ、俺が悪かった。だから、」

そう言いかけたとき、遮るように、彼女が優しく小さく呟いた。

「早く鼻毛を剃りなよ、剃ったら超人から常人に戻れるよ」

その言葉を最後に、電話は切れた。

通話を終えた画面には、旅行中に撮った彼女の写真が映っていた。

私は、未読だったメールを開いた。



ー 次の日

私は昨日仕立ててもらった服で、彼女の元へ向かった。

もう戻ってこないことはわかっている。

彼女の遺影の前で報告した。


「鼻毛、剃ったよ」
 
 


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