【オトナになることのうた】弓木英梨乃●「終わらない遊び」のファジィな気持ち
このところは、昔の映像作品を観ていました。仕事で。
それからマドンナの新しいビデオには驚きました。何なん、これ。
「三つ子の魂百まで」という言葉を思い出したな。すさまじいし、恐ろしいくらい。これぞアーティストというもの。
で、先日からはMUSIC AWARDS JAPANを、前あおり番組も含めて観ており……といっても一部ですが。そこは投票したひとりなので、視聴しておく必要はあると思ってですね。
で、いろいろと考える、考えさせられるところがありましたね。ネット上の反響も参考になりました。うーん。音楽関係者の間でも反応は割れていますね。まあアウォードものはそんなものだとも思いますが。
ただ、その時々の政権、政治家との距離は、うまくとるべきだと僕は考えます。
そして多くの音楽ファンから愛され、支持される賞になっていってほしいと思っています。
さてさて。今回は弓木英梨乃です。「ゆみき・えりの」と読むアーティストです。
ギタリストにしてシンガーソングライター、弓木英梨乃について
弓木英梨乃はギタリストとして認知されていて、また、シンガーソングライターとしての側面も持つミュージシャンである。明るい笑顔でかなり凄腕のギタープレイを聴かせる人で、その上に自作の歌も作り、唄う。
これは最近の彼女自身のYouTubeチャンネルのポスト。投稿されているのは、基本的にはギタープレイのレクチャーである。
今回この人のことを取り上げようと思ったのは、僕が先月、彼女にインタビュー取材したことが大きい。
その記事は、発売中の雑誌『音楽と人』の7月号に掲載されている。

これから書く話のいくつかは、この時のインタビューと、それに向けて弓木の歩みをおさらいしたことがベースになっている。ただ、雑誌自体は発売されてさほど日が経っていないため、ここで当該記事の内容を明らかにはしない。
当エントリーを読んでこの人に興味を持った方は、ぜひ『音楽と人』を読んで、今の彼女の思いや考えを確かめてほしい。掲載されているインタビューは5000字以上あるが、弓木のインタビュー記事を見てみたら、ギターのテクニックの話やマレーシア留学の話題に重点が置かれたものが多かった。それだけに音人の誌面ではそうした話よりも彼女の人となりや性格、その魅力、そして現在思っていることなどを少しでも引き出そうと思った。
逆に、雑誌のほうを読んでから検索などでここに来てくれたような方は、あの記事のバックストーリー的なものとして目を通してもらえればと思う。
さて、今回僕がインタビューしたきっかけは、弓木が今月10日に新曲「Kaiho」をリリースしたことである。ソロ名義での作品のリリースは相当ひさびさなのだという。
ちなみにこのエントリーのアイキャッチ画像は、「Kaiho」のアーティスト写真を使っている(関係者の方、もし不都合あれば、ご連絡ください……変更します)。
翻ってみると、弓木のソロ作品としては、2019年に弓木トイの名で発表した企画的なミニアルバム以来となる。つまり、KIRINJI在籍中のことだ。
また、その後にはEテレの番組『チキップダンサーズ』で今も使用されている「チキップダンス」(2022年)がある。うちのリビングでもよく流れている番組で、この曲のギターにはかなりなじんでいた。ポップでかわいい曲。
さらにこうしたものの他にコラボ作もいくつかある。昨年はDE DE MOUSEと共演した楽曲が発表されている。
それに先月末、僕は日比谷音楽祭で、数年ぶりに彼女のプレイを何曲か生で聴くことができた。達者な演奏に加え、イキイキと弾く姿が相変わらず素敵だなぁと思った。
調べてみたところ、弓木の正式なソロ名義での作品リリースは、やはりシンガーソングライター時代以来だった。となると2011年から、15年ぶりということになる。
今回この「Kaiho」にまつわる取材依頼が僕のところに来たのは、おそらく編集者がなんとなく思いついたからだと思う。格別、裏付けめいたものはなかったはずだ。
ただ、実はこのオファーが来る数日前に、僕は彼女のことを思い出していたところだった。新曲が出るとか、その手の情報を知ってたわけでもないのに。本当にふと、偶然に。
その回想は……KIRINJIの頃にインタビューで弓木さん(と他のメンバー含め計3人)に会って、話をしたなあ、とか。3年ぐらい前に、ひさびさに弓木さんの生演奏を観たなあ、とか。その程度だったのだが。
そう、弓木英梨乃は、KIRINJIのメンバーだった時期がある。それは2013年から2020年にかけてのこと。この話は彼女を知る人なら、かなりの割合でご存じかと思う。
実の兄弟ふたりによるアーティストのキリンジが、ある段階で兄の堀込高樹だけがその名を受け継ぎ、以後はバンド編成に転換した。弓木は、言わば第2期KIRINJIの一員だったのだ(なお、キリンジはここからアルファベット表記に変わった)。
ベテラン揃いのメンバーたちの中で、弓木の存在感と高い技量はとてもフレッシュだった。
そこからKIRINJIのメンバーとして知られていった弓木。ギタリストでありながら元はシンガーソングライターでもあった彼女が、ここで加入に至った経緯もそこにあった。その前に堀込高樹が彼女の楽曲をプロデュースして、つながりが生まれていたのだ。
その曲は、2011年の「River」である。
ただ、彼女がシンガーソングライターとして活動した頃の楽曲のことは後半で触れるので、ひとまず置いておく。
そしてKIRINJI以降の話は近年のインタビューのいくつかで弓木本人が語ってもいるので、あとは大まかなところだけフォローしておこうと思う。
KIRINJIでの活動を終えた弓木は2021年、マレーシアのクアラルンプールの音楽大学に留学する。これは前々から考えていたことで、音楽の基礎知識を海外で学びたいという意志によるものだった。留学当初はコロナ禍によるロックダウンのため在宅での受講になるハプニングもあったが、それでもさまざまなことを学習できたとのことだ。
また、この留学期間に自身のYouTubeチャンネルを開設し、ギターの動画をアップしていったことはかなり大きかったようだ。ギター演奏やそのレクチャーの動画の中でも、BTSの「Dynamite」をプレイした回はものすごいアクセス数を叩き出している。2021年の1月に投稿され、早いうちから高い人気を集めたようで、5年半が経過した現時点では388万回も再生されている。
2023年にマレーシアから帰国した彼女は日本での音楽活動を再開し、各方面でより活躍するようになっていった。サポート仕事だけでも、(これもEテレ関連)で弾く姿をよく見ていたもので、近年の日比谷音楽祭での演奏もこの流れにあると思われる。
さて。こうしてギタリストとして多くのアーティストやシンガーたちに人気の弓木が、先ほど書いたように、今回ひさしぶりに自分の気持ちを込めた新曲を出した。
【 #オトナになることのうた 】としては、ここからが本題である。
「終わらない遊び」に息づく、子供でもなく大人でもない感
シンガーソングライター時代の弓木は、EMIミュージック・ジャパンからメジャーデビューしている。そもそもそれ以前からギター弾きとしても注目されていたようで、このデビュー当時も唄いながらギターを弾いていたようだ。
彼女はそれから2年強にわたる期間のうちに、EMIでシングルのみを残している。
2009年10月リリースのデビュー曲は「LΦST」。映画版の『携帯彼氏』の主題歌だったとのこと。
まだ10代だけに、歌には青春の匂いがある。
ただ、ここでは青いきらめきとかよりも、そんな若さの日常の中で感じる、相手に届かない思いや、満たされない気持ちが表現されている。
タイアップ曲なので映画のストーリーに寄せた内容でもあると思われるものの、切実な感情が心に残る曲である。
続いて、翌2010年の6月には、2枚目のシングル「BLUE」を発表。これもまた繊細な心情を描いた歌だ。
孤独の中でもがきながら、その悲しみの淵で逡巡しているかのようだ。ただ、曲調からはポジティヴさがにじんでくるかのようで、そのことがいくばくかの救いの感覚をもたらしてくれる。
また、当時からギタリストとしての自分を意識していたのだろう。いずれの曲でもギターを弾いているのはもちろん、次の曲のようにギターインストもある。
そして、こうしたソロの楽曲の中で僕のほうに引っかかったのは、「終わらない遊び」という曲である。2010年12月リリースの、3枚目のシングルだ。
これもセンシティヴなミディアムテンポで、歌の中では自分が少女、子供だった頃を回想している。
動画の解説には、「マンガ『20世紀少年』に影響を受け“少年から大人へ”という誰もが通る道をテーマに制作した楽曲」とある。そうしたテーマ性の中で、<だから僕は そして君も/大人になったんだ>という印象深い歌詞が唄われる。
この頃の弓木は20歳。当時の彼女は、大人になることを強く意識していたのだろうか。ただ、歌を聴くかぎりは、大人になったと言い切れるほどの確信があるようには、僕は感じられない。むしろ自分の中にまだある子供っぽさと、こんがらがっているイメージが見える。どちらかというと揺れ動いてる感覚が匂う。
一方、もはや大人になった現在の僕からすると、こうした表現は青春時代だからこそというふうにも思う。
この2010年代初頭までで、ソロ作のリリースはひと区切りとなる。そしてこれ以降の彼女はKIRINJIへの加入があったり、他アーティストとの仕事が次々に舞い込んだりと、膨大な量の仕事に立ち向かっていくことになっていった。
そこで弓木がとにかく仕事をどんどんやっていったことには、もうひとつ、別の理由があったようだ。さっき触れた、大人になることへの気持ちが20歳の段階で明確にあったのは、そのことも原因だったのか?と思ったほどである。
これについては、ぜひ『音楽と人』7月号を読んでいただきたい。僕はちょっと驚いて、しかし納得してしまった。これは、そこまで出回ってる話ではないように思う。
この20歳の頃からけっこうな月日が流れ、KIRINJI時代も通過し、マレーシアに勉強に行って帰り、今ではギタリストとしての高い評価を得ている弓木。
そんな彼女が今月リリースした曲「Kaiho」。プロデュースは、キーボーディストとして活躍する高野勲が担当している。心情のファジィなうねりを持つこの曲には、今の彼女が感じられる。
この曲はソロプロジェクトの始まりでもあるようだ。歌の通り、今後は見たことのない弓木英梨乃がもっと現れてくる予感がする。
そこで彼女がどんな姿を見せてくれるのか。期待している。

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