「ペール缶に入るサイズやったら買う」
携帯バーベキューグリル『BB-CAN』ができるまで
前回、テレビ番組で『IRORI』を取り上げてもらった話を書きました。ありがたい話でしたが、番組の中では「高い」「大きい」とも言われました。
三本目は、その宿題の話です。
まず、みかん箱の大きさで作りました
小さくすればいい。単純にそう考えました。
作ったのは、みかん箱に収まるくらいの大きさのものです。IRORIと同じ考え方のまま、寸法だけ落としました。
結果は、不評でした。
中途半端だったのだと思います。持ち運ぶには大きく、大勢で囲むには小さい。誰のためのものなのか、はっきりしませんでした。
製品化していません。 試作で終わりです。
いま振り返ると、原因ははっきりしています。このとき私は、大きさを自分で決めていました。
琵琶湖で、言われた一言
その中間サイズを、琵琶湖で開かれたアウトドアフェスタに出しました。
売るというより、反応を見にいったようなものです。
そこへ、一人の男性が来られました。キャンピングカーのオーナーの方で、しかも福井から遊びに来ていた社長さんでした。
その方が、うちの試作を見て、こう言われました。
「ペール缶に入るサイズやったら買う」
ペール缶というのは、二十リットルほどの金属の缶です。油などが入っている、あれです。車に積むにも、置いておくにも、寸法がはっきりしている。
私が悩んでいたことの答えが、一言で出てきました。
しかも、ただの感想ではありません。「そのサイズなら買う」と言われています。寸法と、買う理由が、同時に来たわけです。
寸法が、先に決まりました
そこからは、話が早くなりました。
ペール缶に収まること。これが最初に決まった条件です。あとは、その中でどこまでできるかを詰めていくだけです。
みかん箱のときとは、順番が逆になりました。先に外側の寸法が決まっていて、中身をそこに合わせる。

窮屈なようですが、こちらのほうがはるかに作りやすい。決めなければならないことが減るからです。
試作は、何台も重ねました。
最初の百個は、自分で作りました
形が決まって、最初の百個は自分で作りました。
これは自慢ではありません。ほかに方法がなかっただけです。うちは受注生産の鉄工所で、同じものを何百個も流す設備はありません。
ただ、百個作ってみると分かることがあります。どこに手間がかかっているか。どこが自分にしかできない工程で、どこが誰にでもできる工程か。
自分で百個作らないと、外に頼む相手も決められませんでした。
燕三条に電話をしたら
いちばん困ったのが、炭を載せるボールです。
うちのオリジナルの形で作りたい。しかし数は出ません。小さい会社が、少ない数で作ってくれるところを探すのは、簡単ではありません。
燕三条のメーカーに問い合わせました。断られても仕方がないと思っていました。
ところが、電話の向こうで社長がこう言われたのです。
「世田谷ベース、見てましたよ」
たまたま、あの番組をご覧になっていたそうです。
そのご縁で、少ないロットでも引き受けていただきました。 今でもありがたいと思っています。

置いてきた一台が、こんなところまで効いていました。
そして、千個
『BB-CAN』は、いまも売っています。
49,500円
組み立てると 幅37×奥行37×高さ50センチ、収納すると 直径30×高さ36センチ
重さ5キロ
本体・脚・支柱・網受け・炭皿・灰受けはステンレス
焼き網と鉄板を12センチの範囲で上下できます
商標・意匠とも登録しています
コンセプトは「遠火の強火」です。炭との距離を変えられれば、火加減が変えられる。IRORIでやっていたことを、そのまま缶の中に入れました。
トータルで千個くらい出ています。 うちの商品では、いちばん多い数字です。

そして、あの琵琶湖の社長さんは——
BB-CANも、IRORIも、HOMRAも、買ってくださいました。 三つともです。
一言くださった方が、結局、全部買ってくださいました。
三つ作って、分かったこと
ここまで三本書いてきて、気づいたことがあります。
HOMRAは、料理研究家の方の困りごとから始まりました。IRORIは、ドイツの方の依頼から始まりました。BB-CANは、琵琶湖で会った方の一言から始まりました。
自分で思いついて当てた商品は、一つもありません。
しかも、その薪オーブンも、IRORIを展示会に出したところから来ています。商品が、次の商品を連れてきただけでした。
そして、自分で大きさを決めたみかん箱サイズは売れず、人に言われて決めたペール缶サイズは千個出ました。
これは、別の連載で資格の話を書いたときと、まったく同じでした。先に自分で方向を決めたものは、どれも当たっていません。来たものに乗ったほうが、結果が出ています。
自分の頭は、あてにならない。
そのかわり、人の一言を聞き逃さないことは、まだこれから何度でも使えます。
福井の鉄工所、株式会社TAYASUの田安繁晴です。うちが作った商品を、始まりから今までたどっています。これまでは薪オーブン『炎〜ほむら〜』と、大型バーベキューグリル『IRORI』でした。
