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夜の湖に、もうひとりの私がいた

空音(そらね)のソラより。


静まり返った湖のほとりに
わたしはひとり、立っていた。

 

空と水の境いめが
うすくにじんで消えていくころ、

水面に映ったわたしが
ふいに、こちらを見つめ返してきた。

 

けれど、鏡のように
まったく同じ顔ではなかった。

 

少し遠くを見ている目。
わたしよりも、すこしだけ静かな呼吸。

 

「ああ」
声にならない声が、胸にこぼれる。

 

そこにいたのは
ずっと会いたかった、
ほんとうのわたしだった。

 

忘れていた夢を抱いたまま
傷つくことを恐れて、
深く沈んでいた、わたしのかけら。

 

わたしはそっと手をのばして
その水の奥にふれようとする。

 

すると――
やわらかな光が、湖の底から立ちのぼり
まるで月明かりのように、
わたしの足もとをてらした。

 

「帰ってきてくれて、ありがとう。」

 

誰の声でもなく、
でもたしかに魂の奥で
そうつぶやく音がした。

 

 

世界は今日も静かだけれど
たしかに、
ひとつの奇跡が起きていた。

 

わたしがわたしを思い出した――
その夜の湖にて。

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