風の記憶をまとって
空音(そらね)のソラより。
ある日の夕暮れ、
わたしは風とすれちがった。
その風はどこか懐かしく、
でも今までに出会ったことのない
やさしさをまとっていた。
木々の葉をゆらし、
草花の香りを運び、
水面にそっと波紋を描く。
何も言わずに
わたしの頬をなでて、
背中にあたたかな光をのせていった。
ふと、胸の奥がふるえた。
「ああ、あれは」
かつてわたしの一部だったもの。
なくしたと思っていた
願いのかけら。
風になって
もういちどわたしにふれてくれた。
そうか。
手放したものは
消えたのではなく、
かたちを変えて巡ってくるのだ。
たましいは
風のようにかろやかに
また出会うべきものと
ふたたび出会う。
夕暮れの中、
わたしはそっと目を閉じて、
その風の名を
胸の中で呼びかけた。
それはたしかに
わたし自身だった。
