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【掌編】満月ポイント #チャレがや杯2026

『満月ポイント3倍デー』の、のぼりが月を刺している。おだんごみたいと思っていると、となりを歩いている、おーなりくんが「おだんご食べますか?」と、みたらし団子のパックを差し出した。

「あんこがいいな」
と、意地悪く答える。
「あんこ、あり〼」
創業100年みたいな『あります』の言い方をして、おーなりくんは、あん団子を差し出す。仕方がないので、あん団子を受け取る。満月ポイントの前で、それを頬張る。

「先輩って、地元どこですか」
大学の演劇サークルの後輩であるおーなりくんは、照明係だ。帰り道の方向が同じだってだけで、まだ個人情報を渡す気になれない。
「月だよ」
「表側? 裏側?」
と思わぬ返され方をするので、付き合うことにする。
「裏側」
「そうなんですね、じゃあ、見えないですね、実家」
おーなりくんは、満月を見上げている。
「おーなりくんの地元は?」
おーなりくんが個人情報を渡すかを探る。
「月です」
そうきたか。あん団子が思いの外、甘い。
「表側ですけどね」
それで私の女優スイッチが入ったみたいで、少し芝居調になる。
「そうなのね。じゃあ、見えるね」
「はい、あの3丁目のクレーターの脇、曲がったところです」
「あそこ、高級住宅街じゃない。おーなりくん、お坊ちゃん?」
「はい、お坊ちゃんです」
そう言いながら、おーなりくんは、みたらし団子を頬張る。なぜか、すごく美味しそうに見える。どうぞ、と串が私の口もとにやってくる。自然にそれを受け入れてしまう。さっきまであんこを食べていたから、しょっぱさを余計に感じる。
「俺もあんこ、いいですか?」
おーなりくんに聞かれて、少し動揺する。それを悟られないように、なるべく自然に、あん団子をおーなりくんの口もとへやる。おーなりくんがそれを食べると、あんこが口もとに残った。
「あんこ、付いてるよ」
「先輩も付いてますよ、あんことみたらし」
あ、と思って指でそれを取ろうとしたとき、おーなりくんはその指を取った。
「取っていいですか?」
と、聞かれる。
数秒、止まる。
「それは……」
答え方に迷っている。迷いながら、目を閉じてしまう。キスしてって言ってるみたいで恥ずかしくなる。閉じた視界におーなりくんの影が近づく。近づくけれど、暗くならないなと思っていると、おーなりくんは、ポケットティッシュで、私の口もとを拭いた。

よかった、と、思う。
目を開けると、少し涙が出た。それから、個人情報をそっと口にする。

「私の実家、月の裏側なの」
「はい」
「だから、誰かを好きになっても、連れて帰れない」
「はい」
「だから、演じてるの。舞台の上なら、誰かを好きになっていられるから」
おーなりくんは、また「はい」と言ったあと、続ける。
「先輩の演技、好きです。ずっと、明かりを当てていたくなります」
「ありがとう、ずっと照らして」
そう言いながら、私はそっとおーなりくんの唇を奪った。これは舞台だ、そう思いながら。

唇を離す。
おーなりくんは、優しい顔をしている。

「実家、近いんで大丈夫ですよ」
「うん、そうだね」

満月ポイントは、3倍じゃ足りないほど、照らしてくれている。


(1262文字)


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