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夜空の残照

天野透は、作業机の前で肩を回した。
午前二時を回っていた。
締め切りまであと三日。
線が震える前に気分転換をしたくなった。

薄手のトレーナーと短パン姿のまま、マンションの階段を下りる。
夜の空気は湿り気を帯び、街灯のオレンジがアスファルトに長く伸びていた。
透はいつもの道をゆっくり歩き、十分ほどで広い公園の入口に着いた。
深夜の遊具は静まり返り、芝生の広場だけが月明かりに青白く浮かんでいた。

広場の中心で、突然、空気が柔らかく震えた。

光だった。
銀色に近い、淡い乳白色の光が、まるで雨のように降り注いでくる。
透の体を包み、肌の内側まで染み渡るような温かさがあった。
驚きはなかった。
ただ、静かに息を吐いた。
光は透の輪郭をなぞり、指の先から髪の毛までを優しく撫でるように広がった。

やがて光が収束する。
広場の向こう側、同じ光の柱の中に、一人の女性が立っていた。

長い黒髪が肩に落ち、細い首筋が夜の闇に白く浮かぶ。
透と同じくらいの年齢だろう。
白いブラウスと淡いグレーのスカート。
女性はゆっくりとこちらを見た。
目が合う。
恐怖も、警戒も、なかった。
ただ、互いに「何か不思議なことが起きたんですね」という思いが、沈黙の中で重なった。

UFOはまだ上空にあった。
静かに浮かび、柔らかい光を放ち続けている。
二人は並んでそれを見上げた。
言葉は交わさず、ただ同じ空を見ていた。

「桜井瑠璃です」

女性が静かに名乗った。
透も自分の名前を告げた。
自然な成り行きで、二人は公園を後にした。
透の部屋へ向かう道中も、ほとんど会話はなかった。
足音だけがアスファルトに響いた。

部屋に入ると、透はキッチンの電気を点けた。
お湯を沸かし、緑茶の葉を急須に入れる。
瑠璃はソファに腰を下ろし、部屋の中をゆっくりと見回した。
壁に貼られたラフ画、散らばった色鉛筆、窓辺の観葉植物。
透は湯飲み茶碗を二つ並べ、瑠璃の前に置いた。

二人は湯気を眺めながら、さっきの光のことを話した。
断片的に。
UFOの形はぼんやりとしていたこと、光が体を包んだときの不思議な心地よさ。
言葉は少なかったが、互いの声の響きが、なぜか懐かしく感じられた。

話すうちに、自然と距離が縮まった。
瑠璃の手が、透の手に触れた。
指先が絡む。
透は目を伏せ、瑠璃の唇に自分の唇を寄せた。
柔らかく、温かい。
キスは深くなり、二人は立ち上がったまま、互いの服をゆっくりと脱がせ合った。

ベッドに横たわると、光の残したものが二人を包んでいた。
肌が触れ合うだけで、甘い痺れが全身に広がる。
透は瑠璃の背中を掌で撫で、瑠璃は透の腰を引き寄せた。
初めてのはずなのに、相手の体をどこか知っているような気がした。
指が胸の膨らみを包み、唇が首筋を辿る。
息が重なり、吐息が混ざり合う。

二人の動きは静かで、しかし深かった。
光に包まれた体は、触れられるたびに敏感に反応し、互いの波を共有するように震えた。
透は瑠璃の髪を指に絡め、瑠璃は透の耳元で小さく息を漏らした。
汗ばんだ肌が滑り、絡み合い、溶け合うような時間だった。
朝の光がカーテンの隙間から差し込むまで、二人は何度も、何度も、優しく交わり続けた。

朝、瑠璃は一度自分の部屋に戻ると言った。
夕方には荷物を持って戻ってきた。
それから同棲が始まった。

朝は透がコーヒーを淹れ、瑠璃がトーストを焼く。
透が仕事をしている間、瑠璃は静かに本を読んだり、近くのスーパーへ買い物に行ったりした。
夜になると、二人は自然にベッドへ向かい、互いの体を求め合った。
光の影響はまだ残っていて、指一本でさえ、深い快楽を呼び起こした。
言葉は少なく、ただ抱き合い、肌を重ね、夜の静けさに溶け込んだ。

週に一度、夜の公園へ出かけた。
広場に立ち、上空を見上げる。
UFOは必ずそこにいた。
淡い光を点滅させ、二人の姿を照らすようにゆっくりと回る。
そして、祝福するかのように一瞬強く輝いた後、星のように遠くへ飛び去っていく。
二人はそれを黙って見送り、手を繋いで家路についた。

ある夜、公園でいつものようにUFOが現れた。
光がいつもより柔らかく、二人の体を包んだ。
瑠璃が透の肩に頭を預ける。
透は瑠璃の腰を抱き寄せた。
光は徐々に薄れ、UFOの輪郭が遠ざかっていく。

二人はそのまま、しばらく広場に立っていた。
風が芝生を揺らし、遠くの街灯が瞬く。
透は瑠璃の指を強く握り返した。
瑠璃も、静かに握り返した。

UFOの光は完全に消えた。
夜空にはただ、いつもの星だけが残っていた。

二人は手を繋いだまま、ゆっくりと歩き始めた。
マンションの明かりが、遠くに小さく見えていた。



UFOの残照が、言葉にしなくても通じ合う絆を優しく照らしている。

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