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『傘の骨』第一夜 九月九日(水) 晴れ

第一章 藤代 環

九月九日(水) 午前七時 ネットカフェ「アンカー」

ご利用時間終了三十分前です、というアナウンスで目が覚めた。
女の声。録音。毎朝、同じところで同じように上がって、同じところで下がる。
環は目を開けたまま、しばらく動かなかった。
見えているのはパーテーションの上端で、その向こうに本当の天井がある。蛍光灯が一列に並んでいて、消えているのを見たことがない。
四日目。
制服のまま寝ている。スカートの折り目は、もうない。

財布を開けた。
千円札が八枚。百円玉が三枚。十円玉が九枚。一円玉が十枚。
八千四百円。
ナイトパックが一泊千八百円。割ると四。
四日。
四日のあとのことは、まだ考えていない。

スマホの電源ボタンを押した。
通知はない。
母からも、学校からも、誰からも。
画面を消した。
毎朝、これをやっている。何を確かめているのか、自分でもよくわからない。ないことを確かめているのだとしたら、もう十分に確かめたはずだった。

ポケットの底に、腕時計がある。
父のカシオ。電池が切れて、八時四十七分で止まっている。
直していない。動いたら、父のじゃなくなる気がするから。
時間はスマホで見る。時計は、時間を見るために持っているんじゃない。

受付で精算した。千八百円。
六千六百円になった。

外は暑かった。
午前七時半でこれ。アスファルトがもう焼けていて、足の裏から熱が上がってくる。ローファーの底が薄い。
テレビでは台風がどうとか言っていた。ネットカフェのフリードリンクのところに置いてあるテレビ。誰も見ていない。
空は晴れている。台風の話をされても、実感がない。

青葉四つ角のガードレールに座った。
ここの信号は長い。前に一度、数えたことがある。七十八秒。
人が渡って、車が流れて、また人が渡る。
スーツの人。ベビーカーを押している人。キャリーケースを引いている人。自転車。自転車。
七回、見送った。
誰も環を見なかった。

正午をすぎると、日陰がなくなった。
図書館は駅の向こうで、そこまで歩く気力がない。歩けば汗をかいて、汗をかいたら着替えがない。
路地を一本入った。
古いビルがあった。四階建て。壁が茶色く汚れていて、エレベーターはなさそうだった。
一階のシャッターが下りている。
シャッターに、白く文字の跡がある。日に焼けた部分と焼けていない部分の差で、そこに看板があったことだけがわかる。
四文字。
読めなかった。

階段に座った。
上から風が落ちてきて、少しだけ涼しい。三段目に足を乗せると、ぎい、と鳴った。

どれくらいそうしていたか、わからない。
上から人が降りてきた。
小さいおばあさん。エプロン。手すりを持って、一段ずつ降りてくる。
環は膝を抱えて、体を小さくした。

「そんなとこにいたら、暑いでしょう」

顔を上げた。
おばあさんが階段の途中で立ち止まって、こっちを見ている。目が合った。

「……はい」

答えになっていない。

「上、来なさい。冷房ついてるから」

環は動かなかった。

「お金、ないです」

言ってから、なんで言ったんだろうと思った。

おばあさんは、少し笑った。

「水はタダよ」

二階に、店があった。
喫茶店だった。カウンターが五つ、テーブルが二つ。それで全部。
入口のドアが重い。開けると、上のベルが鳴った。
冷房が効いている。汗が急に冷たくなった。

窓際の席に座らされた。
テーブルの表面が、拭いても取れないくらい使い込まれている。木目に沿って、うっすら黒い線が入っている。
水が出てきた。氷が入っている。
一口飲んだ。
二口目で、コップが空になった。
おばあさんが、何も言わずに注ぎ足した。

客はいなかった。
棚に、ノートが並んでいる。大学ノート。背表紙に数字が書いてあって、端から端まで詰まっている。何冊あるのかわからない。上の段にも、下の段にも並んでいた。
カウンターの中でおばあさんが豆を挽いている。音が長い。

環はポケットからレシートを出した。
昨日のコンビニのやつ。裏が白い。
ボールペンを持って、線を引いた。
何を描いているのかは、描きはじめるまでわからない。手が勝手に動いて、あとから形になる。
窓の外の、向かいのビルの輪郭になった。室外機と、非常階段と、屋上のフェンス。

「上手ねえ」

声がして、顔を上げた。
おばあさんが、すぐ横から覗き込んでいた。近い。
環はレシートを裏返した。

「隠さなくていいのに」

おばあさんはそう言って、カウンターに戻っていった。それきり何も聞かなかった。
名前も、学校も、なんでこんな時間にここにいるのかも。

一時間近くいた。
出ていくとき、ありがとうございました、と言えた。声が小さかった。

夕方まで、歩いていた。
日が落ちても、暑さは残った。公園のベンチに座って、暗くなるのを待った。

夜十一時をすぎて、コンビニに入った。四つ角の角にある店。
いつも、この時間に来る。昼より人が少ないし、レジの人が変わらないから。
夜勤の店員さん。外国の人。名札はアルファベットで、なんて読むのかわからない。

まず、払込票をレジに出した。
スマホの料金。三千円ちょうど。

止められると困る。
誰からも連絡は来ないけれど、来なくなるのと、来ないのは、違う。
その違いを説明できる相手はいないし、説明する気もなかった。

千円札を三枚出した。財布の中を見られた気がして、すぐ閉じた。

おにぎりを二つ買った。百三十円の棚から二つ。あとはお茶。
レジを打つ音。袋いりますか。いらないです。
財布の中身が三千二百円になった。

外に出た。
行くところは決まっていない。ゆっくり歩いた。

少し行ったところで、裏口のほうから声がした。

「あの」

振り返った。
その店員さんが、白いビニール袋を持って立っていた。

「これ、捨てるやつ。もったいないから」

差し出された。
環は受け取った。
ありがとうございます、と言おうとして、言えなかった。喉のところで止まって、頭を下げるだけになった。

店員さんは、それだけ言うと店の中に戻っていった。
ガラスの向こうで、また立っている。
こっちは見ていない。

公園のベンチで、袋を開けた。
弁当が二つ入っていた。から揚げのやつと、幕の内のほう。両方とも、今日の日付のシールが貼ってある。
割り箸も入っていた。

食べた。
冷たいけれど、味はした。
から揚げを三つ食べたところで、手が止まった。

明日も、ここにいていい。

そう思ってしまったのがわかって、環は箸を持ったまま、しばらく動かなかった。
思ってしまったら、たぶん、もう戻れない。
それでも、弁当は残っていた。

全部食べた。
容器を袋に戻して、ベンチの脇のゴミ箱に入れた。

空を見た。星は見えない。
風が、生ぬるい。

自転車が一台、赤信号を無視して四つ角を突っ切っていった。
ずいぶん急いでいるみたいだった。


第二章 郡司 亮

九月九日(水) 午前十時 中野・アパート

十二万八千円。
目が覚めて最初に浮かぶのが数字っていうのは、我ながらどうなんだと思う。しかも四日連続で同じ数字。たぶん夢の中でも計算してた。

六畳。そのうち三畳が、ドラムセットで埋まっている。
バスドラム、スネア、タム二つ、フロアタム、シンバル三枚、ハイハット。全部そろってる。二十二歳のときに、バイト三つ掛け持ちして買った。
叩けるわけがない。木造アパートの二階で。
だから座布団を敷いて、その上にスティックを置いてある。オブジェだ。三畳ぶんのオブジェ。

スマホの通知を見る。大家からの着信履歴が三件。折り返してない。
あと四日。
顔を洗った。

愛車を引っぱり出す。電動アシスト自転車、中古で買って二年。
バッテリーの残量表示、満充電で三本中二本しか点かなくなって久しい。実質三時間。三時間走ったら、ただの重い鉄の塊になる。
新品のバッテリーが四万。無理。
だから午前中はアシストを切って走る。脚で走る。バッテリーは夜のために温存する。合理的だろ。合理的っていうか、貧乏なだけだけど。

アプリを開いて、稼働開始。
ピック、ドロップ。ピック、ドロップ。
新宿三丁目から、代々木、また新宿。半径二キロを、一日中ぐるぐる回っている。
この街の道はだいたい頭に入ってる。工事してる場所も、抜けられる路地も、時間帯によって歩行者が溢れる場所も。二年やってると詳しくなる。
詳しくなって、どうすんだって話だけど。

昼のピークは腹が減る。人の飯を運びながら腹が減る。
匂いがしてくるんだよ、保温バッグの中から。今日はカレーだった。
運んでる途中で「これ俺のじゃないんだよな」って毎回思う。毎回思ってるってことは、二年経っても慣れてないってことだ。

十四時、休憩。公園の縁石に座って、コンビニのパン。
スマホを見たら、通知が来ていた。

『お引き落としができませんでした』

スタジオの月会費。四千四百円。
個人ロッカーとリハーサル割引がついてるやつ。二年前から使ってない。
解約すればいいんだよな。解約すれば。四千四百円、浮くんだから。
画面を閉じた。

閉じたついでに、指が勝手にSNSを開いた。これがよくない。わかってるのによくない。
いちばん上に出てきた。矢野。元ギター。
スーツ着て、居酒屋で、知らない人たちと肩を組んで笑ってる。
『歓迎会でした! みなさん優しくて安心しました🙏』

二年前まで、週三でスタジオ入ってた男が。ライブの前日に「やっぱこのフレーズ変えたい」って夜中に電話してきた男が。

「よかったじゃん」

声に出してみた。
誰もいない。公園には鳩しかいない。鳩は俺を見ない。

矢野からのDMは、三日前から開いたままになっている。

『十一月、一回だけ集まってライブやらない? 会社の先輩のバンドと対バン。ドラムは亮しか考えてない』

既読はついてる。返してない。
行く、と打てば、また「あと一年」が始まる。行かない、と打てば、終わる。
どっちも打てないから、毎日この画面を開いて、閉じてる。

パンの残りを食べて、立ち上がった。

十八時。ここから稼ぎ時。
アシストをオンにする。バッテリーが三本ぶん点く。嘘つけ、三時間で死ぬくせに。

夜の配達は速い。信号のタイミングを覚えてるから、止まらずに抜けられるルートがある。
青葉四つ角だけは、どうやっても引っかかる。あそこの信号は異常に長い。七十八秒とか、そんなレベル。
……まあ、たまに突っ切るけど。すみません。急いでるんです。

二十一時。売上を確認。八千四百円。
まだ足りない。ぜんぜん足りない。あと二時間で、いけるところまでいく。

二十二時をすぎると、視界が狭くなる。
これは疲れてるときの感覚で、正面しか見えなくなる。信号と、スマホの地図と、ドアの番号。それしか目に入らない。
ヘルメットの中が汗でぬるい。

二十二時十五分。
次、南新宿のタワーマンション。オートロック、暗証番号は伝票に記載、エレベーターで上がって置き配。
伝票を見る。一二〇四号室。
エントランスの番号を打つ。開く。エレベーター。ボタンを押す。

着いた。
廊下が長い。左右に同じドアが並んでる。番号を追いながら歩く。
一〇二〇、一〇二一、一〇二二、一〇二三——

あった。

インターホンを押して、ドアの前に袋を置いて、写真を撮る。
置き配の証明写真。撮ったあとで見返すことなんて一度もないけど、撮る決まりだから撮る。
送信。完了ボタン。

エレベーターで降りながら、次の依頼が入った。
走る。

二十三時二十分、稼働終了。
バッテリーが最後の一本を点滅させている。よく走った。俺もお前も。

アパートの前に自転車を停めた。
アプリで今日の売上を確認する。

一万一千二百円。

口座には六万ある。三ヶ月、飯を削って残した分だ。今日のぶんを足して、七万一千二百円。
十二万八千円まで、あと五万六千八百円。
あと三日。一日あたり、一万八千九百円ちょっと。

……いけなくはない。
いけなくはないけど、それは三日とも今日みたいに走れたらの話だ。今日は十一時間走った。

雨が降ればいい。
雨の日は単価が上がる。上がるけど、事故る。どっちがいいんだ。

保温バッグをカゴから引き抜いた。
空になったカゴを、なんとなく見た。

何も入っていない。
当たり前だ。俺の自転車なんだから。


第三章 白木 詩織

九月九日(水) 午前七時十分 自宅マンション

三日前から和希が出張でいないので、朝の支度にかかる時間が十八分短縮されていることに、詩織は昨日の朝の時点で気づいていた。気づいたうえで、その十八分を睡眠に充てるのではなく、いつもと同じ時刻に起きて、いつもと同じ順番で支度を済ませ、結果として十八分ぶん早く家を出ている。効率が上がったぶんを回収せずに、そのまま前倒しにしてしまうのは自分の悪癖だと自覚しているが、自覚しているだけで、直したことは一度もない。

鞄に資料を入れた。「新宿AOBAプロジェクト」広報基本計画(第三稿)。表紙をめくれば、いつもの数字が並んでいる。

  対象区域:新宿区青葉町一丁目五番地 A棟〜D棟
  敷地面積:二、八四七・六六平方メートル
  着工予定:二〇二七年四月  竣工予定:二〇三一年三月
  総戸数:二百四十六戸(うち商業区画十二)

詩織にとって、あの一帯はこの数字だった。二千八百四十七・六六平方メートル。四棟。二百四十六戸。現地には二度行っているが、いずれも駅から徒歩で外周を回っただけで、個々の建物の中に入ったことはない。入る必要がなかった。広報は建物の中身を売るのではなく、竣工後の生活像を売る仕事だからだ。

十時からの定例で、コピーの方向性が決まった。

  ――この街の記憶を、次の百年へ。

代理店のコピーライターがその一行を読み上げたとき、会議室の空気が一段階だけ好意的になったのを、詩織は正確に感知した。悪いコピーではない。むしろよくできている。「記憶」という語には、失われることへの後ろめたさをあらかじめ引き受けたような響きがあって、それが再開発という言葉の角を上手に丸めている。

自分たちが壊すものを「記憶」と呼び、壊したあとに建てるものを「次の百年」と呼ぶ。その入れ替えが成立してしまうのは、両方を同じ一行の中に置いているからで、置いた人間は自分でもそれが入れ替えだとは思っていない。

思ったが、詩織は何も言わなかった。言うべき場面ではなかったし、言ったところで代案があるわけでもなかった。会議のあいだ、彼女は議事録の欄外に、意味のない直線を三本引いた。

十四時、桐谷部長に呼ばれた。

「白木さん、来期の話なんだけど」

結論から言うと、チームを持ってほしい、という話だった。部下四人。案件は継続でAOBAと、あと二つ。役職としては課長補佐で、給与は月額で四万二千円上がる。

詩織は、桐谷の言葉のうち、事実に関する部分を頭の中で整理した。四人。三案件。四万二千円。それから、自分がその話を聞いてどう感じたかを確認しようとした。嬉しいのか、負担なのか、不安なのか。確認しようとして、うまくいかなかった。感情の在庫を確かめに行ったのに、棚が空だったような感覚があった。

「考えさせてください」

そう答えた。
桐谷は「もちろん」と言って、話を終えた。

自席に戻ってから、詩織は自分がいま何をしたかを考えた。十一年勤めて、昇進の打診に即答したことは一度もない。断ったこともない。すべて「考えさせてください」と言って、二日か三日おいてから、受けている。結果として受けるのなら、その二日か三日は何のためにあるのか。

考える時間だ、と説明することはできる。実際、詩織は考えている。ただ、考えた末に結論が変わったことは、これまでに一度もない。

十八時十分、トイレの個室で、詩織はもう一度確認した。

最終月経開始日から数えて、五十二日。自分の周期は二十九日から三十一日のあいだで、社会人になってから乱れたことはほとんどない。三週間と少しの遅れ。

検査薬は買っていない。ドラッグストアは会社の一階にも、駅にも、自宅の隣にもある。買う時間がなかったわけではない。買っていないのは、買っていないからだ、という以上の説明を、詩織は自分に対してできずにいる。

和希には言っていない。同棲して三年、結婚の話は四回出て、四回とも自然消滅した。四回とも、切り出したのは詩織ではない。自然消滅させたのがどちらなのかは、判定が難しい。

個室を出て、手を洗い、鏡を見た。三十四歳の顔がそこにあった。特に感想はなかった。

昇進の打診と、五十二日目が、同じ一日に来た。

電車の中で、詩織はこれが偶然であることを確認する作業をした。
打診の時期は年度の後期に入る前の九月上旬であり、この時期に来るのは業務上まったく自然である。周期の遅れは五月の繁忙期以降の生活の乱れで説明がつく範囲にあり、これも異常ではない。二つの事象のあいだに因果関係はなく、同じ日に重なったのは、単に確率的な事象が重なっただけである。

論理的には、そのとおりだった。
そのとおりだったが、腑に落ちなかった。

偶然というのは、あとから意味を与えたくなるように人間の側ができている、という話をどこかで読んだ記憶がある。だから意味を与えないほうがいい。与えれば、そこに物語ができてしまう。物語ができれば、それに従って何かを決めてしまう。

決めてしまうのがなぜ嫌なのか、その理由については、詩織は考えないことにした。

二十一時四十分に帰宅した。
部屋は暗く、和希の靴がない玄関は、ふだんより広く見えた。

鍵を閉めて、その場に座り込んだ。

靴を脱ぐ、という動作を行うためには、身をかがめて、かかとに手をかけ、片足ずつ引き抜き、揃えて置く、という四つの手順が必要だった。その四つを実行するのに必要な意思の量を、そのとき詩織は持っていなかった。

電気もつけずに、三和土に座っていた。何分そうしていたか、正確にはわからない。あとで確認したところ、三十五分だった。

空腹はあった。空腹はあったが、冷蔵庫を開けて、何かを取り出して、加熱するか皿に移すかして、食べる、という手順もまた、四つ以上あった。

二十二時十五分、インターホンが鳴った。

目の前で鳴った。壁のパネルが、座り込んでいる詩織の頭のすぐ上にある。
心臓が跳ねた。それでも、すぐには立てなかった。

立ち上がってモニターを見たときには、もう誰も映っていなかった。
ドアを開けた。

足元に、白いビニール袋が置いてあった。

詩織はしゃがんで、それを見た。テープで留められた口。中に、四角い容器の影。伝票が貼ってある。

  生姜焼き弁当(ごはん大盛)+味噌汁  一二〇四号室

自分の部屋は一〇二四号室である。

廊下の左右を見た。誰もいない。エレベーターの表示は、すでに一階まで降りていた。

部屋に持って入って、詩織はアプリを開いた。注文履歴には何もない。当然だった。頼んでいないのだから。
問い合わせのボタンを探した。フォームがあった。「配達に関する問題」「注文していない商品が届いた」。そこまでは進んだ。

進んだところで、指が止まった。

その先には入力欄があり、状況を説明する必要があった。文章にして、送信して、返信を待って、返答して、場合によっては電話をかけて、名前と住所を伝えて、事情をもう一度説明することになる。

その一連の手続きに必要な力を、そのとき詩織は持っていなかった。

アプリを閉じた。

テーブルに袋を置いて、しばらく見ていた。
誰かの夕食だった。一二〇四号室の人が、今夜これを食べるはずだった。その人はいま、届かない弁当を待っているか、あるいはもう諦めているか、どちらかだ。

それを食べるのは、明らかに正しくない。
正しくないが、捨てるのはもっと正しくないように思われた。この理屈が破綻していることは、詩織自身がいちばんよく理解していた。

テープを剥がした。
容器の蓋を開けると、まだ温かかった。生姜の匂いが立った。ごはんが、容器の三分の二を占めていた。大盛。自分では絶対に頼まない量だった。

割り箸を割った。片方が斜めに裂けた。

一口。
濃い。味付けが、はっきりと濃い。若い人が食べるものの味だ、と思った。

二口。

三口目で、詩織は泣いていた。

最初、自分が泣いていることに気づかなかった。頬が濡れているのを手の甲で拭って、それで気づいた。

泣いている理由を、詩織は探した。
昇進の話。四人の部下。四万二千円。五十二日。検査薬。四回消えた結婚の話。三年。三十四歳。この街の記憶を、次の百年へ。二千八百四十七・六六平方メートル。

どれも、泣くほどのことではない、と思った。
ひとつずつ検討して、ひとつずつ、泣くほどのことではないと判定した。

判定は終わったのに、涙は止まらなかった。

箸を持ったまま、詩織は声を出さずに泣いた。泣きながら、生姜焼きを食べた。ごはんも食べた。味噌汁は冷めていたが、飲んだ。
全部食べた。大盛のごはんを、一粒も残さずに食べた。

容器を洗って、水を切って、資源ごみの袋に入れた。
その動作を、詩織は何の抵抗もなく行えた。三十分前には靴も脱げなかったのに。

明日、病院に行こう。

そう思った。思ったことを、詩織ははっきりと認識した。今日いちばん、自分の意思に近いものだった。

窓の外で、風が出はじめていた。
台風が来るらしい、と誰かが言っていた気がした。


第四章 大迫 順平

九月九日(水) 午前五時 大久保・アパート

五時に目が覚めた。
目覚ましは五時十分にかけてある。鳴る前に起きる。八年、そうだ。

顔を洗った。飯は食わない。朝は入らない。
作業着を着た。安全靴を履いた。

部屋を出た。鍵をかけた。
六畳一間。風呂はない。銭湯は歩いて四分。

現場は西新宿。雑居ビルの内装解体。
七時集合。手配師が名前を読み上げる。大迫、と呼ばれて、手を挙げた。

防塵マスク。ゴーグル。手袋。
バールを持った。

石膏ボードを剥がす。天井から。壁から。
粉が舞う。ゴーグルの内側が曇る。何度も拭く。
剥がしたボードを運ぶ。台車に積む。運ぶ。積む。

昼まで、それだけをやった。

十二時。休憩。

外の階段に座った。若い連中は座らない。立ったまま弁当を食う。
膝が鳴った。腰も。五十一の体だ。

缶コーヒーを買った。百三十円。微糖。
開けて、一口飲んだ。

手を見た。
手袋を外した手。爪の間に、白い粉が入っている。石膏だ。
指の関節が太い。爪が割れている。右の親指の付け根に、古い傷がある。

この手で、刺身を引いていた。
十一年、そうしていた。

缶を空けて、立った。

午後もボードを剥がした。

十七時、片づけ。
工具を返した。日当を受け取った。九千円。

現場を出た。

十八時二分。
駅に向かって歩いているとき、ポケットで震えた。

立ち止まって、出した。

通知が一件。

美結。

立ったまま、画面を見た。

  今週、東京に行きます。会えますか

それだけだった。

もう一度読んだ。
三度読んだ。

友だちリストの一番下に、ずっとその名前がある。消していない。向こうも消していない。八年、一度もやり取りがない。
去年、アイコンが変わった。犬の写真になった。柴犬だ。
犬を飼ったんだろう。それだけのことを、何度も見た。

二十一になっている。
最後に会ったとき、十三だった。

返信を打った。

  元気か

消した。

  久しぶりだな

消した。

  いつ来る

消した。

画面を暗くして、ポケットに入れた。
歩いた。

「たぬき」に寄った。

間口二間の立ち飲み。角打ち。カウンターだけ。
畑中が顔を上げた。何も言わない。

ウーロン茶が出てきた。
注文はしていない。八年、注文したことがない。

一年二ヶ月、飲んでいない。
やめた日のことは覚えている。覚えているが、誰にも言っていない。畑中にも。

畑中は言わない。何も聞かない。ただウーロン茶を出す。それだけの関係が八年続いている。

常連が二人いた。競馬の話をしていた。
テレビが台風のことを流していた。まだ遠いらしい。

ウーロン茶を半分飲んだところで、畑中が言った。

「青葉ビル、来月壊すらしいな」

グラスを持ったまま、少し置いた。

「……そうか」

畑中はそれ以上言わなかった。布巾でカウンターを拭いた。

残りを飲んで、四百円置いて、出た。

二十時。部屋に戻った。

電気をつけた。
シンクに、朝使ったコップがひとつ。洗った。伏せた。

布団を敷いた。
横になった。
電気を消した。

天井を見た。

スマホを出した。画面をつけた。
文面は、変わっていない。

  今週、東京に行きます。会えますか

既読になっている。八年ぶりに、既読をつけた。
向こうには、それが見えている。

打った。

  あ

消した。

画面を伏せて、枕元に置いた。

眠れなかった。

二時間、目を閉じていた。
起きた。

窓を開けた。
生ぬるい風が入ってきた。
路地の向こうに、まだ開いている店の灯りが見えた。


第五章 桑野 タキ

九月九日(水) 午前六時 青葉ビル二階・喫茶「タカラ」

六時に起きる。四十五年、そうしている。

二階の店に上がって、まず窓を開ける。朝の空気を入れる。九月でも、朝のうちはまだ通る風がある。
それから豆を挽く。
手挽きのミルで、ごりごりと。電動のもあるけれど、朝の一回目だけは手で挽くことにしている。この音を聞くと、身体のほうが「今日が始まった」と思ってくれる。

カウンターを拭く。五席ぶん。
テーブルを拭く。二卓ぶん。
椅子を一脚ずつ下ろして、揃える。

窓際のテーブルの、向かって右の椅子。これは宝一さんが選んだ椅子だった。座り心地がいいからと言って、他の椅子より千円高いのをわざわざ取り寄せて。四十五年でずいぶん傷んだけれど、まだ座れる。

今日は何時に帰ってくるのかしらねえ、と思って、思ってから、ああ、と思い直す。

二〇一九年の十一月だった。もう七年になる。

七年になるのに、朝にこの椅子を下ろすときだけ、時々そうなる。

九時半に暖簾を出す。喫茶店に暖簾というのも変だけれど、開店したときからそうしている。宝一さんが「そのほうが入りやすい」と言ったから。

最初のお客はたいてい松本さんだ。今日も来た。

「暑いねえ」
「暑いですねえ」
「台風が来てるらしいよ」
「そうらしいですねえ」

四十年、この人とは天気の話しかしていない。
どこに勤めていたのか、家族がいるのか、いないのか、知らない。松本さんもこちらのことは何も聞かない。ブレンドを一杯飲んで、三十分いて、四百五十円置いて帰る。それを四十年やっている。

十時すぎに、三階の空き部屋を見に来たという男の人が来て、コーヒーを飲んで帰った。不動産屋さんだろうか。何も聞かなかった。

昼前に、レジの下の引き出しを開けた。

入っている封筒には、几帳面な字で表書きがしてある。

  建物明渡しに関する件(ご通知)

九月三十日。
三回読んだ。三回とも同じことが書いてある。当たり前だ。

最終営業日は十三日にしよう、と、もう決めている。日曜日だから。日曜はお客さんが少ないから、店じまいには向いている。
誰にも言っていない。松本さんにも言っていない。

言えば、みんな来てしまう。
来てもらったら、泣いてしまう。
泣くのは、片づけがぜんぶ済んでからでいい。

封筒を戻して、引き出しを閉めた。

一時をすぎて、砂糖の袋が切れそうだったので、下の自販機の横に置いてある段ボールを取りに降りようとした。

踊り場に、子どもが座っていた。

膝を抱えて、階段の隅にくっつくようにして。制服のスカート。皺が寄って、折り目がなくなっている。靴のかかとが潰れている。
肩まで髪があって、前髪だけ変なところで切ってある。自分で切ったんだろう。

こういう子は、時々いる。四十五年もやっていれば、時々いる。

「そんなとこにいたら、暑いでしょう」

子どもが顔を上げた。目が合って、すぐ逸れた。

「……はい」

返事になっていない返事だった。

「上、来なさい。冷房ついてるから」

動かない。それから、下を向いたまま言った。

「お金、ないです」

その言い方が、なんだかおかしかった。ずいぶん急いで言ったので。

「水はタダよ」

窓際に座らせて、氷を入れた水を出した。

一口飲んで、二口で空になった。
何も言わずに注ぎ足した。
二杯目も、ほとんど一息で飲んだ。

いつから何も飲んでいなかったのか、とは聞かない。
聞かないほうがいいことは、四十五年でだいたいわかる。
聞いてほしい人は、聞かなくても話す。話さない人は、聞いても話さない。それだけのことだ。

この店は、そういう場所として持たせてきた。宝一さんもそうだった。あの人は人の話を聞くのが好きだったけれど、自分から聞き出したことは一度もなかった。

子どもは、ポケットから紙切れを出した。レシートだった。
ボールペンで、何か描きはじめた。

持ち方が、鉛筆の持ち方じゃない。指に力が入りすぎている。誰かに習ったわけじゃないんだろう。
でも、線が迷わない。すっと引いて、途中で止めない。

カウンターに戻って、豆を挽きながら見ていた。
三十分ほどで、向かいのビルが紙の上にできあがった。室外機と、非常階段と、屋上のフェンスまで。あんな細かいところまで、あの子は見ていたのか。

水を注ぎに行ったついでに、覗き込んだ。

「上手ねえ」

子どもが、さっとレシートを裏返した。手のひらで押さえて。

「隠さなくていいのに」

それきり何も言わずに、カウンターに戻った。

三十分ほどして、その子は帰っていった。ドアのところで、ありがとうございました、と言った。小さい声だったけれど、ちゃんと言えた。

午後は三人来た。
常連が二人と、道に迷ったらしい人がひとり。迷った人には道を教えて、それでも冷たいものを頼んでくれた。

六時に暖簾をしまった。

洗い物をして、フィルターを片づけて、豆の残りを量って、明日の仕込みの分だけ出しておく。
椅子を上げる。二卓ぶんと、カウンター五席ぶん。窓際の右の椅子は、いつも最後に上げる。

それから、ノートを出す。

カウンターの後ろの棚に、大学ノートが並んでいる。背に数字が書いてある。一から順に、いま百二十七まである。上の段と下の段で、棚が二段とも埋まっている。

一冊目は一九八一年の四月だ。字が若い。力が入っている。
開店した年は、お客さんがほとんど来なかった。宝一さんが毎晩「今日は何人来た」と聞くので、聞かれるたびに思い出すのが面倒で、書きつけるようにした。それだけの理由で始めた。

そのうち、聞かれなくても書くようになった。
宝一さんがいなくなってからも、書いている。

書くのは、その日の天気と、来た人のことだけ。
名前は書かない。名前を知らない人のほうが、ずっと多いから。

常連さんは「松本さん」と書くこともあるけれど、たいていは「新聞の人」とか「いつもの若い夫婦」とか、そんなふうに書く。それで思い出せる。思い出せているうちは、それでいい。

万年筆のキャップを外した。
百二十七冊目の、三ページ目。

  九月九日 晴 松本さん いつもの
        不動産屋さんらしい人 三階を見にきた
        制服の子 いつもの席 うつむいて絵をかいていた

書いて、インクが乾くのを待って、閉じた。
棚に戻した。百二十七冊目が、百二十六冊目の隣に収まった。

電気を消して、階段を降りた。
三段目が鳴いた。四十五年、ずっとここが鳴る。宝一さんが直そうとして、余計にひどくなった。

シャッターを閉めて、鍵をかけた。

通りに出て、一度だけ振り返った。
二階の窓は暗い。当たり前だ。いま消してきたのだから。

表の四つ角の、コンビニの灯りだけが白く光っていた。


第六章 グエン・ティ・マイ

九月九日(水) 午後十時 サンライト新宿青葉店

二十二時、シフトイン。
レジに入ると、四つ角が正面に見える。ガラスが大きいので、横断歩道の端から端まで入る。三年、この景色を見ている。

夜勤は八時間。二十二時から翌六時まで。
時給千二百三十円。深夜割増がついて千五百三十七円。八時間で一万二千二百九十六円。休憩一時間を引いて、一万七百五十九円。

この計算を、毎晩している。計算しなくても額はわかっているのに、それでもする。数字を並べると、少しだけ落ち着く。

借金の残りは四十二万円。来日のときにブローカーに払った百三十万円の、残り。
妹の学費は三ヶ月に一度、まとめて送る。次は十月。八万円。

二十二時台に来るのは、まだ仕事帰りの人だ。
スーツを着て、缶ビールと、つまみを一つか二つ。会計のあいだ、ほとんどの人がスマホを見ている。顔を上げない。

二十四時をすぎると、変わる。
酔った人が増える。声が大きくなる。同じことを二度言う人がいる。

二時をすぎると、また変わる。
働いている人が来る。清掃、警備、飲食の締めのあと。この時間の人たちは、静かで、買うものが決まっている。おにぎりと、あたたかいお茶。会計が速い。

四時をすぎると、誰も来ない。
その時間に品出しをする。

これを三年、見ている。
この街に住んでいる人より、この街の夜を見ている時間は長いと思う。

二十三時十分、男の人が来た。缶チューハイを三本と、ホットスナックのケースを覗いた。

「これ、あっためる?」
「はい、そのままお出しできます。あたたかいです」
「え?」
「あたたかいです」
「……ああ、うん」

二度目で通じる。一度目と二度目で、わたしは同じ発音をしている。
聞こえなかったのではないと思う。聞く準備ができていなかったのだ。わたしの顔を見てから、耳が構えるまでに、一拍ある。その一拍は、いつも同じ長さだ。

会計のとき、その人が名札を見た。

「グエン……さん?」
「はい」

読めなくて当然だと思う。名札には NGUYEN と書いてある。
英語の読み方をすれば「ヌーエン」になる。日本語のカタカナにすれば「グエン」になる。どちらも、本当の音ではない。ベトナム語の声調は、アルファベットにも日本語にも、正確には移らない。

移らないものは、いつか無くなるのだろうか。
そういうことを、深夜のレジで時々考える。考えても仕方がないので、考えるだけにしておく。

二十三時四十分、制服の女の子が来た。

この子は、五日前から毎晩来る。
最初の二日は買わずに出ていった。三日目から買うようになった。買うのは、いつも一番安い棚のもの。

今日は、まずレジに払込票を出した。
携帯電話の料金だった。三千円。

女の子は財布から千円札を三枚出した。財布の中が見えた。あと三枚くらいしか入っていなかった。

それからおにぎりを二つ持ってきた。百三十円の棚のもの。それとお茶。
合計で三千四百円。

携帯電話の料金を、三千円、現金で。
この子は、どこかに繋がっていたいのだと思った。繋がっていたい相手がいるのに、いま繋がっていないのだと思った。

制服は同じものをずっと着ている。スカートの折り目がない。
髪が、前だけ不揃いに切ってある。

わたしは何も聞かない。
聞く資格が、自分にあると思えない。

二十三時五十分、廃棄の時間。

棚から期限切れを下ろす。弁当が四つ、サンドイッチが三つ、パンがいくつか。
バーコードを通して、廃棄処理をして、専用の袋に入れる。

規則では、持ち帰りは禁止されている。従業員が食べるのも禁止。すべて廃棄する。
店長は「まあ、深夜は見てないけど」と言ったことがある。言い方が曖昧だった。曖昧なものに頼ってはいけないと、この三年で学んだ。

それでもわたしは、弁当を二つ、別の袋に入れた。

規則を破っている。わかっている。
もし何かあれば、これが理由になる。理由はいつでも用意されている。わたしのような立場の人間には、理由がいつでも用意されている。

バックヤードの裏口を開けた。
女の子は、まだ表の通りを歩いていた。ゆっくり歩いていた。行く場所が決まっている人の歩き方ではなかった。

「あの」

振り返った。

わたしは袋を差し出した。
そして、言葉を選んだ。この二秒くらいのあいだに、選んだ。

「これ、捨てるやつ。もったいないから」

「あげる」と言えば、この子は受け取らない。受け取れば、もらったことになる。もらったことになれば、次に来られなくなる。
でも「捨てる」ものなら、拾うのは悪いことではない。悪いことではないなら、明日も来られる。

日本語には、こういう言い方がある。便利だと思う。
ベトナム語なら、もっと短く済むけれど、短く済むぶん、逃げ場がない。

女の子は袋を受け取った。
口が動いたけれど、音にならなかった。それから、深く頭を下げた。

走っていった。

レジに戻った。

誰も来ない。冷蔵ケースのモーターの音がしている。
いつのまにか、風が出ていた。ガラスに小さいものが当たる音がする。木の葉か、何かの袋か。

台風が来ているとニュースで言っていた。
ベトナムにも台風は来る。子どもの頃、家の窓に板を打ちつけるのは父の仕事だった。板を打ちつけたあと、家族で一部屋に集まって、電気が消えるのを待った。
あれは、少し楽しかった。楽しかったと言うと、母は怒るだろうか。

妹からメッセージが来ていた。
「お姉ちゃん、日本、楽しい?」
「うん、楽しいよ」と返した。三秒で返した。三秒で返せる嘘は、たぶん、もう嘘ではない。

廃棄の袋を、裏の回収ボックスに運んだ。
残りの二つは、そのまま捨てた。自分で食べようとは思わなかった。

そういえば、と思った。
今日、自分が何を食べたか、思い出せない。
朝は寝ていた。昼は学校で、たぶん何か買った。夜、出勤前に何か食べたはずだけれど、思い出せない。

思い出せないということは、食べたのだろう。
食べていなければ、こんなに落ち着いてはいられない。

午前一時。

ガラスの向こう、四つ角の信号が変わった。
赤から、青へ。

誰も渡らなかった。
車も来なかった。

七十八秒ののち、また赤に戻った。


※本作の本文は生成AI(Claude)が執筆し、構想・世界観・登場人物・全32章のプロット・整合性の監修と最終判断を著者が行いました。

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