生成AIの次は『動くAI』?――GENIAC13案件から見えた日本のフィジカルAI
昨日、WBSを見ていて気になった「GENIAC」。
ロボット基盤モデルの開発で、新たな採択が決まったという。
「13社が採択されたの?」
ナビに聞いて調べ始めた。
でも、公式資料まで確認すると、少し整理が必要だった。
2026年9月9日、NEDOは「ロボット基盤モデルの研究開発(GENIAC)」の実施予定先を発表した。
今回の公募には29件の申請があり、審査を経て実施予定先が決定された。
事業期間は2026年度から原則1年間。一定の要件を満たし、外部有識者による評価などで認められた場合には最大3年間まで実施できる。
GENIAC公式サイトでは今回のロボット基盤モデル研究開発事業者を、
「自動運転」
「多用途ロボ」
の二つに分けて紹介している。
多用途ロボとして掲載されているのが13案件。
・MW
・Telexistence
・Muso Action
・XNOVA
・FastLabel
・ugo
・SB Intuitions
・アトム
・メルカリ
・Preferred Networks/Preferred Robotics
・KDDI
・Highlanders
・日立建機
Preferred NetworksとPreferred Roboticsは共同で一つの案件として掲載されているので、「13社」というより「多用途ロボ13案件」と考えた方が正確だ。
さらに別カテゴリーの「自動運転」には、Turingとロボトラックも掲載されている。
そもそも「ロボット基盤モデル」って何?
今回の企業を見ていると頻繁に出てくる言葉が、
VLA=Vision-Language-Action
だった。
Vision=視覚
Language=言語
Action=行動
カメラなどで周囲を見る。
人間からの指示や状況を理解する。
そして、実際にロボットを動かす。
今回採択された企業の開発内容を見ると、住宅、工場、物流、小売、発電所、建設現場など、それぞれ異なる現実世界でAIとロボットを組み合わせる研究が進められている。
MW――住宅の中で働くAIとロボット
MWは、住宅にAIとロボティクスを統合する「Living Home」を進めている。
天井や壁面のレール上を移動するロボットアーム「MW bot」を使い、洗濯、片付け、収納、物品搬送などの家事を自律化する研究を進めている。
今回の事業では、日本の複雑で狭い住空間でも認識・判断・行動できるVLAモデルの開発を進める。
Telexistence――すでに小売・物流で商用稼働
TelexistenceはAIロボティクス企業。
小売向け「Ghost」と物流向け「Phantom」は、すでに商用稼働している。
ハードウェアの設計・量産からAI、遠隔操作、現場運用までを自社で手掛け、実際の現場で得られたデータを基盤モデルへ戻して学習させる仕組みを構築している。
Muso Action――形の違う物を扱う
Muso Actionは、VLAと力制御を組み合わせた「Muso-roid」を開発している。
物流のピッキングや仕分け、製造現場でのキッティングや箱詰め、小売店での品出しなどが対象。
対象物の形や柔らかさなどに応じて力加減を調整する技術を組み合わせている。
XNOVA――建設、インフラ、災害現場へ
XNOVAは京都発のフィジカルAIスタートアップ。
建設現場、インフラ、プラント、災害現場など、日々状況が変化する環境を対象としている。
建設現場ではすでに自律ロボットによる巡回・点検サービスを商用展開している。
映像だけではなく、力覚や工具電流、言語などを組み合わせたフィジカルAI基盤モデルを開発している。
FastLabel――発電所で「ドアを開ける」
FastLabelはAI向けデータを専門とする企業。
今回のGENIACでは、巡回点検ロボットがドアを開閉するなどのタスクを実現するロボット基盤モデルを開発する。
九州電力と連携し、発電所で検証を行う。
目的として掲げているのは、巡回点検業務の完全自動化に向けたソリューション構築だ。
ugo――「触る」情報を扱うVTLA
ugoは国産AIロボット「ugo」シリーズと、ロボット統合管理プラットフォーム「ugo Platform」を開発している。
今回の事業では、工場での段取り準備や組立作業を想定したセミヒューマノイド向けのモデルを開発する。
ここで登場するのが、
VTLA。
Vision(視覚)
Tactile(触覚)
Language(言語)
Action(動作)
視覚だけでなく、接触を伴う製造作業を扱うためのモデルだ。
SB Intuitions――1万時間規模のロボットデータ
SB Intuitionsはソフトバンクの子会社。
今回の事業では、製造業の量産ラインを対象に、双腕ロボット向けシステムを開発する。
箱詰めなど柔らかい物を扱う作業のため、1万時間規模の高品質データを収集し、製造業に特化したロボット基盤モデルを構築する。
さらに、ロボットの動作失敗を予測して安全に停止する仕組みも開発する。
アトム――国産ヒューマノイド
アトムは、双腕二足のヒューマノイドAIロボットを開発するスタートアップ。
5本指ハンドを搭載した「ATOM HUMANOID」とVLAモデルを一体で開発している。
今回の事業では、ネジ締めや部品のはめ込みなど、細かな接触動作を自律実行するためのモデル開発を進める。
基幹部品の国産サプライチェーン構築と機体量産にも取り組むとしている。
そして意外だったメルカリ
13案件を見ていて、私が意外だったのがメルカリだった。
「メルカリがロボット?」
でも、公式発表を読むと事業とのつながりが分かった。
メルカリは現在、世界約120カ国から日本の商品を購入できる越境取引を展開している。
今回のGENIACでは、その物流を支える「検品・出品作業」の自動化に取り組む。
メルカリの倉庫を実証環境として、多種多様な商品を扱うため、触覚や力覚を組み込んだVLAなどを開発する。
Preferred Networks/Preferred Robotics――言葉でロボットを動かす
Preferred NetworksとPreferred Roboticsは共同で、屋内移動ロボット向けの基盤モデル「PLaMo-SemGround」を開発する。
自然言語、カメラ画像、深度情報から、
物体
領域
走行制約
などを認識するモデルだ。
50現場以上の実用データを活用し、10現場以上で実証する計画も公式に示されている。
KDDI――小売店舗を実証フィールドに
KDDIは中期経営戦略「Power-to-Connect 2028」で、AIとリアルな資産を組み合わせる「Real-Tech Fusion」を掲げている。
今回のGENIACでは、小売店舗を実証場所として、
ロボットの機体実装
学習データ収集技術
領域特化型モデル
の開発を行う。
対象は国内の小売・物流現場だ。
Highlanders――ヒューマノイドと四足歩行ロボット
Highlandersは2023年創業のフィジカルAIスタートアップ。
ヒューマノイド、四足歩行ロボット、物理知能基盤モデル「Kepler」を開発している。
さらに三菱自動車とは、工場向けヒューマノイドの共同開発と国内量産化に向けた協業を開始している。
これはGENIAC公式ページにも明記されている。
日立建機――建設機械にもAI
日立建機も今回の多用途ロボの実施予定先に含まれている。
油圧ショベル、ホイールローダ、鉱山機械などを手掛ける建設機械メーカーで、AIやデジタル技術と同社の機械・稼働データを融合する研究開発を進めている。
なお日立建機は、2027年4月1日付で商号を「ランドクロス株式会社」、コーポレートブランドを「LANDCROS」に変更する予定であることもGENIAC公式ページに記載されている。
「あれ? WBSでは安川電機も出ていたような」
ここでもう一つ気になった。
昨日WBSを見ていたとき、安川電機も出ていた記憶がある。
でも今回の13案件を見ると、安川電機の名前はない。
調べ直して分かった。
安川電機はGENIACに採択されている。ただし今回9月9日に発表された13案件とは別の事業だった。
2026年7月2日、経済産業省とNEDOはGENIACで「データエコシステムの構築等に関する研究開発テーマ」計9件を採択したと発表している。
その一つが、
「製造現場視触覚データ収集によるVTLA基盤モデルに向けたデータセットの構築」
参加するのは、
川崎重工業
大阪大学
ファナック
FingerVision
安川電機
の5者。
さらにABEJA、産業技術総合研究所、名古屋大学などとも連携すると発表されている。
ここでも使われるのがVTLA。
Vision(視覚)
Tactile(触覚)
Language(言語)
Action(動作)
製造現場で得られる視覚・触覚・言語・動作のデータを集め、複雑で繊細な手先作業を扱えるAIモデルとデータセットを構築する。
実施期間は2026年8月から2027年7月までの1年間を予定している。
調べて分かったのは、GENIACが「生成AI」だけではなくなっていること
GENIACは、2024年2月に経済産業省とNEDOが始めたプロジェクト。
当初から国内の生成AI開発力を強化し、社会実装を促進することを目的として、基盤モデル開発に必要な計算資源の支援などを行ってきた。
そして現在、その対象はロボットへ広がっている。
今回公式に発表された研究を見るだけでも、
住宅
小売
物流
製造工場
発電所
建設・インフラ
ヒューマノイド
屋内搬送
建設機械
自動運転
まで対象になっている。
ChatGPTのように、AIが文章を作ったり質問に答えたりするだけではない。
見る。
理解する。
触る。
動く。
現実の機械を制御する。
今回のGENIACを調べてみると、フィジカルAIという言葉が、かなり具体的な研究開発段階に入っていることが分かった。
この先どの技術が実用化されるのか、どの企業が事業として成功するのか。
そこについては、まだ分からない。
だから今回は予想まではしない。
ただ、
国が支援するGENIACの中で、これだけ多くの企業が実際の現場を使ったロボットAIの研究開発を始めている。
これは2026年9月時点で確認できる事実として、覚えておこうと思う。
※この記事は2026年9月10日時点の経済産業省、NEDO、GENIAC公式サイトおよび参画企業の公式発表をもとにまとめています。研究開発の目標は将来の実現を保証するものではありません。また、特定企業・銘柄の投資判断を推奨するものではありません。
