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本と活字館「明朝体展」で見た、不思議なパターン

2026年2月21日(土)~5月31日(日)まで、市谷の杜 本と活字館で「明朝体展」が開催されています。その名のとおり、明朝体だけの展示です。文字、それも明朝体だけの展示っておもしろいの?! という印象をくつがえすかのように、開幕に先行し、光の当たる角度によって隠れていた文字が浮かび上がるチラシやポスターが話題になりました(グラフィックは大日本タイポ組合)。

ちなみにこのチラシの印刷は、ツヤッツヤのアート紙に特色墨(濃い墨)+マットニス。墨の上にマットニスをのせている部分とのせていない部分があるので、墨の質感が2種類あるように見えます。白い背景は紙色のまま。こちらもやはりマットニスをのせる部分とのせない部分をつくることで、質感差を出しているのでした。

閑話休題。
〈現在私たちが日常的に目にするデジタルフォントから、「明朝体の二大潮流」とされる築地体・秀英体の誕生まで、150年以上にわたる明朝体の歩みを、時代をさかのぼりながら紹介します。〉という「明朝体展」では、およそ150年のあいだに生まれた明朝体が一望できる巨大な「明朝体年表」と、活字・写植・デジタルフォントそれぞれの技術/時代に生まれた9つの明朝体の資料が展示されています(私も年表制作などをお手伝いしました)。

明朝体展がおこなわれている展示室の入口

本展では、アイデアスケッチや原字、下書き、開発過程の修正指示など、貴重な資料がいろいろ展示されているのですが、そのなかで不思議なものを見つけました。

秀英A1明朝のパターン

「秀英体」のところに展示されているこれです。これはベントン彫刻機という機械で活版印刷にもちいる金属活字の型(母型=ぼけい)を彫るときに使う「パターン(なぞり型)」というものなのですが、1枚だけ、紙が貼りつけてあるものがありますね。左下の「」という字です。これ、なんだかわかりますか?

パターンはなぞり型であると書きましたが、文字の部分が凹んでいます。これをベントン彫刻機の「フォロワー」と呼ばれる針(といっても先端は尖っていません)でなぞると、彫刻機上部にあるカッターにその動きが縮小されて伝わり、母型が彫刻できるしくみです。

本と活字館にはベントン彫刻機も展示されているので、ちょっと1階の常設展示に寄って、見てみてください。

本と活字館の常設展示(1階)にある国産ベントン彫刻機
テーブルにパターンを置いて、フォロワーでなぞる

つまり、パターンは「なぞりたい部分が周囲に比べて凹んでいる=段差がある」状態であれば、その役目を果たせるのです。

通常のパターンは、紙に書かれた原図(原字)を製版して亜鉛板に焼きつけ、彫刻したい部分を腐食させて凹ませます。ちょっとややこしいのですが、こちらにも母型製作の流れを書いているので、気になる方はご覧ください。

※『「書体」が生まれる』は書籍化されています(紙版、電子版あり)

それをふまえて、さきほどの「枝」に戻りましょう。

いったいなぜ紙が貼りつけてあるのか?
それは……、最初は筆押さえのない「枝」の字形でパターンをつくっていたのが、おそらくは急遽、筆押さえのある「枝」の母型が必要になったのでしょう。本来の工程であたらしいパターンを製版する時間がなく、厚紙を貼りつけることで段差をつくり、これをなそって筆押さえのある「枝」の母型をつくったのではないかと思います。

本と活字館さん、しれっとこういう「変わり種」を展示していることがあるので、変わったものを見つけたら、よく観察してみてください。

ちなみに、パターンは前述のとおり、通常は金属を腐食させてつくるのですが、こちらも不思議なパターンですね。これ、素材は何に見えますか?

金属ではない……

そう、紙です。紙にレタリングをして、カッターで切り抜き、板(素材はわかりませんが)に貼りつけている。

これは「紙パターン」です。やはり、原図を製版して金属を腐食する正規の工程をたどる時間がないとき、いわば急場しのぎのときに大日本印刷でつくられた、簡易的なパターンのようです。

こちらも「明朝体展」のなかに展示されていますので、探してみてくださいね!

「明朝体展」
会期:2026年02月21日(土)~2026年05月31日(日)

監修:岡田一祐(慶應義塾大学)
編集協力:雪朱里
展示デザイン:中沢仁美、大重頼士(シービーケー)
グラフィック:大日本タイポ組合

市谷の杜 本と活字館
162-8001 東京都新宿区市谷加賀町1-1-1
開館時間:10:00~18:00
休館:月曜・火曜(祝日の場合は開館)、年末年始
入場無料

◎関連書籍

#明朝体展_勝手に見どころガイド

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