そのネコは
文字の本をこれまでに何冊もつくってきた。
書体デザインの話を書くときに大切なのが、書体見本だ。文字のかたちを見るだけならば、主な漢字を数文字と「あいうえお」などを並べればよいのだけれど、それだと書体が醸し出す雰囲気や特徴が伝わりにくい。やはり一番わかりやすいのは、漢字かな混じりの文章なのだ。
2020年11月に著書『時代をひらく書体をつくる。 ――書体設計士・橋本和夫に聞く 活字・写植・デジタルフォントデザインの舞台裏』をつくっていたとき、橋本さんがイワタで手がけた書体の見本をオリジナルの文章にしたいと考えた。
書体デザインの基本となる「東」「国」「永」「愛」の漢字と、特徴が出やすい「か」「た」「な」「の」といったひらがなをできるだけ盛りこみ、カタカナと句読点も入れつつ、文章として成り立つものにしたい。文章にしないと書体の雰囲気が伝わりにくいというのは、取材時に橋本さんがおっしゃっていたことでもあった。
しかしほんとうに、そんな文章ができるのか。
考えては直し、何度も書き直して、ようやくできあがったのがこれだ。

「そのネコは東国のかなたで愛され、永い道を歩く。」
「あ」が入れられなかったことは心残りだが、好きな文章ができた。
そのネコは、きっといまも歩き続けている。


『時代をひらく書体をつくる。 書体設計士・橋本和夫に聞く 活字・写植・デジタルフォントデザインの舞台裏』
雪 朱里 著(グラフィック社、2020年)
日本の書体にかかわる全てのひとにぜったい読んでもらいたいっ!
ブックデザイナー・祖父江 慎(cozfish)
活字~写植~デジタルフォントと三世代にわたり続く日本の書体の歴史のなかには、その存在の重要さに関わらず、あまり知られていないデザイナーがいる。
その筆頭が、金属活字・写植・デジタルフォントの三世代で書体デザイン・制作・監修を経験し、特に写研で大きな功績を残した橋本和夫さんだ。日本の書体史の主軸となる部分を築いてきた人である。
本書では、橋本さんのロングインタビューを通して、これまであまり語られてこなかった、だが間違いなく現在のルーツとなる書体デザインの舞台裏を浮かび上がらせ、日本の書体の知られざる流れを紐解いていく。
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