専任リサーチャーがいない組織でどうリサーチ価値を最大化するか
「ユーザーの声をもっと活用したい。でも、専任のリサーチャーいないし、片手間だと手が回らない」
これ、けっこう起こりがちな状況ではないでしょうか。
note社も例外ではありません。専任のUXリサーチャーが不在な中、「リサーチの価値をどう最大化するか」は切実に考えていく必要がありました。
UXリサーチの実績や実例の発信は、年々増えていますし、日々参考にさせていただいています。ただ、そうした発信の多くは専任リサーチャーによることも多い。
「専任はいないけれど、ユーザーの声を組織の資産にしていきたい!」そんな思いを持って、私たちがどう考え、何をやっているかを書いてみます。
同じ課題感を持つ人たちへのヒントになればうれしいです。
実査の前後まで含めて「今一番効くところ」を見定める
「UXリサーチをやろう」となると、まずインタビューをどう実施するかという実査の部分に目が向きやすいと思います。
それも間違いではないのですが、組織全体でリサーチの価値を最大化しようとすると、実査の前後まで含めた「仕組み全体」の設計 が欠かせません。
「前後」というのはたとえば、こういうことです。
前:何を明らかにしたいかの問いの設計、ルール・マニュアルやツールの整備、対象者のリクルーティング手段
後:分析と得られたインサイトの共有、資産としての蓄積、意思決定や他チームの施策への反映
この「実査の前後まで広がるフィールド」を体系化したのが、Research Ops(リサーチオプス) という考え方です。
リサーチを取り巻く全体感の上に、自分たちの組織の現状を重ねて、一番効果が出そうなところから手をつける。
自分たちの組織はどこが充実していて、どこが詰まっているのか。たとえば、リサーチは社内にどれくらい浸透しているか、過去の資産は活きているか。こうした健康診断をしたうえで、限られたリソースをどこに投下するかを決めていく。
Research Opsとは何か
Research Opsは、ユーザーリサーチを組織で動かしていくための、人・プロセス・ツール・戦略を束ね、リサーチの価値とインパクトをスケールさせる取り組みを指します。
Nielsen Norman Group の「ResearchOps 101」では、Research Opsの活動領域として次の6つが挙げられています。

Participants(参加者管理):参加者のリクルーティング、スクリーニング、スケジュール調整、謝礼設計
Governance(ガバナンス):同意・プライバシー・情報保管に関するルールとガイドライン
Knowledge(ナレッジ管理):調査データやインサイトの集約・共有、リサーチリポジトリ
Tools(ツール):リサーチを支えるソフトウェア・プラットフォーム・環境
Competency(コンピテンシー):リサーチャー/非リサーチャー双方への教育とスキル開発
Advocacy(アドボカシー):リサーチの価値を組織内に伝え、成功事例を広める活動
日本語の解説としては、丸山潤さんの記事を参考にさせていただきました。
6領域を並べてみると、リサーチの価値を最大化するために整えるべきものが、「実査」の周辺にこれだけ広がっていることが見えてきます。
今のフェーズにフィットする目標を設計する
考え方としては、Research Opsで体系化されている項目を俯瞰しつつ、今の自分たちの組織の状況や必要性と照らし合わせていくことになります。
組織も事業もフェーズが変わっていきます。
フェーズによっては、ユーザーインタビューよりもビジネス仮説に基づいた実開発やリリースが優先するのが適切なタイミングもあります。
だからこそ、常にその状況と照らし合わせながら「今のフェーズにフィットする価値提供は何か」を模索し続けることが大事になります。
こうした過程を経て、後述しますが、noteの場合は「実査の個数」ではなく、「組織全体で、実査の進め方や過去の実査という資産の貢献度を最大化する」というところに目線をシフトしていきました。
具体的に何があって、何から始めたか
どういった課題があり、それを受けて何を目標と定めたのかを時系列で書いていきます。
キャッチアップの実施
私は育休で1年強ほど不在にしていました。その間に、それまでリサーチやインタビューに取り組んでいた社員の退職もありました。
そういった状況下で、「インタビューやリサーチに関して、手段として距離が離れてきている可能性がある」という懸念を聞きました。
まずは組織のキャッチアップを行いながら、現時点での実査の進め方がどうなっているのかのおさらいもかねて、クリエイターに対するヒアリング形式のインタビューを実施し、内容の共有を行いました。
見えてきたこと
現状のキャッチアップを進めていくにつれ、見えてきたのは以下のようなことでした。
実は開発チーム以外も含めると、各チームでインタビューやヒアリングがすでに独自に行われている実態があった
それとは別に、クリエイターと協力・共同で何かを行う際のルールやフレームを整備する動きが進んでいた
リサーチの担当者が不在になって以降、過去のインタビュー事例やナレッジが行き渡りづらい状態になっていた
チームとしての立ち上がり
この時期に、デザイナーチームの中で「デザイン基盤」という取り組みが始まりました。noteというプラットフォームや組織の中で共通して使われるデザインの品質を底上げし、整備していくための取り組みです。
UXリサーチもその一つとしてデザイン基盤に位置づけられ、チームが立ち上がりました。
実査の前後フローに重ねてみる
「実査の前・中・後」のフローに重ねてみると、課題の場所が見えてきました。
実査の前:インタビューを立ち上げるときに、古いマニュアルや、更新された社内ルールとの整合を、その都度メンバーが自力で確認。さらにリクルートコストも高い状態
実査の中:インタビューやヒアリング自体はすでに行われていて、完全に止まっているわけではない
実査の後:過去の実査で得られたインサイトが、未来の企画や施策に再活用しづらい状態
つまり、課題は 実査そのものではなく、実査を取り巻く「前」と「後」のフローに集中していた ということがわかりました。
限られたリソースで、何から手を入れるか
課題をチームで整理した結果、目標の優先度を以下のように置きました。
実査の前を整える :マニュアル・ワークフローをアップデートし、実査を立ち上げるコストを下げる
実査の後の価値を循環させる :過去のインタビュー資産を、今の企画や施策で再活用できる形にする
兼務チームで限られたリソースの中、「実査の本数を増やす」ではなく、この2つから手をつける と決めたことになります。
専任がいない中で、持続可能に進めるために:兼務チームの運用
さて、noteでは現在、リサーチの価値を高めていくために私含め、3人のチーム体制で取り組んでいます。(メンバーのお二人👇)
ただし、全員が兼務です。それぞれが普段はデザイナーとして開発に関わっているメンバーなので、リソースは当然限られています。
だからこそ、その中で何が可能か、何を最大化できるかを目標として設計し、小さくてもボールを持っていく ことが必要だと思っています。
実際のnoteのUXリサーチチームでは、以下のようなサイクルで目標を設計・運用しています。
半期:1年を前期・後期に分け、半期の中で実現したいことを言語化する
四半期:3ヶ月ごとに、どういうスコープで何を達成するかを見直す
月次:1ヶ月ごとの締め切り目安を設け、各自が作業を分担して進める
主務を持ちながらの兼務チームだからこそ、主務と兼務のスコープを目標設計の段階で分けて言語化しておく と、月次の振り返りや評価の場でも扱いやすくなります。
月次のふりかえりでは、主務とのリソースの兼ね合いで実作業がどうだったか、進めている取り組みが組織の実態とフィットしているかを言語化しています。月次スコープでおとした作業締め切りを言語化しておくと兼務の中でも作業エンジンになりました。締め切り、大事……。
取り組み1:マニュアル・ワークフローの整備
インタビュー自体は社内で時折行われていました。しかし、その都度メンバーが過去の古いマニュアルを探し出し、今の組織のフレームに合う形で自力で再整理する必要がありました。ユーザーセグメントに応じたリクルーティングでつまずいたり、インタビュー実施までのコストが高くなってしまう場面もありました。
加えて、クリエイターと接点を持つ際のルールも更新されていました。インタビューを実施する際に、そのルールとの整合性を確認するプロセスも必要になっています。
つまり、過去のマニュアルが作られた時点からかなり状況が変わっていて、「次に何をすればいいか」に迷いやすい状態がありました。

これを解消するために、マニュアルを最新の状態にアップデートし、点在していた情報を集約する作業を行いました。主要なフローについては、Slackワークフローなどを連携させてなるべく自動化する仕組みも構築中です。

これまでステップごとに散らばっていた情報や、内容が古くなっていた箇所を集約し、「実査を行うまでのコスト」を下げる状態を目指しています。
現在のnoteは、組織全体としてインタビュー開催が多い局面ではないため、定量的な成果をもってのPDCAはこれからですが、前後の整備は、実査が少ないフェーズにこそ仕込んでおけるという面もあります。
取り組み2:リサーチ資産の普及と活用
note社にはサービスとしてそれなりの年月があり、過去に行われたインタビューの蓄積もかなりの量になっています。
まずは、インタビューがどのような価値を提供できるのかという認知を広げるために、インタビュー事例のサマリーや速報的な内容をSlackで一定期間発信するところからスタートしました。

ただ、noteはプラットフォームという性質上、さまざまなジャンルや使い方が存在し、特定のペルソナが定義されるわけではありません。
機能、クリエイターとしての習熟度、ジャンルなど、さまざまな切り口でいろんなタイプのユーザーがいます。そのため、過去のインタビューのインサイトをそのまま今の施策に転用しづらく、現在進めている企画のターゲットユーザーと過去のインタビュー対象者の重なりを探すこと自体が難しい状況でした。
その後、社内でAIツールの活用が進んできたこともあり、CursorなどのAIツールを使って、過去のインタビューの中でもリンクするようなインサイトを引っ張ってきて、今設計している企画や施策のインプットやレビュー、参考資料として活用したいというニーズが強くなってきました。
AIの登場によって、Slackでの一方通行の発信ではなく、社員それぞれが能動的に情報を引き出せる形にすることで、ユースケースにフィットし、社内インパクトをさらに大きくする形にできるのではないかと考え始めました。
そのため、一定の複数人数での傾向や、実際の調査の背景情報もセットで提供できるようなフィードバックの仕組みを、AIツールと組み合わせて使用できる仕組みを現在作成中です。
とはいえ、取り扱いには難しさもあります。過去のインタビューはN1の発言であること、当時の機能や環境が今とは異なるため信頼度が下がる情報が混在すること。これらは無視できません。それらを踏まえたうえで、情報を提供するような仕組みを目指しています。
まとめ:専任がいなくても「ユーザーの声」を組織の力にする
専任リサーチャーがいない会社でどうリサーチ価値を最大化するか。note社としても発展途上にあります。ここまでの話をまとめると、こういうことになります。
現在地を把握する——Research Opsなどの体系化されたフレームと照らし合わせて、今の組織の健康状態とフェーズを理解し、どこを改善するとインパクトが出るかを見極める
アクションを設計し、小さくても進める——インパクトが最大化されそうなアクションを設計しつつ、小さなボールであっても前に進められるチームを構成する
評価に反映する設計——兼務であっても、成果を出したときにちゃんと評価に反映される仕組みがある
振り返り、またフィットするものを探す——アウトプットが出せているか、正しく使われているかを振り返りながら、今の状況で価値を最大化するものは何かを繰り返し問い直す
ここまで書いてきた取り組みは、いずれもnoteのサービス特性、事業フェーズ、チーム体制から選択してきたものです。
同じResearch Opsというフレームを見据えても、組織の形やサービス特性、事業フェーズによって打ち手は変わります。noteにおいても、場合によっては、また実査のほうに軸足が移ることもあると思います。
大事なのは、フレームをそのまま導入することではなく、自分たちの組織のフェーズ・スコープに合わせて、手を入れる順番を選ぶこと だと思っています。
たとえリソースに限りがあっても、そのスコープをフォーカスすることで、できることは発見できるはずです。
お読みいただきありがとうございました!
noteでは引き続きリサーチ価値を最大化するための取り組みを実施していくので、また進捗やアクションが出てきたら発信したいと思います。
noteのデザイナーが取り組んでいることの発信をマガジンにまとめています。ほかの活動も気になった方はのぞいてみてください。
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