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子育てがうまくいかないのは、「声かけ」で解決しようとしているから。

「どう言えば伝わるんだろう」 「なんて声をかけたら、この子は動いてくれるのかな」

本屋に行けば、「魔法の声かけ」「子どもが変わる褒め方・叱り方」といった本がずらりと並んでいる。ネットやSNSにも、子育ての正解が溢れている。かつての私も、それらの情報を必死に読み漁り、どうにかして「声かけの正解」を見つけようとしていた一人だった。

当時の私は、モンテッソーリ幼児教室を主宰し、これまで1万件以上の子育て相談に乗ってきた、いわば「子どもの教育のプロ」だった。

それなのに、わが子が不登校になり、自閉症スペクトラムの診断を受けたとき、私の持っていた「正しい知識」も「魔法の声かけ」も、何ひとつ役に立たなかった。

朝、起きた瞬間から機嫌が悪く、怒鳴り続ける9歳のわが子。 食事をせっかく作っても、気に入らなければ怒鳴り散らされる。

「早く準備しようね」「落ち着いて話そう」 どんなに優しく、フラットなトーンで声をかけても、返ってくるのは「うるさい!」「ほっといて!」という怒号と、激しい拒絶だけだった。

「私の言い方が悪いの?」「もっとうまくいく声かけがあるはずなのに」

そうやってすがる思いで、スマホで「不登校 声かけ」「発達障害 接し方」と検索し続ける夜。 教育者でありながら、自分の子どもすらまともに育てられないという激しい自己否定と絶望感で、私の心はボロボロだった。そうやって自分を追い込んでは、毎日、朝から疲れ果てていた。

怒鳴りたくないのに、気づけば私も怒鳴り返し、自己嫌悪で涙が止まらなくなる。そんな終わりのない暗闇の中で、私はようやく一つの決定的な事実に気がついた。

子育てにおいて本当に大切なのは、「何を言うか」というテクニックではない。 「どんな状態の人が、どんな関係性で言うか」なのだ。

人は、相手の言葉そのものだけで動くわけではない。特に子どもは驚くほど、「言葉の中身」よりも親の表情、声のトーン、筋肉の緊張、という大人の「心の状態」を感じ取っている。

どれほど正しい声かけ、優しい言葉を必死に取り繕って口にしても、親の心の内側が「不安」や「コントロールしたい欲求」で満ちていれば、子どもに伝わるのはその「圧迫感」だけだ。

私が「正しい声かけ」に必死になり、自分の疲れや限界に蓋をして、無理に笑顔を作って「寄り添おう」としていたとき。わが子は私の余裕のなさを敏感に察知して不安にあり、防衛反応として暴れ狂っていたのだ。

人は余裕がなくなると、視野が狭くなり、柔軟な思考ができなくなる。すると子どものちょっとした態度も許せなくなる。本当に変えるべきだったのは、子どもを動かすための「声かけ」の方法ではなく、親である私自身の「在り方」だった。

心をすり減らし、鬱になりかけていたある日、私はぷつんと糸が切れた。 「9時以降は、ママは閉店します」 そう家族に宣言し、初めて自分を最優先にしてみた。

子どもが「ママ」と呼びにきても「今は自分の時間だから無理、また明日言ってね」と伝え、自分の足をマッサージをしたり、読書をしたり、ただひたすら自分の心が落ち着くことだけをした。

最初は罪悪感に押しつぶされそうになりながらも、そうやって自分の声を初めて丁寧に聞いてあげると、心の底から深い安心感が湧き上がってくるのを感じた。

あれからわが子の「外側の状態」が劇的に良くなったわけではない。 むしろ客観的に見れば、不登校からスマホ中毒になり、完全に昼夜逆転していて世間的な基準では、状態はさらに「悪化」していると言われるだろう。

けれど、不思議な事実がある。 今、私たちの親子関係は、これまでの人生の中で間違いなく「一番穏やか」なのだ。

かつて、子どもを「普通」のレールに戻そうと、あの手この手の「声かけ」を駆使して変えようとしていた頃は、家の中の空気は常にピリピリと張り詰めていた。

しかし、私が「声かけ」を手放し、私自身がご機嫌でいられることを最優先に整えてから、家庭の空気は一変した。 私ががんばるのをやめてご機嫌でいる時間が増えたことで、私たち親子は戦う必要のない「本当に安全な場所」を手に入れたのだ。

「スマホばかりしていても、昼夜逆転していても、お母さんは自分を脅してこない」 その絶対的な安心感のなかで、子どももようやく、張り詰めていた防衛本能を緩めることができたのだと思う。

不登校の治し方。発達障害の接し方。子どもが動く魔法の言葉。 そんな「外側の正解」をどれだけ集めても、あなたの家庭の、あなたと子どものための正解はどこにも書いていない。

あなたの子育ての正解は、ネットや本の中にはない。あなたの中にある。

もし今、あなたが「どう声をかければいいかわからない」と自分を責め、疲れ果てているなら。 まずは、子どものための言葉を探すのを、一回お休みしよう。魔法の言葉を探すためにスマホを握りしめる手を、そっと離してみてほしい。

今日、この瞬間からできることがある。 それは、子どもに声をかける前に、「私は今、何を感じている?」「私は今、どうしたい?」と、主語を自分に戻して自分の心に聞いてあげることだ。

「疲れたな」と思ったら、子どもの前で「ママ、疲れちゃったから10分だけ横になるね」と言って横になってみる。 温かいお茶を自分のためだけに丁寧に淹れて、ゆっくり味わってみる。

そんな些細なことが、 あなたの心を満たし、子どもの心をほどいていく。

遠回りのようで、それが一番の近道だ。 まずはあなた自身が、ご機嫌でいられる時間を、今日から少しずつ増やしていこう。

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