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会えたことだけ、持って帰れませんでした|ショートショート

お題 ダークファンタジー×最終列車の車内×
書き出しと終わりで季節を変える・結末は必ず悲劇にする

アカリウムお題ガチャで引いたお題で書いた、ショートショートです。
今回は危険物モード💀で引きました。

秋の終わりに乗って、春に着く最終列車の話です。
その列車では、死んだ人に一度だけ会えます。
ただし、降りるときに預けていくものがあります。


その駅は、秋の終わりにしか開きません。

ホームには枯れた葉が吹き溜まっていて、
歩くたびに、乾いた音がします。

灯りは少なくて、
まだ日が落ちきっていないのに、
もう夜のような明るさでした。

窓口はひとつだけです。

硝子の向こうに、
帽子を目深にかぶった車掌がいます。

「片道を」

そう言うと、車掌は切符を出しながら、
決まりごとを読み上げました。

「行きは秋、着くのは春でございます」

「車内で、お会いになれます」

「お降りの際に、
お会いになった記憶をお預かりします」

最後のひとつだけ、
少し言い方がやわらかくなりました。

やわらかく言われても、
意味は変わりません。

「どうして、預かるんですか」

聞いてみました。

車掌は、少し黙ってから答えました。

「決まりですので」

それだけでした。

理由を言うつもりはないのだと分かりました。

この駅のことを教えてくれた人も、
理由は知らないと言っていました。

知っているのは、乗り方だけです。

秋の終わりに来ること。

片道しか買えないこと。

そして、降りるときに、
置いていくものがあること。

「よろしいですか」

よくはありません。

でも、会えるのです。

私は切符を受け取りました。

薄い紙でした。

指の熱で、もう温くなっています。


最終列車


列車は、思っていたよりふつうでした。

古いけれど、こわくはありません。

床は木で、
座席の布は擦り切れていて、
天井の灯りが少しだけ黄色い。

乗っているのは、私だけではありませんでした。

みんな、窓の外を見ています。

誰も、しゃべりません。

膝の上に、何かを置いている人が多くいました。

小さな箱だったり、
畳んだ布だったり、
写真だったり。

渡すつもりで持ってきたのでしょう。

渡せるのかどうかは、
たぶん、誰も知りません。

帰りの話をする人も、いませんでした。

姉は、いちばん後ろの席にいました。

すぐに分かりました。

座り方が、そのままだったからです。

膝の上で手を組んで、
少しだけ前かがみになって、
窓ではなく、通路のほうを見ている。

私が近づくと、姉は顔を上げました。

「来たの」

それだけでした。

泣くのだろうと思っていました。

けれど、涙は出ませんでした。

あんまり、ふつうにそこにいたからです。

私は、向かいに座りました。


どうでもいい話


言いたいことは、たくさんありました。

あの日のこと。

言えなかったこと。

謝りたかったこと。

ずっと、順番まで決めてありました。

なのに、私の口から出たのは、
まるで違う話でした。

「駅前のパン屋、なくなったよ」

姉は、少し笑いました。

「あそこの、かたいやつ」

「そう、かたいやつ」

「好きだったのに」

「私は好きじゃなかった」

「知ってる」

それから、母の話になりました。

同じ話を三度するようになったこと。

三度目でも、ちゃんと笑えること。

「あんた、えらいね」

「えらくないよ」

「えらいよ」

姉は、そういうところだけ、
ためらわずに言う人でした。

窓の外は、少しずつ変わっていました。

葉が落ちきって、
枝だけの林になって、
そのうち、白いものが降りはじめます。

雪でした。

車内は暖かくて、
外の寒さが、まるで嘘のようです。

「痩せた?」

姉が言いました。

「そっちこそ」

「私はずっと、このままだよ」

そう言われて、初めて、
少しだけ息が詰まりました。

けれど姉は、すぐに話を変えました。

「傘、返してないでしょ」

「え」

「貸したまま」

「……ごめん」

「ほら」

姉は、勝ち誇ったような顔をしました。

一度だけ、言いかけました。

あのとき、と。

口を開いたところで、
姉が窓のほうを指さしました。

「見て、鹿」

いませんでした。

なにもいませんでした。

その顔を、私は知っています。

十四のときから、ずっと同じ顔です。

結局、大事なことは、
ひとつも言えませんでした。

言おうとするたびに、
姉が、どうでもいい話を始めるのです。

わざとだと思います。

姉は昔から、そういう人でした。

こちらが泣きそうになると、
必ず、くだらない話をする。



窓の外の白が、だんだん薄くなりました。

雪が雨になって、
雨があがって、
土のいろが見えはじめます。

枝の先が、うっすら緑でした。

「春だ」と、姉が言いました。

「もう着くね」

私は、ポケットに手を入れました。

紙と鉛筆を、持ってきていたのです。

忘れるのなら、書いておけばいい。

乗る前に、そう思って用意しました。

膝の上で、短く書きました。

姉に会った。元気だった。傘を返すこと。

書いているあいだ、姉は何も言いませんでした。

ただ、こちらを見ていました。

少しだけ、困った顔で。

列車が止まりました。

「じゃあね」

姉はそう言って、動きませんでした。

降りるのは、私だけなのです。

扉のところに、車掌が立っていました。

「お預かりします」

手のひらを、上に向けて差し出します。

そこに何かを置いた覚えは、ありません。

ただ、置きました。


ホームに降りると、春でした。

光がやわらかくて、
空気がぬるくて、
どこかで水の流れる音がします。

雪が溶けた水です。

私は、なぜ自分がここにいるのか、
よく分かりませんでした。

旅行だろうか、と思いました。

ポケットに手を入れると、紙がありました。

姉に会った。元気だった。傘を返すこと。

私の字です。

けれど、何のことか分かりません。

そして、ポケットの奥に、
もっとありました。

折り目のついた紙が、
いくつも、いくつも入っています。

どれも、私の字でした。

姉に会った。元気だった。

姉に会った。笑っていた。

姉に会った。傘のこと、また言われた。

日付が、ぜんぶ違います。

私は、ホームのベンチに座りました。

一枚ずつ、日付の順に並べてみました。

いちばん古いものは、
もう紙が茶色くなっています。

そして、古いものほど、
長く書いてありました。

着ていた服のことまで書いてあります。

声のことも、笑い方のことも。

新しくなるにつれて、
だんだん短くなっていきました。

いちばん新しい紙には、
ひとことしかありません。

姉に会った。

それだけです。

書いても無駄だと、
少しずつ分かっていったのだと思います。

分かっていって、
それでも毎年、書いたのだと思います。

風が温かい。

紙を一枚ずつ折り直して、
ポケットに戻しました。

それから、窓口へ行きました。

「秋の切符を、ください」

車掌は何も言わずに、一枚出しました。

その手つきが、
ずいぶん慣れて見えたことだけが、
少し、気になりました。

切符は薄くて、
指の熱で、すぐに温くなりました。

前にも、こうして温めた気がします。

けれど、いつのことなのかは、
どうしても思い出せませんでした。


最後まで読んでくださって、ありがとうございました🌙

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このショートショートは、
赤髪のあかりさんの共同運営マガジン
「アカリウムお題ガチャマガジン」に参加して書きました。

同じお題を引いても、書く人が違えば、
まったく別の物語が生まれます。

その読み比べが、このマガジンのいちばんの楽しみです💫

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水晶ゆめ🔮当てない占い師×夢を灯す創作家 ご支援、ありがとうございます🌸水晶夢です🔮皆さまから頂いたご厚意は、さらなる学びと、記事の制作資金として大切に使わせていただきます📚noteでは、占い×セルフケア、占い×推し活コラボ─この2のテーマを軸に、毎日をちょっと豊かにする投稿をお届けしています🖋