空を見ていた 〈依存について思うこと〉
依存ってそんなにいけないことなんだろうか。
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少し重い内容を含みます。
子どもの頃の記憶と今に触れています。
いま読むのがつらい方は、どうか無理をせずここで閉じてください。
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空を見ていた。
駅から家に続く坂道。
のぼった道の先には青空。
どこまでも青い空に白い雲が流れていた。
上空の風は雲を流す。
こことは違う強い風。
ここ以外の世界がある。
そんな証明のようだった。
風を受けていた。
向かい風が好きだった。
息も苦しくなるような顔にあたる強い風。
髪を押し上げて通り過ぎる風の音。
吹いてくる風の向こう。
今は一人だとしても
あの先に繋がる誰かがいるかも知れない。
風は心を飛ばしてくれた。
街路樹の葉を見上げていた。
まだ柔らかな葉に光が透き通るような季節。
風に揺れる葉の音をずっと聴いていた。
ざー…っと大気を揺らす音は
わたしを洗い流してくれているようだった。
無色透明
子供のころからそんな存在だったと思う。
両親とはあまり会話がなかった。
寡黙な父。感情的な母。
二人はギャンブル好きでアルコール好きだった。昼間から飲んだくれている父。自分が絶対正義と言わんばかりの母。
小学生の頃から二人はよく喧嘩をしては離婚をチラつかせていた。
小学三年生くらいの頃、ある喧嘩の後で母は離婚するから一緒に来るように促してきた。
わたしは二人に土下座して思い止まるようにお願いした。思い返してみても土下座を経験したのはあの時の一度きりだった。
何故土下座なんてしてしまったんだろう。
小さなわたしはどこか芝居がかっていたのかも知れない。
大好きな両親に別れて欲しくない ─ そんな綺麗な感情ではなかった。
もっと幼少の幼稚園に通っていた頃、両親のギャンブルで住む家を失い引越した。
またそうなるのが怖かった。
生きていけなくなるのが怖くて土下座して繋ぎ止めた。
そんな自分がずっと恥ずかしかった。
その時は離婚を回避できたけど、
両親の喧嘩はなくならなかった。
その後の両親の喧嘩の時に、
またああなってはいけないと思った私は、なんとか仲直りして欲しくて止めようとした。
逆上した父は私の喉を掴んで両手でしめた。
一瞬の出来事だった。
もしかしたら、わたしが生意気な事を言ったのかも知れない。
それでも、その一瞬で十分だった。
体が冷たくなった気がした。
そこは自分の居場所じゃなく感じていった。
人とどう話していいのかわからない。
子供時代会話はほぼテレビから学んだ。
わたしは、人と接する上で、大切なことがわからない。
それでも誰かと深く繋がりたかった。
同級生たちにはきっと居場所が欲しそうにしていたのを見抜かれていたのかも知れない。
どうしても馴染めなかった。
大抵一人ですごしていた。
ある日校庭の片隅で地面に文字を掘って遊んでいると、同じクラスの女子がやってきた。
正直嬉しかった。
もしかしたら仲良くなれるかも知れない。
その子は好きな男子は誰かを聞いてきた。
それを聞かれても人と関わってないわたしに恋心なんてわからない。
わからないと答えたけどそれでも食い下がってきた。
もし答えられなかったらこの子はがっかりしてどこかへ行ってしまうんだろうか。
それが怖くて、プールの時に優しい言葉をかけてくれた男子のことを話した。
その子は笑って校舎に戻って行った。
それが話のネタを仕入れに来ていただけだと知ったのは少し後のことだった。
集団下校の時は背中側の服の中に雑草やゴミを入れられた。
珍しく一緒に遊ぼうと誘われて、
集合場所に行ったらみんなはもう集まっていた。わたしが近づくと笑ってやっぱりやめると皆んなでどこかに行ってしまった。
きっと特別なことじゃない。
知らないだけで誰にでも起きていることなのかも知れない。
でも、比べる相手がいなかった。
…たぶん悲しかったんだと思う。
わたしは、益々一人ですごすことが増えて行った。
一人で歩く帰り道。
学校の近くの小さな雑貨屋さん。
田んぼや畑の畦道。
住宅街を抜けた遠くの神社。
川向こうの公園。
色々な場所を一人で冒険した。
そんな時わたしといてくれたのは青空だった。田んぼや畑を走る風だった。通りに植えられている街路樹だった。
空に流れる白い雲が綺麗だから、まだ生きていていいんだと思った。
風が吹いてくる向こうに、もしかしたら自分と繋がる誰かがいるんじゃないかと思った。
光に透けるような柔らかな街路樹の葉のざわめきが、曇った気持ちを洗い流してくれている気がした。
あの頃、本気で依存していた。
青空。
風。
揺れる葉の音。
それがあったから生きていられた。
わたしは今でもわからない。
依存はそんなにダメなのだろうか。
少なくとも、あの頃はわたしを生かしてくれていた。
あの依存があったから、今わたしはここにいるんだと思う。
依存ってそんなにダメなのか。
わたしは今も答えが出せないままでいる。
わたしは、自分が特別だとは思っていない。
どんなことかが違うだけで、
きっと皆んなそれぞれに必死に生きている。
街を歩くと、窓を見る。
通り過ぎる視界の端に、
いくつもの窓が流れていく。
その一つひとつに、
わたしの知らない人生がある。
それだけでいい。
わたしは関われないことを知ってるから。
それでも、そこに誰かの人生がある。
手の届かない、大切なものたちはそこにもある。
たとえそこに、わたしが関わらなくても。
手が届かなくても。
必死に生きている人たちは、
きっとたくさんいる。
だからわたしは、窓を見る。
そして今日も、空を見ている。
