燻製ホタルイカと感動のラグーパスタ
1.3キロ...だと...??
3月1日──ホタルイカ漁の解禁日に飛び込んできたニュースを、私は震えながら読んだ。
6隻の船が7か所の定置網を手繰って、大量のイワシに紛れるようにかかっていたホタルイカは、わずか1.3キロだという。
昼休憩にニュースを見てからというもの、午後の仕事が全く手につかず、ちっくしょう....イワシめ...などと、まったく罪のないイワシを恨む始末だった。
年明け前から3月1日の漁解禁まで、ホタルイカに焦がれてずーっとソワソワして過ごしてきた私を絶望させるのに、1.3キロという数字は少ないくせに余りあるものだった。
──そして、翌日。
昨日の不漁を引きずったまま悶々と過ごしていると、
驚きのニュースが飛び込んできた。
昨日から一転、ホタルイカが豊漁だという。
3月1日 → 1.3キロ
3月2日 → 1.3トン
たった1日で千倍に増えたホタルイカと、富山湾の神秘に私は驚嘆しつつ大いに喜んで、さっそく豊洲市場の友人に注文を入れた。
〝出始めの高値が落ち着いたら〟ということで、我が家にホタルイカがやってきたのは3月中旬のことだった。

獲れたての釜揚げホタルイカは、つやつやの褐色でぷりぷりと大きく、これはいかにも美味しそうだ。
このまま、定番の酢味噌や叩いたなめろうにして酒のあてにするのも良いが、我が家は燻製にしてからオイル漬けにするのが決まりだ。こうすることで、美味しくなるわ日持ちはするわで、たっぷりのホタルイカも慌てずにゆっくりと使うことができるのだ。
というわけで、さっそくホタルイカを燻製していこう。
ホタルイカの燻製
①下処理

せっかく美味しいホタルイカだから、口当たりを悪くしてしまう目とクチバシ、軟骨は除いておこう。手で取ることも可能だが、骨抜きやピンセットを使うとラクだ。
もちろん、大量の小さなホタルイカの下処理はたいへんな作業だが、手をかけた分だけ愛着も湧いてくる。そして、愛着だって立派な調味料なのだ。
好きな映画や音楽を流しながら、のんびりと下処理を楽しんでしまおう。
②漬け込み
続いて、ホタルイカを調味液に漬けていく。
清酒 1
本みりん 1
醤油 1.5
おろし生姜 少々
といった割合の、いわゆる「沖漬け」風だ。
・清酒と本みりんを火にかけてアルコールを飛ばす。
・しっかり冷まし、醤油、すりおろし生姜を加える。
・ホタルイカをひと晩漬け込む。

ひと晩漬け込めば濃いめに味が含まるので、この状態でも酒のあて、ご飯のお供にいいし、料理にも幅広く使うことができる。燻製をせずにオイル漬けにしてもよい。
③温熱乾燥
漬け終わったら、ざるに取って調味液をよく切る。
なるべくホタルイカ同士が重ならないように並べ、燻製器へ入れる。

すぐに燻したいところだが、冷たいホタルイカに熱い煙を浴びせると「結露による水分」が発生してしまう。そして、その水分を燻してしまうことによって酸味やエグ味が発生し、不味い仕上がりになってしまうのだ。
燻製を成功させる最大のポイントは、
「水分を発生させないこと」
である。つまり、食材を温めて結露を防止することが肝要なのだ。
まずはスモークチップ等の燻材を入れずに熱源で燻製器内を温め表面を乾燥させる。この工程を「温熱乾燥」という。
④燻製
燻製器内を50〜55℃ほどに保って15分ほどホタルイカを温熱乾燥し、じゅうぶんに温まったところで──スモークチップを加えて燻製する。
燻製器内を温熱乾燥と同じ50〜55℃に保ちながら、30分ごとにチップを足す──3ターンで1:30ほどの燻製とした。

燻製前と較べ、水分が抜けてすこし身が縮んでいる。


燻製ムラもなくツヤツヤで、今年のホタルイカ燻製も大成功である。

⑤オイル漬け
オイルに漬ける理由は、封をすることで酸化や菌の繁殖を防いで保存性を高めるため。そして、燻製した食材の香りが移った──美味しいオイルにするためだ。

オイルは植物油なら何でもよいが、我が家の用途は主にパスタ料理のため、オリーブオイルを使うことが多い。
好みで潰したにんにくやドライハーブを加え、完全にホタルイカをオイルに浸して封をする。3日日あたりから食べごろで、冷暗所で2週間は保存が利く。
さて、燻製ホタルイカが食べごろになったところで、毎年恒例にしているラグーパスタを作っていこう──と言いたいところだが、あまりにも作りすぎたせっかくたっぷり作ったので、メインの前にいくつかパスタを作って紹介しよう。
ホタルイカとアスパラのアーリオ・オーリオ

⚪︎材料
【2〜3人分】
・パスタ 250〜280g
・漬け込みオイル 大さじ4〜5
・燻製ホタルイカ 150g
・アスパラガス 5〜8本ほど
・にんにく 1〜2片
・鷹の爪 お好み
・白だし 大さじ1/2
・大葉 少々
※燻製ホタルイカは沖漬けでも◎
ボイルホタルイカをそのまま使う場合は、白だしを少し増やすか茹で汁の塩分で調整する
⚪︎つくりかた
アスパラガスの硬い根元を1センチほど切り落とし、根元から全体の長さ1/3くらいの皮をピーラーで削ぐ。2センチ幅の斜め切りにする。
塩分0.8〜1%のお湯でパスタを茹でる。
みじん切りにんにく、鷹の爪、ホタルイカの漬けオイルを弱火にかけ、にんにくが狐色になるまで煮出す。
アスパラガスを加えて軽く炒め合わせ、白だし、茹で汁(お玉一杯)を加えて馴染ませる。
ホタルイカ、少し固茹でのパスタの湯を切って投入し、全体をよく和えて皿によそう。刻んだ大葉、ブラックペッパーをふりかけて完成。
燻製ホタルイカの濃密なうまみと旬のアスパラガスの食べ合わせが抜群によい。
味付けに白だしを少々使ったが、燻製ホタルイカの塩味とパスタの茹で汁だけで充分に成立する。
ホタルイカとほうれん草のアーリオ・オーリオ

⚪︎材料
【2〜3人分】
・パスタ 250〜280g
・漬け込みオイル 大さじ4〜5
・燻製ホタルイカ 150g
・ほうれん草 150〜200本g(1袋)
・にんにく 1〜2片
・鷹の爪 お好み
・タイム 少々
・醤油 大さじ1
・バター 10〜15gほど)
・レッドスプラウト 1パック
※燻製ホタルイカは沖漬けでも◎
ボイルホタルイカをそのまま使う場合は、醤油を少し増やすか茹で汁の塩分で調整する
⚪︎つくりかた
ほうれん草は良く洗う。根本を除き、5センチ幅に切っておく。
塩分0.8〜1%のお湯でパスタを茹でる。
みじん切りにんにく、鷹の爪、枝から外したタイム、ホタルイカの漬けオイルを弱火にかけ、にんにくが狐色になるまで煮出す。
パスタが茹で上がる1分前に、ほうれん草を投入して茹でる。
すこし甘めに湯切りしたパスタとほうれん草をフライパンに移し、ホタルイカ、醤油、バターを投入して全体をよく和えて皿によそう。ブラックペッパーをたっぷりと振り、レッドスプラウトをあしらって完成。
こちらもホタルイカとほうれん草の旬の食材同士の食べ合わせがたいへん美味しいひと皿。
間違いのないバター醤油、レッドスプラウトの甘みと食感も◎。
ホタルイカのトマトスパゲッティー

⚪︎材料
【2〜3人分】
・パスタ 250〜280g
・漬け込みオイル 大さじ4〜5
・燻製ホタルイカ 150g
・トマトジュース 200本ml(無塩)
・しいたけ 5個
・春菊 半把
・にんにく 2片
・鷹の爪 お好み
・醤油 大さじ1
・パルミジャーノ 好きなだけ
・ドライバジル お好み
※燻製ホタルイカは沖漬けでも◎
ボイルホタルイカをそのまま使う場合は、醤油を少し増やすか茹で汁の塩分で調整する
⚪︎つくりかた
しいたけの石づきを落として好きな大きさに切る。
洗った春菊の根本を落とし、2センチ幅に切る。塩分0.8〜1%のお湯でパスタを茹でる。
みじん切りにんにく、鷹の爪、ホタルイカの漬けオイルを弱火にかけ、にんにくが狐色になるまで煮出す。
中火にし、しいたけを炒め合わせ、トマトジュースと醤油を加えて煮る。
表示時間の2分ほど前にパスタを湯上げし、春菊と一緒に投入してトマトソースを2分ほど吸わせつつソースを詰めていく。
皿によそったらパルミジャーノをすり下ろし、ドライバジルと黒胡椒をふりかけて完成。
トマトにスモーキーなホタルイカがよくあう。
春菊のホロ苦さとパルミジャーノの相性も抜群。バターを加えたり、タリアテッレのようなパスタでも美味しいにちがいない。
燻製ホタルイカとかぶニラのアーリオ・オーリオ

⚪︎材料
【2〜3人分】
・パスタ 250〜280g
・漬け込みオイル 大さじ4〜5
・燻製ホタルイカ 150g
・かぶ 中3個ほど
・にら 半把
・にんにく 2片
・鷹の爪 お好み
・醤油 大さじ1/2
・バター 20g
・白ワイン 20ml
・生タイム お好み
※燻製ホタルイカは沖漬けでも◎
ボイルホタルイカをそのまま使う場合は、醤油を少し増やすか茹で汁の塩分で調整する
⚪︎つくりかた
かぶの葉と皮を除き、くし切りにする。
ニラは2センチ幅に切る。
タイムは枝から外しておく。塩分0.8〜1%のお湯でパスタを茹でる。
中火でバターを溶かし、かぶに焼き目をつけたら白ワインを加え蓋をして30〜60秒ほど蒸す。
塩(分量外)とタイムを振って混ぜ、取り出しておく。みじん切りにんにく、鷹の爪、ホタルイカの漬けオイルを弱火にかけ、にんにくが狐色になるまで煮出す。
中火にしてニラを軽く炒め、醤油、茹で汁(お玉半杯)を加えて馴染ませる。
湯上げしたパスタ、かぶ、ホタルイカを加えよく和える。
皿によそい、ブラックペッパー(分量外)をたっぷり振って完成。
バターとタイム香るトロトロのかぶ、ニラの出汁感、スモーキーなホタルイカがよくあう。
ブラックペッパーも相まって、ビールがよく進むひと皿に。
燻製ホタルイカのラグースパゲッティー
さて、いよいよ燻製ホタルイカを使った大トリだ。
昨年に作った燻製ホタルイカのラグーも素晴らしいひと皿だったが、この1年──私はパスタを作りに作っては食べに食べ、太りに太ってきた実績がある。
せっかくのパスタ経験値だから、昨年よりもひとつ進化したラグーソースをシェアしていこう。
⚪︎材料
【2〜3人分】
・パスタ 250〜280g
・漬け込みオイル 大さじ4〜5
・燻製ホタルイカ 150g
・ミニトマト 10〜15個ほど
・にんにく 2片
・鷹の爪 お好み
・生タイム 少々(なくてもよい)
・納豆 1パック
・トマトジュース 200本ml(無塩)
・清酒 50ml
・バター 15g
・醤油 大さじ1/2
・大葉 たくさん
※燻製ホタルイカは沖漬けでも◎
ボイルホタルイカをそのまま使う場合は、醤油を少し増やすか茹で汁の塩分で調整する
🍥下ごしらえ🍥
⚪︎塩分0.8〜1%の湯でパスタを茹でる
⚪︎にんにくの芯を除いてみじん切りにする
⚪︎鷹の爪のへたと種を除いておく
⚪︎ミニトマトのへたを取って半分に切る
⚪︎大葉の軸を除いて細切りにする
⚪︎納豆を包丁で叩く またはすり鉢でする
⚪︎ホタルイカの2/3を包丁で細かく刻む

①にんにくを煮出してトマトを炒める

まずはホタルイカの漬けオリーブオイル、にんにく、鷹の爪を弱火にかける。
生のタイムがあれば枝から外して少々加えても◎。

にんにくがキツネ色になったらトマトを加え、中火で炒め合わせる。
②ソースを詰める

続いて、刻んだホタルイカ、清酒を加えてよく混ぜ合わせる。

トマトジュース、パスタの茹で汁、醤油、納豆を加えてトマトを煮込む。
③仕上げ

表示時間より2分ほど早くパスタを上げて湯切りしてソースに絡める。
中強火〜強火でソースを詰めながらパスタに味を含ませるイメージだ。

1分半ほど煮込んだら、残りのホタルイカとバターを投入し、ざっと和えて馴染ませる。
皿に盛りつけ、大葉をどっさり乗せて完成だ。

これは──感動的な美味しさだ。
ホタルイカとトマトの旨味が素晴らしい。
納豆の出汁感もさることながら、その粘度もソースをよりクリーミーにさせ、パスタによく絡んでくれる。

刻んだホタルイカ自体がパスタソースだが、さらに姿まるごとを頬張って、プチっとワタの風味が口いっぱいに広がる快感もたまらない。
とても濃密なパスタだが、たっぷりの大葉が最後まで飽きさせずにフォークを進ませる。
今回のホタルイカ燻製──その大トリに相応しく、大満足のひと皿となった。
初日の水揚げはたった1.3キロだったホタルイカだったが、2日目以降の大漁は続き、今年の漁獲量は平年の倍ほどの3,000トンを超えると予想されている。
「ホタルイカが平年の倍」とは、なんて素晴らしく、そして景気のよい響きなのだろう。
さっそく「2ターン目」のホタルイカ燻製を心に決めて、ひとりニマニマする燻製家なのだった。
【写真:筆者/筆者の妻】
