焦がした鍋と、"手伝おうか"
夕飯を、作ってたら
鍋を、焦がしちゃった。
いいにおい、と思ったら
こげくさく、なってた。
あーあ、やっちゃった。
こういう日、ありませんか。
しかも私、こういうとき
ひとりで、片づけようとする。
「だいじょうぶ、自分でやる」
そう言って、抱えこむ。
昔から、そうなんです。
人に頼るのが、へたで
「迷惑かな」って、すぐ思う。
なんでもひとりで、かかえて
勝手に、パンクする。
われながら、めんどくさい。
その日も、そうだった。
鍋の底は、真っ黒で
あじつけも、決まらなくて
泣きそうに、なってた。
もう外で、買ってこようか。
そんな気にも、なってた。
そこにしゅんが、来て
「手伝おうか」って言った。
一瞬、断りそうになった。
「いい、自分でできる」
いつもの、口ぐせ。
でも、その日は
なんでか、ぽろっと
「……おねがい」って言えた。
そしたら、しゅんが
となりで、野菜を切りだした。
切り方は、あいかわらず雑。
でも、ふたりでやると
なんだか、楽しくて。
こげた鍋のことも
いつのまにか、笑い話。
「新しいの、作り直そう」
しゅんは、そう言って
鼻歌まで、歌ってた。
こげた鍋を、ごしごし洗って
「いい思い出だな」なんて
のんきに、笑ってる。
あれ、この人
たのしそう、じゃない?
そのとき、気づいた。
頼るのって
迷惑じゃ、なかったんだ。
むしろ、しゅんは
たよられて、うれしそう。
私はずっと
「助けて」が、言えなかった。
弱いとこを、見せたら
嫌われる気が、してた。
あんなに、こわかったのに
言ってみたら、なんてことない。
弱さを見せると
しゅんは、ちゃんと来てくれる。
頼ることは
そばに来てもらう、合図なんだ。
あの日から、私は
すこしだけ、甘えるのが
上手に、なった気がする。
異国で、ふたりきり。
だからこそ、変な意地は
もう、いらないのかもね。
「ちょっと、手伝って」
その一言が、前より
すっと、言えるように。
ちゃんとした妻じゃ、なくていい。
焦がしたって、いいや。
だって、そのおかげで
となりに、来てくれる人がいる。
さて、きょうの夕飯は
なに、作ろうかな。
うまくいかなかったら
また、呼んじゃおうっと。
