精霊の物語-とまどうこころと やさしいぬくもり-
ふわり、と。
まだ、すこしだけ不安の残る空気の中で、
いぶきは、静かに立っていました。
胸の奥が、
ざわざわと揺れています。
あたたかいのに、
どこか、こわい。
やさしいのに、
どうしていいのか、
まだ、わからない。
怒りがほどけはじめたはずなのに、
胸の中には、
名前のつけられない気持ちが、
まだ静かに残っていました。
それが、
“こころ”というものだと、
いぶきは、まだ知りませんでした。
こころは、
ひとつの気持ちだけではありません。
うれしい。
かなしい。
さみしい。
安心する。
いろいろな想いが重なり合って、
少しずつ育っていくもの。
けれど、
生まれたばかりのいぶきには、
まだ、そのことがわからなかったのです。
そのとき。
そっと、
手を包むぬくもりがありました。
コスミア。
広くて、やわらかい、
宇宙のような存在。
ことばはありません。
励ますことも、
答えを教えることもありません。
ただ、
いぶきのそばにいて、
その手をやさしく包んでいました。
そのぬくもりは、
「ここにいていい」
「そのままでいい」
そんな想いを、
静かに伝えていました。
いぶきの指先へ、
やさしさが、
ゆっくりと流れこんでいきます。
そのぬくもりは、
あわてなくていいことを、
何も急がなくていいことを、
そっと教えてくれているようでした。
そして、もうひとつ。
ふわり、と。
あたたかい光が、
いぶきを包みました。
ソレイア。
やさしい光の精霊。
その光は、
まぶしく照らすのではなく、
凍えていた心を、
ゆっくりとあたためる朝日のようでした。
「だいじょうぶ」
そのひとことだけが、
静かに、
こころへ届きます。
つよくなくていい。
まだ、わからなくていい。
そのままで、いい。
ソレイアの声は、
前へ進むことを急がせません。
答えを押しつけることもありません。
ただ、
「きっと大丈夫」
という想いだけを、
やさしく届けてくれました。
ことばは少ないのに、
そのぬくもりは、
ちゃんと伝わっていました。
いぶきの中で、
ほどけなかったものが、
すこしずつ、
やわらいでいきます。
消えたわけじゃない。
なくなったわけでもない。
でも、
もう、
こわいものではありませんでした。
いぶきは、
そっと息を吸います。
胸いっぱいに、
やさしい空気が広がります。
そして、
ゆっくりと息を吐きました。
はじめて、
“ほっとする”
という感覚を知ったのです。
コスミアの手。
ソレイアの光。
ふたりに包まれながら、
いぶきは、
静かに目を閉じました。
ここにいても、いい。
感じても、いい。
そのやさしさは、
小さな光となって、
いぶきのこころに、
そっと灯りました。
その光は、
まだ小さく、
かすかなもの。
けれど、
これから先、
たくさんの出会いの中で、
少しずつ大きくなっていくのでしょう。
🌙 精霊の物語は、つづきます。
いいなと思ったら応援しよう!
応援よろしくお願いいたします。
頂いたチップは、今後の活動費などに仕様させて頂きます。
とても励みになります。