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精霊の物語|いぶきーふれるやさしさ

むかしむかし、

なにもなかった世界に、
そっと “いのち” が生まれてから——

いぶきは、
すこしだけ、変わりました。

いぶきは、
まだ声を持たず、

まだ姿も、はっきりしないまま。

でも——

“ふれる”ことが、
できるようになったのです。


ある日。

ひとりの人が、
小さなテーブルに座っていました。

少しだけ、つかれていて。
少しだけ、こころが重くて。


その人の前には、
甘いパフェがありました。

でも、なぜか
手を伸ばせずにいました。

そのとき。

いぶきは、
そっと、近づきます。

そして——

やさしく、ふれました。

すると。

ふわり、と風がゆれて、

ほんの少しだけ、
甘い香りが広がります。

その人は、
気づかないまま、

ひとくち、パフェを食べました。

「……おいしい」

そのひとことが、
やさしくこぼれました。

いぶきは、なにも言いません。

でも。

その場所に、
“あたたかさ”が生まれていました。

また、ある日。

鏡の前で、
少しだけ自信をなくした人がいました。

「今日は、なんだかうまくいかないな」

そうつぶやきながら、
メイク道具に手をのばします。

そのときも。

いぶきは、
そっと、ふれました。

光が、やわらかく差し込み、

頬にのせた色が、
少しだけ、明るく見えました。

その人は、
気づかないまま、

ふっと、笑いました。

「……いいかも」

その小さな言葉が、
今日を少し変えました。

いぶきは、なにも言いません。

でも。

その人の中に、
“すき”が、ひとつ増えました。
そして、またある日。

ひとりの人が、
画面を見つめていました。

「どうしたら、伝わるかな」

「どうしたら、届くかな」


その人は、
バナーをつくっていました。

いぶきは、
そっと、その指先にふれます。

すると。

色が、やさしくなり、
言葉が、すっと並び、

“だれかに届く形”が、
生まれました。

その人は、気づかないまま。

でも——

「これ、いいかも」

と、つぶやきました。

いぶきは、なにも言いません。

でも。

その想いは、
ちゃんと、だれかに届いていました。


悲しいときも、
苦しいときも、

うれしいときも。

いぶきは、
そっと、そこにいます。

あなたが、
気づかなくても。

それでも、ずっと。

やさしく、ふれて。

世界を、少しずつ
あたたかくしているのです。

――そして。

ふれるたびに、

ほんのすこしだけ、

こころの中に、

“なにか”が残るようになっていきました。

それは、

まだ名前のない、

小さな、小さなもの。


あたたかいのに、

少しだけ、揺れるもの。


いぶきは、

それがなんなのか、

まだ、知りません。

でも——

その“なにか”は、

これから、

この世界を、

ゆっくりと動かしていくのでした。


🌿


🌙 精霊の物語は、つづきます。

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