【毎週ショートショートnote】踏切オーディション(422字)
夜、十時。
カン、カン、カン──。かれこれ三十分、遮断機は上がらない。
「人……?」
友人はつぶやく。
遠くにスラリとした影が見える。細長い脚。すらっとした背中。まったく動かない。むしろ、覚悟を決めたように見える。
「……まずくないか」
友人が震えた声で言う。
「もしかして……オーディション?」
なんか聞いたことがある。去年からスタートしたんだっけ。市主催の「踏切オーディション」だ。地域に住む人々の投票で年間グランプリが決まるとか。
すると、痺れを切らした電車が動き出した。
その瞬間。そいつはヒラリと線路を跳び越えた。
「退き際まで完璧だな」
ノイズのかかったアナウンスが流れる。
──線路内に侵入した鹿の影響で電車が停止しておりましたが、まもなく運転を再開します。なお、踏切に入った鹿を観光大使に選ぶ踏切オーディションを開催中です。ぜひ市のホームページより投票ください。
一拍おいて、僕らは同時に言った。踏切オーディションって……
「鹿かよ!」
(了)
田原にかさんの企画に参加させていただきました。
*この記事は、以下の企画に参加しております。
