最初も最期も、お寿司だった
兄が亡くなった。
それは7月のことで、
そろそろ四十九日になる。
兄は親戚の中でも中心人物で、
何かあると、いつもみんなを仕切っていた。
だから、葬儀の式場に入ったとき、
兄がいつものように仕切っているような気がして、
私はつい兄を探してしまった。
「あ……」
兄の葬儀だった。
兄は今、棺の中だった。
*
兄に最後に会ったのは、2月。
通院の付き添いだった。
帰宅が少し遅くなったので、
何か食べるものを買って帰ろうと、スーパーに寄った。
「何かお弁当買ってきて。
自分の分も買っていいよ」
そう言って、兄は私にお金を渡した。
私は一人でスーパーに入り、
握り寿司のセットを2パック買った。
兄に一人分のお寿司とお茶を渡し、
お釣りを返した。
それが、最後だった。
また会うだろうと思っていた。
でも、それきりだった。
*
昨日、夕飯の支度をしていたとき、
ふと思い出した。
そういえば……
年の離れた兄が就職して、
初めてのお給料をもらったとき。
まだ小学生だった私を、
「みんなにはナイショだぞ」
そう言いながら、
お寿司屋さんに連れて行ってくれた。
それが、私の握り寿司初体験だった。
夕飯の支度をする手が止まった。
そっか……
兄に奢ってもらったのは、
最初も最期も、お寿司だったんだ。
葬儀のときは、
まだ実感がなくて、泣けなかった。
けれど、
何十年という長い月日を超えて、
ひとつの記憶が蘇ったとき、
やっと涙が溢れた。
*
裏庭で、鈴虫が鳴きだした。
秋が近い。
忘れられない夏が、
そろそろ終わる。
つい、この曲が聴きたくなった
ありがとう
さようなら
お兄ちゃん

