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【江戸最恐の怨念】葛飾北斎『百物語 こはだ小平二』。売れない役者が本物の幽霊になった、あまりにも哀しい怪談の真実

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今回は、じわじわと背筋が凍るような日本の怪談、それも江戸っ子たちを恐怖のどん底に陥れた最恐の浮世絵を紹介するよ。 描いたのは、世界に誇る天才絵師・葛飾北斎。彼の数ある傑作の中でも、一度見たら夢にまで出てきそうなインパクトを持つ『百物語 こはだ小平二』の怪異に迫ってみるのだ。

『百物語 こはだ小平二』

不気味に垂れ下がった蚊帳(かや)の上から、ヌッと顔を覗かせる頭蓋骨のような怪物の姿。血走った目でじっとこちらを見つめるこの幽霊の正体こそが、江戸の街を震撼させた歌舞伎役者、こはだ小平二(木幡小平二)なのだね。


幽霊役しか売れなかった男の悲劇

この小平二という男、実は実在の役者がモデルになったと言われているのだけれど、生前はとにかくパッとしない役者だったのだ。 役者なのに大根役者で、まともな役をもらってもサッパリ見向きもされない。そんな彼が唯一、江戸の人々から大絶賛されたのが「幽霊の役」だったのだよ。

生きながらにして幽霊みたいに痩せ細り、覇気のない小平二の姿は、お化け役をやらせたら右に出る者がいないほどリアルだったのだね。「小平二の幽霊は本物みたいで本当に化けて出そうだ」と噂されるほどだったのだ。

そんな彼の運命を狂わせたのが、悪辣な妻とおの。そして、その密通相手である太鼓打ちの安達左交という男だったのだ。 二人は邪魔になった小平二を旅先(印旛沼や阿弥陀池など、諸説あるよ)に誘い出し、なんと水の中に沈めて無残にも殺害してしまったのだね。

しかし、物語はここからが本当の始まりだったのだ。幽霊役として江戸を沸かせた小平二は、殺されたことで「本物の幽霊」になってしまい、自分を裏切った二人の寝床へ夜な夜なリベンジに現れるようになるのだ。


蚊帳をめくる、骨と執念のディテール

北斎が描いたこの絵をもう一度観察してみると、怪談の「一番恐ろしい瞬間」が見事に切り取られていることがわかるのだ。

江戸の夜、殺人を犯した悪党二人が恐怖に震えながら蚊帳の中で寝ていると、上からガサガサと音がする。見上げると、そこには自分が殺したはずの小平二が、蚊帳を押し下げて覗き込んでいる……というシチュエーションなのだね。

特筆すべきは、小平二の「手」の描写なのだ。肉がすっかり削げ落ちて骨だけになっているのに、蚊帳の赤い縁(ふち)をギュッと掴む指先には、生々しいほどの「力」が込められているのが伝わってくるのだ。 さらに、頭頂部にはわずかに生前の髪の毛が残っていて、それがかえって彼がさっきまで人間だったという実感を湧かせて、恐怖を倍増させているのだね。

頭蓋骨の隙間から覗く、異様に大きな目玉は血を流すように真っ赤に充血していて、裏切られた怒りと恨みの深さがこれでもかと表現されているのだ。


北斎が描きたかった、ただの恐怖ではない「何か」

北斎が描いた『百物語』シリーズは、当時のオカルトブームに乗って制作されたものだけど、北斎はただ観客を怖がらせるためだけにこの絵を描いたわけではないと思うのだ。

よく見ると、小平二の表情は怒り狂っているというよりは、どこか哀しげで、じっと何かを訴えかけているようにも見えるのだね。 生前は誰にも認められず、唯一認められたのが「幽霊の役」で、最期は信じていた妻に殺されて本物の幽霊になってしまった男の、深い孤独と悲哀がこの顔には滲み出ているのだ。


🎨 「ずんだもん美術館」のあとがき

売れない役者が、殺されたことで皮肉にも「最高の幽霊」として永遠の命を得てしまった、あまりにも哀しい復讐劇。 北斎が描いたあの血走った瞳と、蚊帳を掴む骨だらけの手を見ていると、彼が本当に伝えたかったのは幽霊の怖さではなく、人間の業の深さだったのかもしれないのだね。

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