shift innovation「クリエイティブ発想法」7 (ケース基礎 3)

shift innovation #80 (Loftwork hack)
今回、Loftworkの「理系キャリアのためのデザイン・アート入門『最適解から体験の設計へ』」へ参加しました。
【「最適解からの体験の設計へ」の概要】
科学が世界を「理解する」方法を磨いてきたとすれば、デザインやアートは、世界と「関わり直す」方法に対する実践であるといえるかもしれません。
特にデザインにおいては、観察・再定義・プロトタイピング・批評といったプロセスを通じて、自分自身の全体をゆさぶることで、意味の転換を行います。
この身体的・感覚的な再構築の体験こそが、科学や技術と社会を新たなかたちで結ぶ契機になります。
今回、デザインを「問題解決」から「新しい意味の生成」へと捉え直す研究の第一人者八重樫文さん(立命館大学教授)をナビゲーターに迎えて開催するイベントシリーズとなります。
そして、化学生態学の研究を通じて開発され、気鋭のレストランのシェフなど味や食体験に関わる専門家たちからも注目される、蛾の幼虫の糞から生まれるお茶「虫秘茶」を手がける丸岡毅さんをゲストとしてお招きします。
【キーノートトーク】
立命館大学デザイン・アート学部着任予定の八重樫文教授によるキーノートトークがありました。
はじめに、クリエイティブに社会を変革するためには、「好奇心」が重要であるのか、「感受性」が重要であるのかとの問いがある中で、両方が重要であるものの、今回は「感受性」についての講義が進むこととなりました。
そこで、人間の感受性を養う上で、自然において見えているもの、見えていないもの全てから様々な問いかけがある中で、五感(身体性)をフルに活用し、問いかけてくること全てを感じ取ることが重要となります。
また、ジョン・ケージが作曲した「4分33秒」は、演奏者が音を出すことなく、静寂な空間で五感(身体性)を研ぎ澄まし聴くことにより、人の息遣いや雑音を人それぞれの経験や感性などが混じり合うことにより、様々な解釈が生まれるなど、無音の状態であってもそこから様々なものを感じ取ることが重要となります。
そして、演奏者の意図を理解しようとするなど、「問題解決」として捉えるだけはなく、自身の五感(身体性)を信じ、演奏の中に自身の感性を取り入れることにより、「新たな意味の生成」として捉えることが重要であり、「無」の状態において捉えた自身の五感(身体性)を信じることは、究極の「新たな意味の生成」につながるのではないかと思いました。
これらのように、自分だけの感受性を信じることにより、人との違いに気付くことが重要であり、そして、新しい世界に触れることにより、新たな意味付けをすることによって、クリエイティブに社会を変革できるのではないかと思いました。
なお、現在、生成AIの性能が急激に向上している中で、生成AIがどこまで「無」に対する人間の感受性(身体性)を代替できるのか、人間のクリエイティビティを代替できるのかが気になるところであります。
【プレゼンテーション】
京都大学大学院博士課程に在籍し化学生態学の研究から生まれた「虫秘茶」の製造・販売もしている丸岡毅氏によるプレゼンテーションがありました。
蛾の幼虫の糞をお茶にして飲むことができるとの話の中で、蛾がどのような葉を食べて育つかによって、お茶の風味も異なるようであり、今回は桜の葉を食べて育った蛾の幼虫の糞のお茶をいただきました。

はじめに、蛾の幼虫の糞をお茶として飲むことができると聞いた時、尿を濾過することで完全な水として飲むことができるシステム(NASA)があることを想起し、物質として飲むことができる場合であっても、心理的に抵抗感があるのではないかと思いました。
一方で、海外のミシュラン三つ星レストランと取引するなど、高付加価値な素材として受け入れられているようであり、例えば、東南アジア地域など、虫を食べる習慣がある地域では、蛾の幼虫の糞をお茶として飲むことに対する抵抗感が少ないなど、文化や価値観の違いが大きく影響するのではないかと思いました。
実際に「虫秘茶」の香りを嗅ぐと桜の葉の香りがほのかにするなど、普通のお茶として出てきた場合、美味しいお茶として飲む人も多いのではないかと感じた中で、他の参加者の方も「虫秘茶」を美味しく飲んでおられました。
身体性(五感)という文脈においては、話を聞くだけでは過去の経験などがアンカーとなり、イメージが先行することにより、抵抗感をぬぐえない場合があると思われますが、実際に目の前で観て、香りを嗅ぎ、手で触ることにより、抵抗感はあったものの実際に飲んでみると、美味しいお茶としていただくことができました。
意味のイノベーションという文脈においては、蛾の幼虫の糞は人間にとって「無意味」なものであるものの、飲むことができる「虫秘茶」というお茶に「意味」を転換することにより、新たな価値を生み出したものとなります。
一方で、人間において、価値があるものになったものの、自然という視点から捉えた場合、自然界において意味があるものがなくなることにより、生態系(エコシステム)を壊しているとも取れないことはないことから、例えば、「虫秘茶」の出涸らしを自然界に還元できる仕組みを作ることにより、持続可能な取り組みになるのではないかと思いました。
研究という文脈においては、普通のお茶のように桜の葉をそのままお茶にするよりも、蛾の幼虫の体内で発酵することにより、おいしさが増すということから、希少性を好む人とは別に、蛾の幼虫の体内における発酵メカニズムが解明できた場合、これらの仕組みを製造工程として取り入れることにより、蛾の幼虫の糞に対して抵抗感がある人も新たなターゲットとして捉えることができるなど、市場を拡大できるのではないかと思いました。
【ワークショップ】
ワークショップにおいて、体験設計のための「デザイン的態度」を一連のプロセスとして行うこととなりました。( Worksheetによる「ひとりワーク」)
そこで、「デザイン的態度」における「感受性」という文脈において、身体を「センサー」として捉えてみることとなりました。
私のセンサーが捉えたもの、違和感を感じたものとは「木の机」であり、それも穴があいた木の机になります。
一般的に「木の机は綺麗な天板でつくられたもの」という固定観念に基づき木の机を捉えていましたが、木の机の上にある用紙にペンで記入しようとした際、木の机に触れた時に机にあいた穴に気付きました。
このような穴のあいた木の机は、普段であれば大きな違和感を感じることとなりますが、クリエイティブコミュニティであるFabCafeにあるとあまり気に留めることがありませんでした。
しかし、「デザイン的態度」における「感受性」という文脈において、本来であれば、このような気付きを受け流すのではなく、身体性(五感)に基づき、しっかりと問い続けることが重要であると振り返ることとなりました。

一方で、「身体を『センサー』として捉えてみる」という課題が出たことにより、小さな違和感が大きな違和感に変わりはじめました。
そうすると、木の机にあいた穴は、意図したものではなく偶然生み出されたのか、偶然生み出されたものではなく意図してデザインされたものであるのか疑問が生じることとなりました。
そして、意図してデザインされたものであれば、不完全な状態を余白と捉えることにより、人によっては文字が書きづらい木の机と捉える人もいれば、ペンを収納するための穴、充電コードを通すための穴、花を飾るための穴、真実の口(穴)、暇つぶしの穴など、さまざまな捉え方をすることができるのではないかと思いました。
このような「不完全=余白」という状況を作ることにより、利用者の創造性に基づき様々な方法で余白を埋めることによって、利用者独自の木の机が完成するのではないかと思いました。
ちなみに、これは大きな木の机をつくる上で、FabCafeが予算の関係でやむを得ず穴のあいた木の机をつくることになったのか、木の机の穴ひとつにしても、人の創造性を生み出すための仕掛けとしたのか気になるところではあります。(そんなわけないよな・・・)
【ワークショップ(終了後1)】
体験を起点に世界を観察し、そこに知識や論理をつなげることで、どんな気付きがあったかを検討することとします。( Worksheetによる「ひとりワーク」)
「最適解からの体験の設計へ」において、「デザインとは、観察・再定義・プロトタイピング・批評といったプロセスを通じて、自分自身の全体をゆさぶることで意味の転換を行う」とあり、また「イノベーションとは、固定観念を疑い、意味を転換し、異なる要素を結び直すことで新しい価値を生み出す営みである」とあります。
今回のワークショップで妄想した「穴のあいた木の机」では、実際に机に触れるという身体性に基づき、木の机に穴があいていることに気付いたことで、「木の机は綺麗な天板で作られたもの」という固定観念を疑い、「穴は役立たないもの」から「穴は役立つもの」へ意味を転換させたことにより、自然にできた穴を活用することによって、「ペンを立てるための穴のあいた木の机」という新たな価値を生み出したものとなります。
そして、一度「穴のあいた木の机」を意識しはじめたことにより、木の机全体をただ見るだけではなく、実際の木の机を様々な角度からじっくりと詳細に観察することによって、「穴のあいた木の机」の様々な活用方法を次々にイメージすることができました。
なお、本来、製品であれば完成されたものを提供する必要がある中で、不完全な要素を取り入れ、そこに新たな意味を生成する可能性を取り入れることによって、従来であれば、廃棄していた資材を有効に活用することができるなど、自然環境に配慮した持続可能な社会を構築できる一助になるのではないかと思いました。
そして、VUCAと言われている不確実性の高い環境においては、人と同じである、常識であるよりも、人と異なる、常識とは異なるということの方が、違和感を感じるきっかけとなるなど、人を惹きつける力があり、面白いものができるのではないかと思いました。
【ワークショップ(終了後2)】
人と異なる、常識とは異なる、人を惹きつける力がある面白い木の机について検討することとします。
はじめに、木の机における固定観念として、「木の机は綺麗な天板で作られたもの」と捉えましたが、固定観念に対して、「木の机の天板の上部は水平である必要があるのか」と新たに問うこととします。
例えば、机の使用用途として、食事をする時、学習する時、コミュニケーションする時に使用するなど、机の天板の上部は水平であることを前提としていますが、机の天板の上部が波打っている場合、コップの水が溢れる、文字が書きづらいということが生じることとなります。
そこで、机の天板の上部を波打っていることにより、食事をする時のベストポジション、学習をする時のベストポジション、コミュニケーションする時のベストポジションなど、座る位置を試行錯誤し探すことによって、状況に応じて机を使用する位置を変えることとなります。
そして、机の天板の上部が水平の場合、コップなどを机の上に置く時、無意識に置くという行為をしてしまいますが、机の天板の上部が波打っている場合、コップの水が溢れないよう意識をして置く必要があり、行為をする意味を一つ一つ意識することとなります。
これらのように、「波打つ木の机」は、全ての行為の意味を問うということを、知らず知らずのうちに習慣化させることができるなど、机の意味を変えることによって、人と異なる、常識とは異なる、人を惹きつける力がある面白い木の机ができることとなります。
【まとめ】
デザインとは、観察・再定義・プロトタイピング・批評といったプロセスを通じて、自分自身の全体をゆさぶることで意味の転換を行い、また、イノベーションとは、固定観念を疑い、意味を転換し、異なる要素を結び直すことで新しい価値を生み出す営みであります。
人間の感受性を養う上で、自然において見えているもの、見えていないもの全てから様々な問いかけがある中で、五感をフルに活用し、問いかけてくること全てを感じ取ることが重要であります。
自分だけの感受性を信じることにより、人との違いに気付くことが重要であり、そして、新しい世界に触れることにより、新たな意味付けをすることによって、クリエイティブに社会を変革できるものと考えます。
