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大切にしたい作家だから
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該巻は「非政治的人間の考察」と「時事論」である。1914-1918の第一次大戦、1941-1945の第二次大戦。
とりわけ第一次大戦勃発の時期は「魔の山」を二年にわたり中断し、これらの評論に没頭した。
「非政治的人間の考察」は序文を含む全十二編の評論で、全編に共通するものは汎ドイツ主義の危機を
憂うる口吻冷めやらぬ警鐘と信条告白である。第一次大戦においてマンは仏英などの協商派がもたらす
デモクラシーの波がそれまで培ってきたドイツの文化的連続性を破壊し、汎ヨーロッパの無機的な自由思
想に席巻されることで、ドイツ国民の大衆化にいたる堕落と恐れを抱いた。実兄ハインリヒ・マンやロマン
・ロランは新しい潮流を歓迎し、悪しきそれまでのドイツと決別しようと論壇を賑わした。マンはこれらの人
々を保守的な立場から時流に便乗する文明の文士と嘲弄した。政治と決別してきたドイツの「文化的国民
」の誇りと伝統を理想化したのが、ワーグナーの楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」であり、それ
を見出した哲学者ニーチェをマン先覚者として讃えている。しかし、敗戦によって致し方なく受けれた汎ヨー
ロッパ型デモクラシーの象徴であるワイマール体制と、それを遠目に蔑んだマンに代表される保守的な「
文化的国民」の自負は、その狭間で隙を狙って現れたナチスの巧妙なポピュリズムに瞬く間に飲み込まれ
て行った。マンは「時事論」全十五編中「文化と政治」の一文で、ナチスの勃興が政治的監視を怠った自ら
文化的国民の自惚れであったと反省している。