歌舞伎俳優の松本幸四郎と長男の市川染五郎が8月12日、都内で行われた「秀山祭(しゅうざんさい)九月大歌舞伎」(9月2~26日、東京・歌舞伎座)の取材会に出席した。
「秀山祭」は、明治から昭和にかけて活躍した初代中村吉右衛門をたたえ、俳名「秀山」にちなんで題した興行。幸四郎の叔父で、2021年にこの世を去った二世吉右衛門を中心に06年に始まり、今年で満20年となる。
幸四郎が何度も演じた大蔵卿を、染五郎が勤める
幸四郎は「ひらかな盛衰記」より「逆櫓(さかろ)」の松右衛門実は樋口次郎兼光を初役で、「沼津(ぬまづ)」の呉服屋十兵衛(片岡仁左衛門とのダブルキャスト)、「一條大蔵譚(いちじょうおおくらものがたり)」の八剣勘解由(やつるぎかげゆ)の三役を勤める。染五郎は「春調娘七種(はるのしらべむすめななくさ)」の曽我五郎、「逆櫓」の船頭明神丸富蔵(せんどうみょうじんまるとみぞう)、「一條大蔵譚」より「奥殿」の一條大蔵長成(いちじょうおおくらきょうながなり)の三役を勤め、大蔵卿は初役となる。

幸四郎は自身が勤める役についてこう語った。
「樋口は初役で、『逆櫓』自体も久々となります。父(松本白鸚)が国立劇場で勤めた時に、船頭で出演させていただいたことがあるのが思い出されますが、歌舞伎の得意技がたくさん詰め込まれたお芝居ですので、しっかりと自分の歌舞伎の芸を見つめ直して勤めたいと思っています。『沼津』では、松嶋屋のおじさま(片岡仁左衛門)とダブルキャストで勤めますが、松嶋屋の型と、播磨屋の型では、話は同じですが、大道具が全て違います。大道具が違うというのは珍しいので、その違いも楽しんでほしいです」(幸四郎)
染五郎は21歳という若さで大蔵卿を演じることになり、「身に余る大役」と語り、過去に何度も演じてきた幸四郎が「(自分が)大蔵卿だと思っていたし、今でもそう思っている」と笑った。

「私も、父じゃないんだと思ったんですけれども……。(大蔵卿を)自分がやらせていただくには早いと思っていますし、お客様もそう思っていらっしゃるかもしれません。一方で、早いと言い続けるのも、甘えのように聞こえるような気もしております。初代吉右衛門は12歳で、二代目の大叔父は15歳で初演しておりますので、2人に比べたら遅いわけですし、むしろ焦りを感じるぐらいな気持ちで演じられたらいいなと思っております。父が何度も勤めており、幸四郎襲名でも演じたぐらいの役ですけれども、様式的なところに、いかに心を存在させるかを父に細かく教えてもらいます」(染五郎)
染五郎は今年5〜6月に、舞台「ハムレット」でハムレットを演じたが、大蔵卿とハムレットは共通する部分があると指摘。
「狂気を装っているところは似ていますし、どちらも高貴な身分で、外から見たら恵まれているように見えるんだけれども、実は誰にもわかってもらえない悲しさや寂しさ、孤独感を感じているところも共通していると思っています。とても高いハードルになりますが、そういう哀愁みたいなものを感じていただけるような大蔵卿を目指したいなと思っております」(染五郎)
「染・團・辰」で勤める「春調娘七種」のみどころ
染五郎は昼の部で、市川團子、尾上辰之助とともに「春調娘七種」を勤める。團子、辰之助とは同世代で、「染・團・辰(そめ・だん・たつ)」とも呼ばれ、注目を集めている。
「とても華やかで歌舞伎らしい様式美にあふれた作品ですので、理屈抜きで歌舞伎らしさを感じていただきたいです。3人でやるということに関しましては、荒々しい五郎(染五郎)と、柔らかい二枚目の十郎(團子)と、女方の静御前(辰之助)と役柄ごとのカラーと、そこにこの3人がハマった時の役者としてのカラーの違いも楽しんでいただけたらいいなと思っています」(染五郎)

五郎と十郎が着用する衣裳については、浅葱(あさぎ)色の裃(かみしも)を着用することが多いのだが、今回は真っ黒の裃にしたという。
「3人でしゃべる機会があった時に、話に出てきました。(片岡)我當(がとう)のおじさまが五郎を演じられた時に、黒の裃だった映像が残っていて、その時の印象もありました。その時の衣裳も残っていて、せっかくやらせていただくなら、何か新鮮なことをしてもいいんじゃないかということで着させていただくことになりました」(染五郎)
今回の秀山祭で満20年ということで、二人が秀山祭への思いを語った。
「私は高麗屋の人間ですけれども、高祖父に初代吉右衛門を持つ身としまして、とても特別な興業です。初代吉右衛門の自伝の中で、生涯演じてきた役の中で一番好きな役が大蔵だと言っておりますし、播磨屋ゆかりの作品の中でも、ひときわ特別な思いを持って初代、二代目が勤めてきた作品ですので、今回も特別な思いで臨みたいと思っておりますし、今後も秀山祭が続いていくように、きっちり残す役目を担える役者になれるようにと思っております」(染五郎)

幸四郎は、「(秀山祭が)最初の時は父とおじと私で会見したのを覚えております」と振り返った。
「その時の父のうれしそうな表情や、おじの感極まるくらいの表情、秀山祭を始められるという高揚感の中で私も同席させていただいたのが最初。それから秀山祭がずっと続いているのは、縁のある方々のお気持ちがあるからこそだと思っています。ただ、体現できるのは今いる役者ですので、秀山祭のカラーを感じていただけるよう、しっかりと勤めてまいります」(幸四郎)
写真提供=松竹
「秀山祭九月大歌舞伎」
歌舞伎座(東京都中央区銀座4-12-15)
2026年9月2日(水)~26日(土)
昼の部(11:00開演) 「春調娘七種」「三社祭」、「ひらかな盛衰記」
夜の部(16:00開演) 「雛鶴三番叟(ひなづるさんばそう)」、「沼津」※Aプロ(9月2・3・7・8・12・13・16・17・21・22・25・26日)、Bプロ(9月4・5・6・10・11・14・15・19・20・23・24日)、「京人形」、「一條大蔵譚」













