「マイナ保険証を作れと強制されているように感じる」
今、病院や薬局を訪れた人たちから、こんな戸惑いの声が聞こえてくる。そこには厚生労働省が用意した「台本」の存在があった。
健康保険証の廃止まで、あと半年。マイナ保険証の利用低迷に頭を痛める政府は、5月から集中月間として、病院や薬局を駆り立てて普及に躍起となっている。
マイナ保険証の利用を迫る「台本」には何が書かれているのか。なりふり構わぬ政府キャンペーンの実態を探った。(長久保宏美、福岡範行、戎野文菜)
◆窓口の案内にイラッ「強制のよう」
病院や薬局の窓口で何が起きているのか。薬をもらうため、5月半ばに薬局を訪れた人たちが東京新聞の取材に証言した。
【千葉県船橋市の薬局に行った市川市の自営業女性(52)のケース】

女性(52)
(処方箋とお薬手帳と健康保険証を差し出す)

窓口の職員
マイナ保険証を出してください。

女性(52)
ないです。(私、作る気がないんだけど…)

窓口の職員
次回からはマイナンバーカードを持ってきてください。(マイナ保険証の利用を求める厚労省作成のチラシを差し出す)

女性(52)
(マイナ保険証を作るかどうかは自分で選択できるはずなのに、「作らなきゃだめ」と強制されているみたい)
市川市の女性は「薬局の職員は丁寧な口調だったが、マイナカードを持っていて当然という感じが、さすがにちょっとイラッとした」と振り返る。
【東京都江東区の薬局に行った学校講師の女性(60)のケース】

窓口の職員
マイナンバーカードを出してください。

女性(60)
マイナじゃないと薬を出してくれないのですか?

窓口の職員
いえ、そんなことないです。

女性(60)
これからはマイナンバーカードじゃないといけないんですか?

窓口の職員
上からそう言えと言われていますので。

女性(60)
健康保険証なら、持ってますけど。

窓口の職員
それならいいです。
江東区の女性は「薬局でこんなやり取りをしたのは初めて」と困惑した様子だった。
5月に入って目立つようになったという病院や薬局の窓口での強力な利用の呼びかけ。背景には、総額217億円を投じた政府の利用促進キャンペーンがある。
マイナ保険証の4月の利用率は6.56%にどどまっており、政府の思うように利用が進んでいない。カネにものをいわせたキャンペーンは、政府の焦りの裏返しでもある。
厚労省は、マイナ保険証の利用者を増やした医療機関に見返りとして支援金の支給を行う。利用促進の集中取り組み月間と定めた5~7月には、人数に応じて病院に最大20万円、薬局や診療所に最大10万円を出して、さらにテコ入れを図っている。
◆「台本」通りに声かけを、チェックリストも
ただし、病院や薬局が支援金をもらうには、窓口での声かけ、チラシの配布、ポスター掲示が条件だ。
声かけを徹底しようと、厚労省は「トークスクリプト」なる台本を配っている。
台本には、窓口での「最初のお声がけ」として「マイナンバーカードをお持ちでしょうか?」と尋ねるよう求めている。
利用者が「いいえ」と答えた場合には、次のように案内するように明記している。
カードを持参していなければ ⇒「マイナンバーカードを保険証として利用いただけます。次回来局時はぜひお持ちください」
カードを作成していなければ ⇒「2024年12月2日に現行の健康保険証の発行が終了します。まずはぜひ、お早めにマイナンバーカードの作成をお願いします」
厚労省は声かけを徹底しようと、チェックリストまで用意している。
台本通りに声かけしているか、病院や薬局に「まずマイナ保険証の利用を声掛けしていますか」「持参されていない方には、ぜひ次回はマイナンバーカードをお持ちくださいとお声掛けしていますか」などと確認を求めている。
冒頭で紹介した薬局のやりとりは、まさに厚労省の台本に沿うような対応だ。
◆厚労省のチラシ「ミスリード誘う」
「12月2日から現行の健康保険証は発行されなくなります」「マイナンバーカードをご利用ください」。こう書かれた厚労省作成のチラシも、混乱を招いている...
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