閉鎖性海域の環境の保全と適正な利用をめざして 公益財団法人 国際エメックスセンター

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若手研究者活動支援制度

目的

公益財団法人国際エメックスセンターは調査・研究体制の強化を図るため、様々な取り組みをしています。その一環として、令和2年度より若手研究者活動支援制度を設置し、閉鎖性海域の環境保全に資する研究に取り組む優れた若手研究者を育成支援することとしました。 この制度を通じて、優秀な若手研究者を発掘して若手研究者間及びエメックスセンター研究員会議等とのネットワークを構築し、閉鎖性海域に関係する研究者の国際的な研究の発展をめざします。

若手研究者活動支援について

令和8年度若手研究者活動支援制度 助成対象者5名決定!

この制度を始めて今年で7年目になりました。
おかげさまで18件の申請があり、6月29日(金)EMECS研究員会議において厳正な選考が行われ、助成対象研究者として、昨年からの継続4名を含む5名が決定しました。

助成対象者情報

氏名 研究課題名 所属
尾崎 竜也 潮汐と海底湧水を反映した干潟の基礎生産過程の解明(その3)詳しくはこちら 熊本県立大学大学院 環境共生学研究科環境共生学専攻博士後期課程
藤林 恵 干潟の底生珪藻の増殖およびEPA生産に与える溶存態ケイ素の影響 その2詳しくはこちら 九州大学大学院工学研究院 環境社会部門
伊佐田 智規 アマモ場における透明細胞外重合物質粒子の起源と組成の解明詳しくはこちら 北海道大学 北方生物圏フィールド科学センター厚岸臨海実験所
曽根 亮太 栄養塩管理によるアサリを中心とした干潟生態系の再生―メソコズムによる生態系応答の検証と機能評価―詳しくはこちら 愛知県水産試験場 漁場環境研究部
冨山 瑛弘 植物プランクトンのサイズ・形態特性および二枚貝浮遊幼生の栄養状態に基づく餌料環境評価手法の開発~粒子画像解析によるアプローチ~詳しくはこちら 水産研究・教育機構 水産技術研究所

潮汐と海底湧水を反映した
干潟の基礎生産過程の解明(その3)

熊本県立大学大学院
環境共生学研究科環境共生学専攻博士後期課程

大学院生尾崎 竜也

この度は,昨年度に引き続きEMECS令和8年度若手研究者活動支援制度助成金にご採用を頂き大変ありがとうございます.私は,日本最大の干潟面積を誇る有明海の緑川河口干潟を対象に,干潟の基礎生産定量に取り組んでいます.3年目になりますので,これまでの研究を成果として次々と発表するように励みます.
干潟は,地球上で最も生物生産が高い生態系サービスのホットスポットです.しかし,陸と接する干潟は開発されやすく,全世界の干潟面積は1984年から現在まで約16%が失われています.消失する干潟の保全には,干潟の生態系機能を正確に知る必要があります.しかし,干潟の生態系の根幹を担う基礎生産に関する研究では,長期間の代表値を取得する方法論の検証がなされておらず,また近年浅海域の主要な栄養塩の供給経路として認識されている海底湧水との関係は未解明です.
干潟の基礎生産の制限要因は光とそれを遮る海水位の変動(潮汐)です.しかし,従来の現地実験による定量方法では,潮汐が基礎生産者に与える影響を評価できておらず,長期間の基礎生産を正確に定量できていませんでした.そこで1年目の研究では,干潟環境を再現した装置で基礎生産者の培養実験を実施し,さらに干潟環境を連続観測することで,光と潮汐の影響を反映した基礎生産を長期間定量しました.これより,長期間の基礎生産定量の方法論を確立することができました.
海底湧水による栄養塩の供給量は,浅海域において河川からの栄養塩の供給量に匹敵または上回ります.しかし,海底湧水と植物プランクトンの基礎生産の関係が中心に検討されており,植物プランクトンと同程度の生産力を持つ底生微細藻類の基礎生産と海底湧水の関係は未評価でした.2年目の研究において,海底湧水が干潟の底生微細藻類の基礎生産を促進することを栄養塩動態の観点から解明しました.この結果を踏まえ,3年目ではまず緑川河口干潟の海底湧水域の水質連続観測を行い,海底湧水域の長期間の基礎生産速度を定量します.次に,UAVによる全域撮影を行うことで緑川河口干潟を砂質干潟,泥質干潟,海底湧水域の3領域に分類し,それぞれの領域の基礎生産速度を定量・評価します.これまでの研究を統合することで既往研究で見落とされていた海底湧水域を含む,緑川河口干潟全域の基礎生産速度を定量し,日本最大の干潟をモデルケースとして干潟生態系の維持機構の解明に資することを目指します.

干潟の底生珪藻の増殖および
EPA生産に与える溶存態ケイ素の影響 その2

九州大学大学院工学研究院
環境社会部門

准教授藤林 恵

この度,令和8年度若手研究者活動支援制度に採択いただきました.昨年度に引き続き研究を行う機会を賜り,厚く御礼申し上げます.
私は水圏生態系における脂肪酸の動態や役割に関心があり,とくに水生動物の生存に不可欠な栄養素であるエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸といった高度不飽和脂肪酸に注目した研究を進めてきました.昨年度の研究では,EPAの主要な生産者である珪藻にとって不可欠な栄養素である溶存態ケイ素(DSi)に注目し,九州地方の干潟・沿岸域における栄養塩濃度の調査と,干潟底生珪藻を対象とした培養実験を行いました.その結果,レッドフィールド比を基準としてケイ素が過剰となる条件において,底生珪藻群集のEPA生産量が増加することが分かりました.また,単一の珪藻株を用いた実験からも,DSi供給によってEPA生産量が増加する場合があることが確認されました.九州地方の干潟・沿岸域ではレッドフィールド比を基準とすると窒素やリンに対してケイ素が相対的に過剰に存在する地点が多かったものの,培養実験の結果を踏まえると,半数以上の地点でさらなるケイ素負荷がEPA生産の増加に寄与しうることが示唆されました.本研究では,溶存態窒素(DIN),溶存態リン(DIP),DSiの濃度をそれぞれ独立に変化させた室内培養実験を行い,底生珪藻の増殖量とEPA生産量がどのように変化するのかを明らかにすることが目的です.さらに,得られた結果に応答曲面法を適用することで,三つの栄養塩の相互作用を含めて解析し,底生珪藻の増殖およびEPA生産に適した栄養塩条件を明らかにしたいと考えております.これまで,ケイ素は過剰に供給されていると考えられてきましたが,さらなるケイ素の供給が,干潟底生珪藻の増殖やEPA生産を促進する可能性について検証してまいります.
また,福岡県瑞梅寺川流域を対象とした流出モデルの開発にも着手します.具体的には河口域の今津干潟にたいする栄養塩負荷量から,底生珪藻の増殖とEPA生産を予測することを目指します.将来的には,干潟底生珪藻の増殖やEPA生産が高まるような具体的な流域管理の方法を提言し,干潟生態系の保全・管理につなげられるよう,鋭意研究を進めてまいります.

アマモ場における透明細胞外
重合物質粒子の起源と組成の解明

北海道大学北方生物圏フィールド科学センター
厚岸臨海実験所

准教授伊佐田 智規

EMECS令和8年度若手研究者活動支援制度助成金に採択いただき有難うございます。私は、北海道東部にある厚岸湖・厚岸湾の植物プランクトンやアマモを対象に、沿岸域の炭素循環過程を明らかにする研究を行なっています。近年、沿岸浅海域におけるアマモやコンブといった海草・海藻藻場の光合成により吸収・貯蔵される炭素「ブルーカーボン」は、気候変動を緩和する機能として注目されています。
本研究では、透明細胞外重合物質粒子(TEPs)と呼ばれるネバネバ物質に注目しています。0.4μm以上の酸性の粘性多糖類で、水中に漂う粒状有機物を凝集させる接着剤として機能します。マリンスノーの様な大型の凝集体を形成する場合もあり、海の中に炭素を閉じこめる重要な役割を果たすと考えられています。
TEPsの起源は生物が細胞外へ排出した溶存有機炭素(DOC)であると言われ、外洋域では植物プランクトンを始めとして多く知見が蓄積されてきました。一方で、アマモ場での有機炭素の主要な埋没・貯蔵過程は、アマモの地下茎や葉などの海底への堆積と考えられているため、TEP動態研究は極めて少ない状況です。アマモ場でもTEPの前駆体であるDOCが多く生成されることが知られているため、TEPも多く生成されると考えられます。これまで調査で、厚岸湖・厚岸湾のアマモ場におけるTEP濃度は夏季に最も高く、それはアマモの成長と葉上に生息する付着珪藻類によるTEP生成の寄与が大きいことがわかってきました。また、アマモ場での粒子の沈降過程についても、TEPsが粒子の沈降に寄与していることもわかってきました。今後は、アマモ場で生成されるTEPの起源と組成の解明を進め、アマモ場の炭素循環過程の正確な理解を通して、ブルーカーボン生態系の保全へ貢献することを目指します。

栄養塩管理によるアサリを中心とした干潟生態系の再生
―メソコズムによる生態系応答の検証と機能評価―

愛知県水産試験場
海上環境研究部

主任研究員曽根 亮太

水産重要種であるアサリの資源量は大きく減少しており、沿岸漁業や潮干狩りなどのレクリエーションに大きな影響を及ぼしています。また、アサリは沿岸域の炭素循環で重要な役割を担っているため、ブルーカーボン生態系の一つである干潟・藻場の機能劣化につながっていることも危惧されています。アサリ資源の主な減少要因として栄養塩類の低下に伴う餌料不足の影響が指摘されています。このことから伊勢・三河湾の下水処理施設では窒素やリンの増加運転が実施されており、アサリの餌料環境の改善が進められています。これらの取組はアサリ等の生物生産にとって重要なだけでなく、生態系機能の回復による健全な物質循環にも寄与することが期待されます。また、基礎生産の増大は大気-海面のCO2吸収量を増加させることや、底生生物の増加による底泥への炭素貯留量を増加させるなど、脱炭素に貢献することも考えられます。しかし、このように栄養塩供給量や餌料環境の違いが干潟生態系の生物生産とその機能にどのように影響を及ぼし、その結果、物質循環がどのように変化していくか、その知見は十分ではありません。また、実海域での調査では気象海況変動や漁獲などの大きな攪乱が生じるため、これらのことを評価することが難しい状況にあります。愛知県水産試験場では大型の干潟実験水槽(メソコズム)を有しており、これらを使用して、これまで干潟への生物加入や生態系の発達過程、また物質循環の解析などが行われてきました。そこで、本研究では実海域における攪乱を排除できる干潟実験水槽を用いることで、栄養塩や基礎生産を制御した試験を行い、アサリを中心とした干潟生態系の応答と機能を評価していきたいと思っています。試験では栄養塩や餌料供給量の条件を変えた試験区を設定し、アサリを含めた底生生物の種構成や現存量の変化を明らかにします。これと同時に形態別の炭素・窒素等の水底質変化をモニタリングし、生態系機能による物質循環の変化を評価していく予定です。さらに、大気-海面のCO2フラックスの実測なども行い、大気も含めた炭素収支についても検討を進めたいと考えています。この研究により栄養塩管理等による豊かな海の実現と健全な物質循環や脱炭素など環境課題との結びつきを評価して、水産・環境の両施策の推進に貢献できればと考えています。

植物プランクトンのサイズ・形態特性および二枚貝浮遊幼生の
栄養状態に基づく餌料環境評価手法の開発
~粒子画像解析によるアプローチ~

水産研究・教育機構 水産技術研究所
環境・基礎研究部

研究員冨山 瑛弘

この度は、令和8年度若手研究者活動支援制度に採択いただき、ありがとうございます。私は水産研究・教育機構水産技術研究所に所属し、二枚貝類の生活史段階に応じた餌料環境評価手法の開発に取り組んでいます。二枚貝類を支える餌料環境の特徴を広域かつ継続的に把握するための研究を進めています。
アサリやカキなどの二枚貝類の生息環境を保全するためには、成長や生残を支える餌料環境を適切に評価する必要があります。沿岸域では、水温や塩分および栄養塩などの変化に伴い、餌となる植物プランクトンの量や、群集を構成する生物組成とその割合が変化します。それに伴い、群集全体としてのサイズ構成や形態的な特徴(棘の有無・細胞の形状・群体の形成様式など)も変化します。また、二枚貝類は浮遊幼生と成貝で利用する餌料のサイズが異なるため、生活史段階に応じた評価が重要です。しかし、従来の植物プランクトンをサイズ別に分けて行うChl a分析や顕微鏡観察は労力や専門的技術を要し、多数の試料を継続的に調べることは非常に困難です。
そこで本研究では、粒子の顕微鏡画像を自動取得し、サイズや形態を数値化できる粒子画像解析装置「FlowCam」を活用します。成貝に対応する餌料環境については、植物プランクトン群集のサイズ・形態特性や生物組成を指標として整理します。一方、浮遊幼生の餌として重要な微小な植物プランクトンは、画像だけでは種類の判別が難しいため、幼生自身の栄養状態に着目します。具体的には、幼生の胃内容の着色や充填の程度を「胃内容充実度」として数値化し、浮遊幼生期の餌料環境を間接的に評価する指標としての有効性を検証します。 今年度は広島湾で海水と二枚貝浮遊幼生の試料を採取し、画像解析条件を検討するとともに、クロロフィル分析や遺伝子解析の結果と比較して、得られる指標の妥当性を確認します。さらに、固定処理や保存期間が植物プランクトンの形態や幼生の胃内容充実度に与える影響を調べ、保存試料にも適用できる手法の開発を目指します。これにより、各地で採取された多数の試料を共通の条件で解析し、二枚貝類餌料環境の海域間比較につなげたいと考えています。
今後は瀬戸内海沿岸各海域、さらに他の半閉鎖性海域への適用を進め、本手法の有効性と適用範囲を明らかにしていく予定です。本制度を通じた先生方のご指導や若手研究者との交流を生かし、二枚貝類の保全や養殖、漁場再生に役立つ評価基盤の構築に貢献したいと考えています。

事務局・連絡先

(公財)国際エメックスセンター
担当:大輪
〒651-0073
神戸市中央区脇浜海岸通1丁目5番2号
TEL 078-252-0234 FAX 078-252-0404
E-mail owa @emecs.or.jp