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未完成婚・セックスゼロで母になる!?#14 子宮内膜ポリープ手術、完了!

手術の日の朝は早い。
寝不足のぼんやりした頭で、朝の支度をはじめる。

朝食も抜き、水も飲めない、メイクもできない、だから朝の準備はとてもラクだ。手術後の水分補給のためのお茶を用意しながら、3度目くらいの持ち物チェックをしていたら夫が起きてきた。

「おはよう」

朝の挨拶を交わすも、無言の時間が重い空気となって垂れ込めていく。あれだけの話をした後だ、いったい何を話せばいいのか……。

無言のまま、お互いに支度をして家を出た。
外は青空、快晴だ。


9時前に病院に着いたが、広い待合室はすでに満員に近い。受付を済ませると、診察室のあるいつもの階とは違う、上の階へとエレベーターで向かう。

エレベーターを下りたらすぐ、目の前には病室がいくつも並んでいた。瞬間的に、亡くなった祖母が入院していたときに、お見舞いに行った光景を思い出した。

「旦那さんはこの階には入れないので、カフェのある上の階か、病院の外でお待ちください。手術が終わりましたら、ご連絡しますので。」

看護師さんが、夫に伝える。

「じゃあ、またあとで」
短く言葉を交わして、夫はエレベーターに乗り込んで行った。

私は、1人になった。
ちょっとした心細さと、1人になった安堵感…矛盾する感情が、心の中に広がった。

私は、カーテンで仕切られた病室のベットへ案内された。

「洋服や下着をすべて脱いで、これに着替えてください。」

看護師さんから手渡されたのは、紙のような手術着だった。コロナきっかけに、手術着も紙製になったのかしら?などと思いながら、カサカサした手術着に着替え、ベットに横になった。

看護師さんが手術の流れについて、丁寧に説明してくれた。
今日の手術は子宮鏡手術、子宮口からカメラと、細い針金が輪になったような道具を入れて、ポリープを削りとるような手術だ。もちろん、開腹もない。

「念のための確認なのですが、妊娠はしてませんよね?」

「はい、妊娠してません(100%、絶対に)」

私は、即答した。

私の担当の看護師さんは、とても明るくてニコニコした話しやすい方だった。ありがたい……!!
こんな朝だ、看護師さんの明るい笑顔が、ガサガサの心に染み渡った。

一通り説明を聞いた後、手術の順番を待った。寝不足だった。何をするでもなく、ベットに横になり病室の天井をぼんやりと眺める。


「それでは、手術室に行きましょうか」

看護師さんが、明るく声をかけてきた。点滴スタンドをコロコロと引きながら、手術室へと歩いていく。

「これが手術室!!!!すげぇ!!」

私にとって、生まれてはじめての手術、手術室を実際に見るのも当然はじめてである。よく分からない機械がたくさんある無機的な部屋、好奇心むき出しに、きょろきょろと見回す。

思いのほか幅が細くて、金属製で固そうな手術台へ案内される。子宮の手術だからだろうか、おしりの部分にぽっかり穴があいた手術台だった。

「今から麻酔をいれますからね。麻酔がきれて目が覚めたときには、もう手術は終わった後ですから」

医師がそう言って、点滴の薬剤を麻酔に切り替えた。

「わかりました。よろしくお願いします。」

3秒もあったろうか。

目が覚めたら、もうそこは手術室ではなく、さっきの病室だった。


すごいな!!麻酔って!!!本当に一瞬で意識なくなった!!!

手術室から病室まで、一気にワープした感覚である。もう、手術は終わったのか!思いのほか、あっけなかった。

携帯の時刻を見たら、1時間くらい進んでいた。

「目が覚めましたね。体調は大丈夫ですか?」
さっきの明るい看護師さんが声をかけてくれ、術後のこれからの流れを説明してくれた。

痛みも違和感もなく普通だったことで、安堵した。着替えを済ませ、夫に麻酔から目が覚めたこと、これからの流れをメッセージして、診察室があるいつもの階で順番を待った。

手術の報告、そしてこれから始まる体外受精のスケジュールについて、説明を受ける………


「これが切除したポリープです。キレイにとれましたよ。」

透明の小さいビンの液体の中で、若干薄ピンクの白い綿のようなふよふよした組織が浮いている。

大きさは7〜8mmといったところだろうか。
ポリープ=ころっとした丸いもの、と思っていたので、このふよふよがポリープ!?と面食らった。

術後の説明を受けているところで、夫が診察室に入ってきた。そして、話は体外受精のスケジュールへと進む。

術前処置のときに体外受精の話をしてくれた先生とは違う先生だったので、念のためもう一度尋ねた。

「先生でしたら、この先、どんな治療をされますか?」

医師は、夫の精液検査の結果表を見ながら、「体外受精ですね」と言った。

「術前処置のときに、12月は術後なので、体外受精を始めるなら1月と言われたのですが……」

「あぁ、それは大丈夫ですよ。12月からでもできます。ただ、年末年始は病院が休みで、ホルモン剤注射の経過をみることができないので…12月に体外受精できるかどうかは、生理がいつくるのか、それ次第ですね。」

医師は、12月のいつに生理がきたら体外受精ができるのか、カレンダーを指し示した。

体外受精をするためには、生理が始まった3日以内に、卵胞を複数個育てるためのホルモン剤の注射を始めなければならない。そのホルモン剤の種類や量も、卵胞の育ち具合を見ながら変えていく。数日おきに通院しなければならない。だから、年末年始の病院が休むときに重なったら、体外受精はできないのだ。

でも、うまくいけば、12月に体外受精って可能性もあるのか…………

もうちょっと先だと、あと少し時間に余裕があると思っていた。体外受精をする前に、夫と繋がる……その時間もチャンスももう、本当にないかもしれない……

スケジュールをメモして、診察室をあとにした。

待合室で会計を待っていると、だんだん身体がだるく気持ち悪くなってきた。吐き気がする。
急いでトイレに行き吐こうとするも、唾液しかでてこない。朝から何も食べていないので、吐くものもない。

全身麻酔の副作用……仕方ない。

夫が心配そうに私を見て「病院で休んでいく?」と言ってくれたが、「まぁ、どうにかなると思う」と答えた。

だるい身体で会計を済ませ、電車とタクシーでよろよろと家へ帰った。気持ち悪さは移動してるあいだにおさまったが、ともかく眠い。1秒でも早く、布団に入って寝たい。

お茶漬けをかきこんで、布団に潜り込んだ。


目覚めたら、もう夕方だった。


手術のあとの当日も翌日も、ともかく眠くて眠くてたまらなかった。身体が回復しようと、休息を求めていたんだろう。身体が欲するままに、ともかく寝まくった。

2日後には、いつも通り、日常に戻ることができた。手術としては軽い手術、はじめてだったので緊張はしたが、無事に終わったようだ。

そして、寝ながら考えていた。これからのこと………

子供が欲しい。
一刻も早く、動かなければならない。でも………

私は、ずっと我慢して、不安な気持ちを持ち続けている。こんな心理状態で、妊活にいいわけがない。

夫に、自分の考えを伝えることにした。
もう一度、勇気を出せ。言葉にして言わなければ、何も伝わらないんだから…


お昼ごはんを食べながら、用意していた言葉を口にした。

「男性不妊も婦人科も、両方診てくれる病院に行ってみよう?今の病院は不妊治療はしてるけど、婦人科だけだから…男性不妊も診てもらわないと、効率悪いよね。男性不妊も婦人科も両方診れる病院に一緒に行って、同時に診てもらって、その病院からも話を聞いて…それから、今までの病院か、新しい病院か、どっちで治療をするのかを決めたい。」

夫は、「私も同じこと思ってた。そうしよう、調べてみるよ。予約をとるから。」と言った。

新しい病院は、すでに目星がついていた。夫が精液検査を受けた個人病院から、大きな総合病院への紹介状をもらっていた。
男性不妊も婦人科も一緒に診てくれる病院は、近辺ではそこしかなかった。

私は「ありがとう」と言ってから、もうひとつの本題に入った。

「今までの病院にするにしても、新しい病院にするにしても、12月に体外受精するのはやめたいです。私が39歳で、残された時間が少ないことはわかっているんだけど…体外受精は、身体にも心にも負担が大きい。今のままでは、精神的に耐えられるか、自信がないです…。

だから、12月は思い出作りがしたいです。おいしいもの食べたり、出かけたり…セックスにも挑戦したいです。最後までできなくてもいいです。ただ、できるだけ頑張ったとか、愛し合ったとか、そういう思い出が欲しいです。その思いがあれば、それを支えにして体外受精も頑張れるから…」

夫は短くあっさりと、「わかった、そうしよう。」とだけ言った。

夫から、拒否されなかった……
夫から、嫌って言われなかった……

気が緩んで、じんわりと涙が出た。

「嫌って言われたら、どうしようかと思った。よかった、ありがとう。」

と言うと、夫は「嫌って言わないよ。フラミンゴさんを私が拒否することはないよ。」と言った。

そうなのか………この人は、自分から求めてくることはないけれど、私を拒否することはないのか……

拒否することはない……その言葉が、頭の中で反響した。よく考えたら一緒に暮らしはじめた一番最初の時期を除けば、夫は私を拒否してはいない…

手術から1週間あけた後の休日、おまけに生理とも重ならない日、それは12月に何回あるのだろうか……カレンダーを見つめた。



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