未完成婚・セックスゼロで母になる!?#22 誰か助けて…
注)ロマンティック・アセクシュアル気味な夫に向けた、私のありのままの感情は、アセクシュアルな方々への否定となるかもしれません。しかし、私のnoteは、アセクシュアルではない人とアセクシュアル気味な人とが夫婦として生きていく、その葛藤を書くことがテーマです。ご了承ください。
⬇️前回からのつづき
体外受精のホルモン剤注射期間、私の精神はどんどんボロボロになっていった。
「ヤバい………私、相当ヤバい……メンタルきてる…」
それでもギリギリ、自分のヤバさに気付く冷静さは保っていた。
私が高校2年生のとき、母は父との関係を病んで鬱病を患い、自殺の手前までいったことがある。当時はまだ、鬱という言葉がメジャーではなく、精神病院の中で隠されていた時代、インターネットもなく簡単に調べることも相談もできない頃だった。
この母の鬱の経験から、私は実体験でもって、鬱について知るものがいくつもあった。
本当の鬱になったら、動けなくなる。
まだ大丈夫、じゃない。大丈夫なうちに、動くんだ。
自分を救える者は、自分しかいない。
私は自分のために、行動を起こすことを決めた。
妊活資料や病院受診の記録を綴じているファイルから、1枚の紙を取り出した。不妊治療のために通っている病院の初診でもらった紙、待合室にも貼られている紙だ。
妊活相談のご案内
◆誰に何を相談していいかわからないとき
◆治療とは関係ないかなと迷うとき
◆頑張れの言葉が辛く感じるとき
不妊症看護認定看護師がお話を伺います。
待合室で最初にこの紙を見たとき、「あ………お世話になるかもしれないな…ありがたいな…」と思った。未完成婚のまま不妊治療をすることでしんどくなるかもしれないと、予想はしていた。
何回も通っている、不妊治療の病院の待合室……何度となくぼんやりと、その貼り紙を眺めていた。ヤバくなったら、この相談システムを利用しよう、と……
それは、「今」だ。
「今」しかない。
病院へ電話をかけようとする手が、一瞬止まった。夫も通う、不妊治療の病院で相談する罪悪感が、私を止めた。
目を閉じて3回、深呼吸をした。
今、何よりも大事なのは、自分の心身とこれから産まれるかもしれない命だ。息を整え、スマホの通話ボタンをタップした。
最短スケジュールで予約を希望し、運良くそれが実現した。ラッキーだった。相談していいんだよって、言われたような気がした。
午前中に婦人科受診を終わらせて、近くのファミレスでランチをしながら時間をつぶした。ドリンクバーを何杯も飲みながら、なんて言おうかな〜……と、靄のかかった頭で考えていた。お腹は飲みすぎたドリンクで、たぽたぽだった。
時間が近づき、再び病院へ向かった。こういう相談窓口を利用するのは初めてだ。緊張していた。
いつもの診察室とは違う、小さい部屋に通された。小柄な穏やかそうな女性看護師さんが、妊活相談の担当だった。そのお顔を見て、なんだかほっとした。
軽く挨拶と自己紹介をして、看護師さんは私のカルテを見ながら妊活の状況を確認する。
「えーと、フラミンゴさん…今は、体外受精の採卵に向けた期間ですね。今日は、どうされましたか?」
よし、心を解放しよう。支離滅裂になってもかまわない。
「あの………私、夫とまだ一度も子供ができるようなセックスができたことがなくて…それで体外受精に取り組んでいることが…とても辛くなってしまって……」
言いながら、ぼろぼろと涙があふれてきた。夫の前では流すもんか!と、毎日毎日堪えている涙………看護師さんが、ティッシュを差し出してくれた。
籍を入れて1年、一緒に暮らして約10ヶ月、子供を作るようなセックスが一度もできていないこと
夫が、恋愛感情はあるが性欲はない、ロマンティック・アセクシュアルっぽいこと
夫から、抱き締めたりキスをしてくれたのは、私が泣いたときだけ、それ以外のときに夫からしてくれることはないこと
今は、結婚当初よりも前向きだが、『子供を作るためのセックスなら、する意味がある。でも夫婦のコミュニケーションとしてのセックスは必要ない』と言われていたこと……
「私たちは、まだ、本当の夫婦になっていないんです……」
つい、口をついて出てしまった……恨みがましい、私の本音……嗚咽混じりの涙が溢れ出した。
「そんなこと……!そんなこと、ないですよ。二人は立派な夫婦ですよ。」
看護師さんの言葉が、胸に染みていった。
「あのですね……ここの病院には、本当に色んな方が来ます。ご夫婦に命の危機があるような状態だったりとか……もっともっと切羽詰まってたり、セックスできない状態で不妊治療に臨む人たちもいます。だから、夫婦じゃないと思い詰めないでください。」
『ガン治療をする前に卵子凍結しませんか?』
そんなチラシが、待合室に貼られていたことが頭をよぎった。そうなのだ、ここには子供を授かろうとする、親自身の命が切迫している人たちもいる。
セックスがなくても、命がなくなりはしない。
「そう……ですよね。」
私は、少し冷静になって涙を拭いた。
「旦那さんと、ちゃんと話はできてるんですか?」
「………色々話はしてきたんですが…話をするのが、だんだんキツくなってきてしまっていて…。体外受精が始まる前に言ったんです。『私は、愛のあるセックスの果てに、子供ができるものだと思ってる。覚悟はしてたけど、それでもセックスなしで子供を作るのは辛い。自然の摂理に反してる。』って。
そしたら、夫は『精子と卵子が結合して子供ができるのが自然の摂理。ただ、それを人工的にやるだけだから、自然の摂理には反してない。』って…。独自理論で跳ね返されるんです。それで、私はもっと傷ついていくので…。もうそれが恐くなって、何も言えなくなってきました。」
看護師さんが苦笑した。
「旦那さんは、バリバリの理系ですね〜」
「はい、バリバリ理系夫です!屁理屈みたいな理論で、どんな言葉も跳ね返してきます!もう、めちゃくちゃ腹立ちます!!」
「そうなるとね、言葉が出てこなくて黙っちゃう奥さんが多いんですよね…。よくありますよ、そのパターン。」
「最初の頃は…言い返してたんです。夫の独自理論を、こちらの理論で返して…そしたら、それに更に夫の理論で返されて、お互いにヒートアップして、収拾つかなくなってもう最悪だったんです。」
「すごいですね!理論で返せるって!それ、なかなかできないですよ(笑)」
「(笑)でも、理論で返すとドロ沼になって、もっとひどくなるんです。だからもう…理論で返したら、ダメだなぁと思って止めたんです。言いたいことを……我慢してます。」
「えらいですね(笑)う〜〜〜ん……でも我慢は、あんまり良くないですよね〜……」
看護師さんは、一呼吸おいてから言った。
「旦那さんに、手紙を書いたらどうですか?手書きの手紙です。」
「………手紙?ですか?」
今まで付き合ってきた彼氏たちには、誕生日やクリスマスのプレゼントに、手書きのカードを添えて渡したことはあった。
でも、こんなにどろっとした、自分の心情を伝えるような手紙は書いたことがなかった。
「夫に手紙………書いたことがないですね。」
「ですよね〜今の時代、なかなかないですよね。夫に、紙とペンで手紙を書くなんて…。でもね、手紙だと、書く方も文字を書こうとすると冷静になりますし、受け取った方も冷静になるんです。読んでしばらく一人で考えて、ワンクッション置くこともできますし。
会話だと、どうしてもお互いに瞬間的に言葉で返してしまうから、感情的になりやすいんです。私もたまに書くんですよ〜夫へ手紙。なかなかいいですよ。だから皆さんに、オススメしてるんです。」
夫へ手紙……………
なかなかいいかもしれない。意外性もあるし。
「私は、この自分の思いを夫に伝えていいんでしょうか?性欲のまったくない夫に、セックスが一度もないままに妊娠するのが辛いって、言ってもいいんでしょうか?」
「いいと思いますよ!伝えなきゃ伝わらないですし……今までの話を聞くと、まったく話も通じないような旦那さんではないと感じますし、辛いものは辛いって言わないと…。がんばってみて!」
「手紙………良さそうですね。」
「今は採卵前だし、あんまりストレス抱えないほうがいいから、採卵終わったらゆっくり気持ちを落ち着けて書いてみてくださいね。とりあえず、気をつけてゆったりと過ごしてください。」
「はい!採卵が終わったら、書いてみます!」
泣いた後の目ではあるが、私は自然と笑っていたと思う。誰にも言えなかった、自分の悩みと辛さを打ち明けて、心の中の鬱屈した真っ黒なモノが確実に減っていた。
私は、何度も何度も看護師さんに頭を下げてお礼を言った。
そして帰り道に、もう一人知人に相談のLINEを送った。
仕事のことや結婚について、これまで色々と相談してきた、ちょっと不思議な力を持っている知人だった。
その知人から、驚くようなアドバイスを言われた。
「お義母さんに、伝えなさい。そしたら、セックスできるようになるよ。」
義母に!?
未完成婚なことを伝える!?
すぐには、理解できなかった。
義理の母と…セックスの話をする、というのか…!?
え、なんて言おう……
まだ一度も、最後までセックスできてませんって?
あ、セックスだと直接的すぎ?
性行為?性交渉?夫婦生活?夜の生活?子作り?
え、どの単語を使うべき??ってか、セックスの言葉の表現多すぎじゃない?
ってかてか、そんな夫のトップシークレットを、彼にとっての母親に勝手に言っちゃっていいわけ!?絶対イヤじゃない!?バレなきゃいいの!?
しかも、新婚直後の離婚寸前大荒れ期に、義母とも一悶着起きて、私も色々やらかしていた。その件については、謝罪を経て和解してはいるが……
あの件が合ったのに……義母に、未完成婚のまま体外受精をしていて辛いことを、伝える…!?
あまりの衝撃を食らったおかげで、結果的に私の鬱々とした気持ちは半分くらい、どこかへぶっ飛んでいった。
夫へ書く、手紙の言葉………
義母へ伝える言葉………
頭の中を、様々な言葉がぐるぐると駆け巡っていく。
採卵予定まで、あと1週間だ。
