虎猫からの手紙⑧『X』との対話──魂が叫ぶとき
虎猫はある規則違反により、懲罰を受けました。
約20日間、調査結果を待つあいだ、3センチほどの小さな折り紙で、ただひたすら鶴を折り続けていたそうです。
そして罰が決まり、15日間。
朝8時から夕方5時まで、食事時間を除きずっと背筋を伸ばして座り続ける。
ただそれだけの時間が始まりました。
その静寂の中で起こった出来事を、虎猫が手紙に書いてくれました。
その内容をそのままお伝えします。
虎猫の手紙
最初の2、3日は、次はどこの工場になるのか?
自由に動ける班長職ではなくなるな…とか、毎月の集会のお菓子が食べられないな…とか、そんなことばかり考えていた。
4、5日経つと考えていたことが変わり始めた。
子供時代の自分から、人生のことまで、断片的に浮かぶようになり、心の中に違和感を覚えながらも、浮かんできた考えを拒むことなく、頭の中を巡らせていた。
暑い中、意識が朦朧としながらも、次から次に浮かんでくるものを追いかけていた時に、心の奥深く閉じ込めていたものが扉を突き破って一気に流れ出た。
特に、思い出したくない人生のいろんな負の面のものが、走馬灯のように駆け回った。
息苦しさを感じながら、止めることも押し戻すこともできない。
『アイツ』が現れた…
頭の中か?心の中か?もう1人の自分の声が聴こえた。
……「逃げるな!出せ!そのまま出させろ!」
虎猫:「はぁ!?」
それが『アイツ』と初めて交わした「言葉」だった。
今後アイツのことを『X』と呼ぶ。
虎猫:「誰!?お前?」
X:「うるさい!もう逃げるのは許さねぇぞ!
集中しろ!浮かべさせろ!全部出し切れ!」
虎猫:「なんでテメーの言うこと聞かなきゃいけないんだ?思い出したくないものは思い出したくないんだよ!」
X:「そうはさせないぞ!もう絶対にそうはさせない!」
目を開けても『X』は消えなかった。
X:「お前が何をしようが、俺は消えることはない。死ぬまで俺は存在し続ける!」
虎猫:「何それ!!」
X:「お前は俺を追い出すことは不可能なのだ」
なんだコイツ?と本当にビビった……
「お化け??」本当にそんなことってあるんだ…
もう1人の自分が、しかも超生意気な嫌なヤツ!
でも『X』の力は私より遥かに強い。
浮かんでくるものを必死で受け止めるしかなかった。
そして、人生で今まで傷つけてきた人の顔や、場面が次から次に脳内に浮かびながら、張り付くように確実に残そうと鮮明になっていく。
やがて何が出てくるのか勘づいていた。
必死で抵抗しようとしたが無駄だった。
被害者、遺族、共犯たちの顔や場面が、次から次と、今度は自ら浮かべさせるようになっていった……
ここまできたら、負けるもんか!と歯を食いしばって、今まで絶対に思い出したくないものを全部自ら掘り起こした。
体が震えた。
全身の皮膚に電気が走ったのを確実に感じた。
波のように何度も何度も……
私は一体なんのために生まれてきたのか…?
人を傷つけるために生まれてきたとしか考えられない。
今までの人生は、人の苦痛の上で成り立ってきたのだ。
人を傷つけ続けてきたことしかやってないんだ。
どうしてこんな人生になったんだ?
初めて被害者や傷つけてきた人達に対して、涙を流した。
申し訳ないと念じ続けた。
なぜか『X』にも「ごめん…」と言った。
自らできる限り覚えているものを掘り起こした。
そして、忘れないように脳に焼き付ける。
息苦しさに耐えながら掘り続けた。
相手側の苦しみを考え続けた。
いかに自分が最低な生き方で、最低な人間なのかをしっかり認めさせる。
嘘、偽り、思い上がり、自己中心、暴力、自分勝手、臆病、馬鹿、クソ……
浮かべれば浮かぶほど『X』が興奮する。
ぼろクソに罵ってくる。
X:「そうだ!テメーはクソだ!最低な人間だ!さぁどうする!?申し訳ないとか、償うとか言うな!テメーは口だけだ!偽り野郎だ!俺は絶対にテメーを離さないぞ!許さないぞ!どこまでも追い詰めてやるぞ!」
私は『X』に言い返すことは何もしない。
言ったことはもっともだから……
『X』はエスカレートしていった。
寝ている以外、四六時中すべての考えに罵ってくる。口を出してくる。
私の奥にある醜い汚いもの全てを赤裸々に曝して認めさせる……
私が認めても『X』は絶対に信じない。
X:「この嘘つき野郎!口だけじゃ信じないぞ!俺を納得させろ!」
『X』との毎日の会話、やりとりをノートに記録するときも、
X:「テメーは何も変わってねぇな!何で俺たちの会話を記録するんだ?いつか人に自慢するためだろう?自分をよく見せるためだろう!この偽り野郎が!!」
このように何でも罵る。
何をやっても考えても、全否定だった。
『X』は手を緩めなかった。
でも、自分の汚い部分を認めれば認めるほど、素の自分と向き合うことができるような気がしてきた。
私は罵られながら考え続けた。
素の自分、汚れた自分と向き合い続けた。
重いものが少しずつ剥がれ、心が軽く感じた。
そして、自分の心に風が吹いていることに気づいた。
容赦なく叩いてくれて、正面からぶつかってきてくれた『X』に感謝した。
自分の本質というものが分かった気がして、目の前が広がって見えた。
虎猫:「ありがとう。本当に感謝するよ。」
仲直りできた瞬間『X』は消えた。
白猫より
これは私たちが出逢う1年半前の出来事です。
私はこれを読んで、「虎猫の頭がおかしい」とは思いませんでした。
極限状態で自分自身と本気で向き合うと、このように内的な声として現れることは、決して珍しくないと感じます。
「人間が自分自身と本気で向き合うと、何が起きるのか」
これは、その実例のように思えました。
『X』との対話を通して、虎猫は物の見方も、考え方も、感じ方も、以前とはまるで別人のように変わったと言います。
人生には、理屈では説明できない、不思議な出来事があるのだと思います。
『X』は、虎猫の偽りや自己正当化を許さず、本質的な自分と向き合うよう促していたのかもしれません。
それは、決して別人格などではなく、彼自身の魂そのものの声だったのではないかと、私は感じています。
