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④考察探究型の方向性 「価値を多面的に探究」する授業へ

従来型の道徳授業は、登場人物の気持ちや行動を手がかりに共感力を育て、子どもが自分の生活と結びつけながら考えることを可能にしてきました。

こうした従来型の良さは、今後の道徳教育においても引き継ぐべき大切な財産だと思います。

しかし同時に、登場人物の視点に依拠しすぎることで、価値を広く探究したり、社会の多様な側面から物事を考えたりする機会が十分に与えられてこなかった、という「惜しさ」も抱えていました。

現代社会の複雑さや価値観の多様化を考えると、「人物の視点に寄り添うだけ」では十分とは言えません。
むしろ、その共感や自我関与を出発点として、子どもの思考をさらに広げ、深めていくことが求められています。

では、現代の道徳教育はどのような方向へ進むべきなのでしょうか。
ここで浮かび上がるのが「考察探究型」の道徳授業です。

①「多面的に考える」ことへの時代的要請

いま、子どもたちが生きる社会は急速に変化し、価値観が多様化しています。

インターネットを通じて世界中の情報や意見に触れることができ、同じ出来事でも立場によって見方が大きく異なることを、子どもたちは日常的に体験しています。
さらに、AIの普及によって膨大な情報を効率的に利用したり、要点だけを素早く学んだりすることも可能になってきました。

こうした環境で、SNSによって情報があふれ、効率化が進む現代だからこそ、人間に必要なのは「多面的に考える力」「自ら判断する力」「情報を整理して構想する力」だと言えるでしょう。

このような時代において、道徳教育もまた「一つの正解」を求めるだけ、「一つの立場」に寄り添うだけでは不十分です。

一つの事象を複数の視点から捉え直したり、複数の解決方法を模索したりして、どんな状況に置かれたとしても、何とかして解決策を見出していけるような力を身に付けさせることが大切です。

さまざまな価値の対立や葛藤に出会ったとき、子どもたち自身が多面的に考え、納得できる判断や行動を構想できることが求められています。

子どもたちが必要とするのは、状況を的確に捉える力、多様な見方から考察できる力、自分なりに考えて判断する力、考えたことを行動に移せる力です。

② 共感から探究へ ― 子どもの成長に応じたステップ

従来型授業が大切にしてきた「共感」や「寄り添い」は、もちろん今後も重要です。
しかし、それは学びの出発点であって、ゴールではありません。

児童期においてまず「人の気持ちを想像する力(共感力)」を育むことは自然であり大切です。
その上で次の段階として、複数の立場を比較して価値を相対化し、よりよい行動の選択肢を構想する力へと発展させていく必要があります。

考察探究型の授業は、共感を起点に、必要に応じて比較や探究へと発展させられる柔軟な構造をもった授業方法です。

子どもの発達や授業のねらいに応じて、共感からさらに視野を広げる工夫がなされます。

ときには複数の立場を比較し、ときには価値同士の関係を探究します。
選択肢の良し悪しを考えたり、行動の影響や結果を見通したりすることもあります。

発達段階が上がると、人間の心の弱さを捉えること、困難を乗り越える心の強さの秘密を考えることもあります。
さらに自分自身の行動や内面を検討すること、現実の社会を考察することもあります。

このように、共感を出発点としながら、学びを比較・探究・構想へと柔軟に発展させていく点に、考察探究型の特徴があります。

では、その柔軟さを具体的にイメージしてみましょう。

③  懐中電灯から広角レンズへ

従来型の授業は、懐中電灯のように登場人物に光を当てる学びでした。
その光は強く、子どもたちの心を照らし、共感や感動を呼び起こします。

しかし、光が当たるのはあくまで一方向。
スポットライトが強ければ強いほど、周りは相対的に暗くなります。
背景にある社会的な構造や、他の登場人物の立場、さらに現実社会に広がる類似の課題には光が届きにくくなるのです。

一方、考察探究型は広角レンズのような学びです。
教材をきっかけにしながら、複数の立場を見渡し、価値同士の関係性を照らし出します。

子どもたちはその中で、自分なりに「よりよく生きるとはどういうことか」を探究し、自分の言葉で表現していくのです。

さらに高度な学びでは、レントゲン写真のように心の中を透かして見るような学びをすることがありますし、内視鏡のように心の中にある「弱さ」(良くないと分かっていてもしてしまうような心の動き)や「強さ」(困難をやすやすと乗り超える心の動き)を見つめる学びもあります。

考察探究型の道徳授業には、多様な種類のメガネが用意されており、教材の特徴に合わせてそれらを使い分けていくのです。

多様な価値観が交錯し、正解の一つに定まらない課題があふれる時代に、子どもたちが必要とするのは「さまざまな見方・考え方を用いて、自分なりに考え、判断し、行動する力」です。

④ これからの道徳授業への期待

このように考察探究型の授業は、従来型が大切にしてきた「心で感じる」学びを土台としつつ、その上に「考えて探究する」学びを積み重ねる、新しいタイプの授業だと言えるでしょう。

子どもたちが共感の世界にとどまるのではなく、そこから「よりよい生き方の構想」へと歩みを進められるように導く。
そのための新しい方向性なのです。
 
本マガジンでは、この考察探究型の「考え方」や具体的な「授業づくりの方法」を詳しく紹介していきます。

従来型の強みを活かしながら現代の教育的要請に応える新たな授業を、皆さんとともに考えていきたいと思います。

本マガジンを通じて、読者の皆さんが自分自身の授業を見直し、新しい道徳授業の可能性をともに切り拓いていければ幸いです。

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☆本稿は次の書籍に掲載されています。


☆考察探究型には授業案集があります。


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