新規事業の会議で「成功する理由」を聞くほど、失敗が見えなくなる
新規事業の会議では、前向きな意見が歓迎される。
市場は伸びている。既存顧客にも売れそうだ。競合より安い。今の営業組織なら広げられる。こうした話が並ぶと、企画はだんだん「通す前提」になる。
問題は、楽観的であることではない。賛成材料を集める会議になった瞬間、反対材料を出す人が「空気を悪くする人」になることだ。
そこで使えるのが、計画がすでに失敗したと仮定して原因を先に考えるプレモーテムである。日本語にすれば「事前検死」だ。名前は物騒だが、やることは単純である。
「この新規事業は一年後に撤退した。なぜ失敗したのか」
この一文から会議を始める。
普通のリスク会議では、強い意見に引っ張られる
「この企画のリスクは何ですか」と聞くと、多くの場合は無難な答えが出る。
人材が足りないかもしれない
集客に苦戦するかもしれない
競合が値下げするかもしれない
どれも間違いではない。ただし抽象的すぎて、意思決定には使いにくい。
さらに、企画責任者が熱心に説明した後では、参加者は正面から否定しづらい。「失敗すると思っています」と言えば、人ではなく企画を批判したつもりでも、相手には自分を否定されたように聞こえる。
プレモーテムは、この心理的な衝突を減らす。
失敗したことを全員共通の前提にするので、反対意見ではなく「失敗原因を探す仕事」になるからだ。Gary Kleinが広めたこの方法は、将来を振り返る形で考える「prospective hindsight」を利用する。
成功理由より先に、失敗の物語を作る
私は、新規事業の会議では次の順番が使いやすいと考えている。
1.失敗した未来を具体的に決める
「うまくいかなかった」では弱い。
たとえば、次のように置く。
半年後、売上は計画の三割。追加投資は止まり、担当者は既存事業へ戻った。顧客から大きな苦情はないが、継続利用もされなかった。
撤退時点と失敗の状態を具体化すると、原因も具体的になる。
2.全員が黙って原因を書く
最初から話し合うと、発言力の強い人が論点を決めてしまう。まず三分から五分、各自で失敗原因を書く。
営業は顧客接点から考える。現場は運用負荷から考える。管理側は資金と契約から考える。同じ会社でも立場が違えば、見えている事故は違う。
3.原因を四つに分ける
出た原因を、次の四分類へ置く。
|分類|確認する問い|
|---|---|
|需要|本当に困っている顧客は誰か。今の代替手段は何か|
|採算|一件売るまでの費用と、継続後の粗利は合うか|
|実行|販売、納品、請求、問い合わせを誰が回すか|
|撤退|どの数字を下回ったら、縮小・中止するか|
「営業が頑張れなかった」は原因ではない。需要、採算、実行条件のどこが崩れたのかまで分ける。
4.予防策ではなく、観測方法を決める
リスク会議は「気をつける」で終わりやすい。
重要なのは、失敗の兆候をいつ、何で発見するかである。
商談数ではなく、二回目の商談へ進んだ割合を見る
受注数だけでなく、初月の問い合わせ工数を測る
売上だけでなく、一件獲得するまでの営業時間を記録する
解約件数だけでなく、利用頻度が落ちた顧客を確認する
悪化した後に説明する数字ではなく、悪化する前に行動を変えられる数字を選ぶ。
失敗原因には、優先順位をつける
原因を二十個出しても、すべてへ対策すれば事業は始まらない。
次の二軸で絞る。
起きたときの損失が大きいか
早い段階で検証できるか
損失が大きく、早く検証できるものから試す。
たとえば「市場が存在しない」は重大で、顧客インタビューや有料テストで早く確かめられる。一方、「三年後に大企業が参入する」は重大でも、今すぐ正確には分からない。後者ばかり議論すると、会議は立派だが行動につながらない。
そのまま使えるプレモーテムシート
会議では、次の七項目を一枚にする。
失敗した時点
失敗した状態
最もありそうな原因
最も損失が大きい原因
今週確かめられる仮説
早期警戒として見る数字
縮小・中止を判断する条件
最後の「中止条件」が特に重要だ。
事業が始まると、責任者は投じた時間と費用を回収したくなる。追加投資を続ける理由はいくらでも作れる。だから開始前に、続けない条件まで決めておく。
プレモーテムが失敗する三つのパターン
一つ目は、責任者が反論することだ。原因を出す時間に「それは対策済みです」と返すと、参加者は口を閉じる。反論と対策は全員が書き終えてから行う。
二つ目は、人格の問題へ逃げることだ。「担当者の能力不足」「当事者意識がない」は、事前に検証できない。必要な技能、経験、人数、意思決定権へ分解する。
三つ目は、悲観論で終わることだ。失敗原因を多く出すことが目的ではない。最も危険な仮説を、最も安く早く検証するために行う。
まとめ
実践例:法人向け新サービスを始める場合
仮に、既存顧客へ新しい月額サービスを販売するとする。失敗した未来を「半年後、契約は取れたが利用されず、解約と問い合わせ対応で赤字になった」と置く。
営業は「安さだけで契約され、利用目的がない」と書く。現場は「導入後の設定に想定以上の時間がかかる」と書く。管理側は「一件ごとの請求処理が複雑」と書く。
ここで三つの検証へ変える。
第一に、提案前の顧客十社へ、現在の困りごと、代替手段、支払意思を確認する。第二に、社内で一件分の申込から請求までを模擬し、必要時間を測る。第三に、最初の顧客には利用開始から二週間後の確認を組み込み、利用されない理由を集める。
警戒指標は契約数だけにしない。初回設定時間、二週間後の利用率、問い合わせ件数、継続意向を並べる。
このように、失敗の物語から検証と観測へ移せれば、プレモーテムは悲観会議ではなくなる。
開始前チェックリスト
失敗した時点と状態を具体的に置いたか
責任者が反論する前に全員が個別記入したか
人の能力ではなく条件へ分解したか
最も重大で早く検証できる仮説を一つ選んだか
売上以外の警戒指標を決めたか
中止条件と判断者を決めたか
検証結果を見直す日を予定へ入れたか
新規事業の会議で必要なのは、成功を信じる人と失敗を疑う人の対立ではない。
成功する前提の会議と、失敗した前提の会議を分けることである。
まず失敗した未来を置く。全員が個別に原因を書く。需要、採算、実行、撤退へ分ける。重大で早く検証できるものから試し、警戒指標と中止条件を決める。
新規事業は、失敗理由を消してから始めるものではない。どの失敗を先に確かめるかを決めてから始めるものだ。
参考資料
Gary Klein, Performing a Project Premortem, Harvard Business Review, 2007.
Deborah J. Mitchell, J. Edward Russo, Nancy Pennington, Back to the Future: Temporal Perspective in the Explanation of Events, Journal of Behavioral Decision Making, 1989.
