次の夏には|風まかせ文芸部|ひとりじゃない
夏の終わり。
息子が、唐突に言った。
「おれ、来年から、寮に入るわ」
えっ、と、声が出た。
隣町の進学校。かつ、野球の強豪校。親子で、ずっと憧れていた。そこへの推薦入学が決まったという。
「いいの? 家とはなにもかも違うのよ」
「うん。だから、いいんだ」
息子は笑った。
その夜、洗い物をしながら、私は思い出していた。
この十年。二人で、やってきた。
運動会も、参観日も、ひとりで行った。息子の試合も、できる限り、全部見た。日焼けした顔で、ベンチにいる息子に手を振った。
そんな長い夏の、終わりを告げる、二人の終着点。
来年から、息子は、新しい夏を、迎える。
——スマホが鳴った。
あの人からのメッセージだった。
日焼けた肌がひりついた。
職場の同僚。何度か食事に誘われて、断ってきた。息子のことで、いつも、頭はいっぱいだった。
「コンサートのチケットが手に入ったので、一緒に行きませんか?」
いつもなら、断る。
けれど、今日、息子と私は、二人の夏の終着点についた。
ここが駅だとすると、それぞれ、乗り継ぐ電車があっても、不思議じゃない。
息子は、もう、切符を手にしている。新しい夏に向けて。
私は、返信を、打った。
「はい。ぜひ」
十年ぶりの、ドキドキを、感じながら。
iさんの風まかせ文芸部に参加します。
ひとりじゃない
「ひとりじゃない」はこのnote独自の企画のシリーズ名です。
ひとりだと思っても、誰かがそばにいる。そんな物語です。
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