夏の終着点|風まかせ文芸部
その駅の名前は、「夏の終着点」。
時刻表には載っていない。
夏の最後の日。終電のあとに、どこからともなく来る臨時列車が、そこへ運んでくれる。
私は、そのホームに降りたことがある。
あれは、十七歳の、夏の終わり。
そこには、いろいろな夏が落ちていた。必死に、きらめくかのようにして。
燃えかすの線香花火。溶けて棒だけになったアイス。片方だけのビーチサンダル。ひび割れた虫かご。
誰かの、夏。
使い捨てられた夏たちが、ここに、たどり着く。
私は探していた。
夏、伝えられなかった想い。
花火の夜、隣にいたあの人に、言えなかった。わずか三文字の言葉。
ホームのいちばん奥に、それは落ちていた。
小さな光る粒。
拾い上げると、あの夜が、よみがえる。
ひとときの静寂。火薬と彼の汗の匂い。
私は、それを握りしめた。
けれど、その言葉を受け取ってくれる人は、もういない。
言えなかった言葉は、だから、ここに、たどり着いたのだ。
終着点に。
私は、その粒を、そっとホームに戻した。
誰かの夏の抜け殻と一緒に。
ここにあるのが、ふさわしい、あの日。
臨時列車が、汽笛を、鳴らす。
振り返りながら、私は乗り込む。
——現実の、明日へ、帰るために。
まぶたに残るのは、数えきれない光の粒。
もう戻らない私の夏が、ホームの端で、静かに光っていた。
iさんの風まかせ文芸部に参加します。
