ショートショート|信号機ぶどう味
交差点の信号が、紫になった。
赤でも青でもない。深夜二時、車は一台もいないのに、私は横断歩道の手前で止まった。紫の意味を、誰にも習っていない。渡ってはいけないのか、渡ってもよいのか、それとも色とは別の何かなのか。
子どものころ、信号機の形をしたアイスがあった。赤はいちご、黄はレモン、青はメロン。上から順に食べ終えると、渡ってよし、という気分になった。ぶどうはなかった。棒のいちばん下の、何も塗られていないところが、ぶどうだったのかもしれない。
紫は、なかなか変わらなかった。
向かいの歩道に、犬を連れた人がいて、その人も止まっている。私たちは紫の下で、渡らずに、車の来ない道をはさんで向かい合っていた。急ぐ理由は、どちらにもない。ただ、止まる理由も、色のほかにはない。
紫が消えて、青になる。犬が先に歩き出した。
すれ違うとき、その人が小さく言った。
「ぶどう味でしたね」
私はうなずく。口の中に、ほんの少しだけ、甘いものが残っている。
はじめて来た方は、一本目にこのnoteを始めるに至った経緯が書いてある。
同じ棚に、もう一本ある。
