DXの表彰制度と「評価者」のレベルを、いま一度問い直す― DXが“過去の言葉”にならないために、AIPAとRAPAが守るべきもの ―
近年、日本ではDX(デジタルトランスフォーメーション)をめぐる表彰制度が急増しています。経済産業省や業界団体、自治体などが主催するさまざまなアワードが生まれ、企業にとっても評価・称賛される機会が増えたことは確かに良い面もあります。
表彰されることは企業のモチベーション向上につながり、社内外へのPRにもなる。「認定企業」や「DX優良企業」といった肩書が、採用や商談に効くケースもあります。
しかし私は、ここ数年、ある疑問がずっと頭から離れません。
―DXの評価者の「本当のレベル」はどこにあるのか?
そして、その評価は本質を捉えているのか?
多くのDXアワードの評価者には、経営学の権威や大学教授、大企業の役員経験者、著名コンサルタントなど“肩書きとしての権威”を持つ方が名を連ねます。経歴だけ見れば、確かに一流の方々ばかりです。
しかし、この構造そのものに、私はどうしても違和感を覚えます。
■ DXは万能な概念ではない。経営手法の一つにすぎない
そもそもDXとは、魔法のような万能ソリューションではありません。
本来のDXとは、BPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)の延長線上にある“攻めのデジタル化”にすぎず、経営戦略を実行するための手法のひとつに過ぎません。
DXは目的ではない。DXは手段である。
これは、当協会(AIPA・RAPA)が設立以来、繰り返し伝えてきた大原則です。
ところが、現在の世の中ではDXそのものが“神格化”“権威化”されており、
「DXに取り組んでいれば偉い」
「AIツールを導入すればDX」
「見栄えの良い資料が作れればDX」
というような誤解が蔓延しています。
本来のDXとは、企業が売上を伸ばし、利益を残し、生産性を上げ、競争優位を獲得するための“経営の武器”です。
ところが、評価制度が進めば進むほど、DXが「手段」ではなく「目的」になりつつある。この逆転現象こそが最大の問題なのです。
■ 評価者は、現場を知らずして評価できるのか?
表彰制度を見ていて一番気になるのは、評価者が「現場をどこまで理解しているのか」という点です。
多くの評価者は、経営の理論や情報システム、組織論などには明るいでしょう。
しかし、私はこう問いかけたい。
その評価者は“現場で汗をかいた経験”があるだろうか?
製造業の現場で機械の音を聞き、油の匂いを感じながら改善をしたことがあるだろうか?
物流センターで深夜まで荷物を仕分けした経験があるだろうか?
小売店でお客様の反応を見ながら売り場を変えたことがあるだろうか?
経営の現場は、机上の理論だけでは動きません。
DXの成否は、経営トップの意思と現場の当事者性の両方が揃って初めて動きます。
理論に精通しただけの人が、現場に入り、そこで本当に変革が起きているのかを判定することはできません。
高度な知識を持つ教授が悪いわけではありません。
大企業の元経営者が悪いわけでもありません。
しかし、現場を経験していない“権威の評価者”が、いかに理論的に優れていても、
実際の中小企業の泥臭い変革、フィジカルAIを使った現場改善、生産性向上の本質を評価することは難しい。
このギャップこそが、DXアワードの最大の盲点です。
■ DXが「営業トーク化」し、用語そのものが形骸化する未来
最近、とくに強く感じるのは、DXという言葉が“IT企業の営業トーク”に利用されている現状です。
AIを使えばDX
IoTを入れればDX
RPAを使えばDX
クラウド化すればDX
こうした短絡的な提案が氾濫しています。
本来のDXとは、自社のビジネスモデルや市場を理解し、現場の制約条件を読み、データと技術で新しい成長曲線を描く、極めて高度で実践的な経営活動です。
そこには、机上の知識だけでは到達できない“リアルな現場力”が必要です。
もし、DXがこのまま営業トークの言葉として消費されていくのであれば、もう「DX」という言葉は世の中から消え、ただの“過去の流行語”として扱われる未来が来るでしょう。
■ AIPAとRAPAが大切にしている「DXを形骸化させない支援」
AIPAとRAPAが強く意識しているのは、まさにこの点です。
私たちはDXそのものを推進している団体ですが、
同時に“DXを形骸化させないために”支援している団体でもある
という自負があります。
AIPAのAIC(AI・IoTコンサルタント)、や、RAPAのRAD(ロボティクス・オートメーションディレクター)、RAP(ロボティクス・オートメーションプロデューサー)などの資格は、単なる知識証明ではありません。
資格取得後に求められるのは、
● 現場に入り込んで課題を理解する能力
● 企業の経営者と同じ目線で未来を描く能力
● ITではなく“事業”を理解する視点
● データを使い、数字で語る実践力
● 小さな成功を積み上げて転換点を作る力
● 社員を巻き込み企業を変革する推進力
つまり、実践資格です。
これは国の評価制度とは全く異なる価値観を持っています。
表彰制度は「すでにできた成果」を評価する。
しかしAIPAとRAPAは「未来の成果をつくる人材」を育成する。
この違いこそが、当協会が日本のDXを真に前進させるために担うべき役割だと考えています。
■ 表彰制度は否定しない。しかし「DXの本質」を守る必要がある
私は表彰そのものを否定しているわけではありません。
企業にとってモチベーション向上につながることは事実ですし、名誉なことです。
ただし、こう考えるべきです。
・評価者は、本当に現場を理解しているのか?
・DXの本質から逸れた評価軸になっていないか?
・単なる見栄えの良い資料を評価していないか?
・実際に売上や利益、生産性などの“リアルな成果”に寄与しているか?
この軸が曖昧なままでは、DXアワードは“権威化された儀式”に過ぎません。
DXが流行語で終わらず、生きた経営手法として根付くためには、
現場を理解し、経営の伴走者として汗をかける人材が不可欠です。
AIPAとRAPAの使命は、まさにここにあります。
■ DXの未来は厳しい。しかし、本質に立ち返れば必ず進化する
最後に、私の率直な予測を書いておきます。
DXという言葉は、このままでは数年以内に形骸化するでしょう。
すでにその兆候は現れています。
しかし、だからこそ私は、次の時代に向けた“本質的なDX”が必要だと確信しています。
その中心にあるのは、
● AI・IoT・ロボティクス・デジタルツインを融合したフィジカルAI
● 現場を理解し、経営を理解し、技術を理解する専門家
● 企業を変革する実践知
AIPAとRAPAは、この本質を支えるために存在しています。
流行語としてのDXではなく、
“企業の未来を創るDX”
を一社でも多く実現するために、これからも私たちは現場とともに歩み続けます。
